2010年11月18日更新
前回は、環境保全と企業収益の両立について、資源リサイクルを中心にみてきた。一方で今回の地球温暖化対策は、両立のための企業のインセンティブが幾分か担保されているといえる。というのも、電力使用量を低減する省エネ活動は、コスト削減に直接寄与することが少なくないからである。もっとも廃棄物問題に比べて温暖化問題は、因果関係が複雑かつ不確実な側面が否めない。企業の経営者は、表層的な情報に惑わされず、問題の本質を見極める必要がある。
今年1月、国際連合の下部組織「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)は、2007年に公表した第4次評価報告書で、ヒマラヤの氷河が2035年にも消失し、重大な水不足が生じるとした記述の誤りを認めた。これまでIPCCの4度にわたる報告書は、世界各国の温暖化対策の大きな拠り所となってきただけに、衝撃的な出来事となった。
私たちが日常のメディア報道で耳にする温暖化に関する情報の多くは、同報告書を基礎としていると言ってよい。第4次評価報告書では、20世紀後半の気温上昇が人為的に排出された温室効果ガスに起因する可能性の高いことを、気候変動モデルのシミュレーションをもとに初めて明示した点で高く評価されている。21世紀末の段階で、信頼性の高い気温の上昇幅を1.8度から4.0度と推計した。
第4次評価報告書は、世界各国の約500人の主執筆者が草稿の作成にあたり、2000人以上の専門家のレビューを経て公表され、これまで確固たる信頼性を保持してきた。だが残念なことに、同報告書に対する疑念も広がっている。
発端は昨年11月、IPCCの評価報告書作成に関わった英国の主力研究機関のネットワークに何者かが侵入し、1990年代半ばから同研究機関がやり取りをした膨大な量のメイルを公にしたことにある。外部のハッカーによるものか、あるいは内部によるものかは定かでない。
欧米では、温暖化に対する懐疑的立場が少なくない。そうした人々によってメイルの内容が吟味され、かつてのウオーターゲート事件ならぬ”クライメート・ゲート(Climate Gate)“と揶揄(やゆ)されるようになった。そこで信憑性が疑問視されたのが、マイケル・マンらによる「ホッケースティック曲線」であった。
これは、過去1000年の間でおよそ横ばいであった北半球の平均気温が、20世紀後半に入って急激な上昇を示し、その曲線がホッケーで使うスティックに似ていることに由来する。IPCCの第3次評価報告書に掲載されたほか、かつて人為的温暖化を唱える際にしばしば参照されてきた。だが流出したメイルのなかで、この曲線に関して「Trick」があったとの文言がみられ、論争の的となった。
もともと温暖化懐疑説には、根拠に乏しいものも含めて様々なものがある。例えば、20世紀後半以降の温暖化は寒冷期と温暖期のサイクルの一つにすぎないとするもの、あるいは原子力産業などの政策的バイアスが背景にあるとするものまでみられる。先の流出メイルには、温暖化に懐疑的な研究者に対し、「論文を報告書に掲載しない」といった文面もみられたことから、こうした論者の格好の反論の場となった。
これに対し、同研究機関所長はメイルの内容が事実であることを認めながらも、「Trick」とは「新たなデータの追加」を意味し、「ごまかし」ではないと弁明したとされる。その後、事態を重く見た英国議会が調査に乗り出し、流出したメイル等を精査した結果、そこにデータの隠蔽(いんぺい)や改ざんなどの証拠はなかったことを明らかにするに至った。とはいえ、いったん広がった温暖化に対する疑念は根強く、国際協調の足かせの一つにもなっているという。
現在、温暖化について最も信頼性の高いデータは、依然としてIPCCによるものであることに変わりはない。ただし今回の出来事は、社会や経済に多大な影響を及ぼす報告内容については、加工前のデータや解析手法の詳細を開示するなどの透明性を確保すべきことを示唆するものといえる。またバイアスのかかった記述は、温暖化対策を促進するよりもむしろ後退させ、科学的知見に対する社会の信頼を脅かすことになりかねないことを物語っている。IPCCでは運営方式の見直しが議論されているというが、産業界は動向を見届けるべきである。
そもそも地球環境問題は多様であり、トレードオフ関係が生じることも少なくない。かつてオゾン層を破壊するとして特定フロンの製造が禁止され、代替フロンの使用が促された。だがその後、代替フロンには温暖化を促進する影響のあることが判明している。企業経営者は、特定の課題にのみ囚われず、多岐にわたる環境問題の源泉を見定めながら戦略立案を進める必要がある。




























