2010年11月18日更新
衝撃的な出会いだった。チャレンジへの恍惚と不安で熱に浮かされた。日本でまだ、マーケティングが確立されていないプロバスケットボールが、スポーツビジネスの新しい世界を拓(ひら)くと確信した。
「霞ヶ関で偉そうなことを言うより、自分がプレイヤーになろうと決断しました。今は資金繰りにもがいていますが、3年後は優勝を目指して気持ちのいい努力をしているでしょう」
中小企業庁金融課長補佐だった星島 郁洋さん(34)は退路を断った。キャリア官僚を辞めて破綻(はたん)した「高松ファイブアローズ」の再建にかけた。
7月23日、高松ファイブアローズの代表取締役社長に就任した星島さんは、「地元密着型経営」で、チームの支持基盤の安定と拡大のため奔走する。
今年3月、役所を辞めて、ベンチャービジネスに参画しようと決心した。選択肢はいろいろあったが、一番やりがいがあったのもリスクが高かったのも、プロバスケだった。
4月7日、上司の多田 明弘金融課長に誘われ、初めて東京アパッチ対富山グラウジーズとの試合を、代々木競技場第二体育館で見た。
会場に入った瞬間、鳥肌が立った。大音響の激しいビートのリズム。華やかなチアガールが跳ねる、舞う。走り駆け抜ける選手に観客の歓声が沸く。
「ロックコンサートのような熱狂に圧倒されました。ショーアップしたダイナミックな試合にはまってしまって、翌日も見に行きました」
観客を楽しませる仕組みに目を見張った。翌月のファイナル4を観戦した直後、スポーツとエンターテインメントの融合する新しい世界が拓けると確信した。
「6月の初め頃、仕事をしたいとbjリーグの門戸を叩いたら、アローズを経営しませんかと、阿部達也取締役にその場で打診されたんです」
それから3週間、週末に東京から高松へ通った。アローズを運営する「スポーツプロジェクト高松」の関係者に会い、経営破綻の実情を調べた。
「最後は熱が出るほど悩みに悩んで、頭がふらふらになりました」。メインスポンサーだった穴吹工務店関係者がもっていた株式を、すべて星島さんが引き取った。
※bjリーグ
Basketball Japan Leagueの略称。2005年11月5日に開幕した日本初のプロバスケットボールリーグ。株式会社日本プロバスケットボールリーグが運営。
星島さんは、選手やスタッフの給料を払うための資金繰りに追われている。「まだ自分の給料を取る余裕はありません。さすがにそろそろ給料をとらないと生活できません。会社にキャッシュがない時は、僕の財布から出してきましたので、もうほとんど何も残っていないです」
9年3カ月の役所勤めの退職金は151万円。住民税の前払いが32万円で、手取り119万円。「食費の予算は一食200円ほどで、レトルトのカレーや冷凍うどんがメインの献立です」
星島さんは独身だ。結婚していたら役所は辞めていないかもと笑った。「親の反対はないんです。3週間悩んで、阿部取締役に返事をした夜、実家に電話をしたら、職場が近くなると最後は喜んでくれたぐらいです」
星島さんは、高卒で共働きのサラリーマンの両親に、やりたいことをやれと育てられた。
再建計画は、1年目で黒字に、2年目で5000万円の負債を半減、5年目で約1億2000万円の累積損失一掃を目標に掲げた。
運営費は常に見直しを行い、取引先との交渉等によりコストカットを続け、現在は年間約1億1千万円まで圧縮している。これを賄うために、スポンサー収入、チケット収入、ブースタークラブ収入、グッズ販売等を合わせて、計約1億2千万円の収入を確保する計画だ。
とにかくどれだけ多くの観客に来てもらえるかが勝負だ。年間52試合のうち、26試合がホームゲームだが、来年は岡山での公式戦開催も実現したいと考えている。あらたなターゲットである岡山県の人口は199万人。香川と合わせて商圏300万人を想定した。
香川と岡山は、民放テレビの放送エリアが一緒だから、同じニュースが放送される。「チームが活躍すれば、岡山も地元意識で応援してくれる可能性は高い。実際、今でも岡山から来て下さるお客さんも多いんです」
星島さんは岡山市の出身だ。官僚時代の人脈で、役所や財界のコネもある。岡山での存在感を高めるため、商工会議所や同友会、市役所、県庁へアプローチしている。
「多少の紆余曲折はありますが、将来的には、高松を本拠地として、香川県内はもちろん、岡山も含むより広い『瀬戸内』の代表チームを目指します」
300万人の1%が、平均5000円のブースター会員になると、1億5000万円の収入になる。興行収入とスポンサー収入もあるから、リーグでも有数の強豪が作れる。
※ブースター
支援者、援助者。
プロバスケが、地域に貢献できると星島さんは確信している。
「祭りの経済効果と同じで、消費や生産を誘発するエネルギーが生まれます。また、ファイブアローズのブランドが確立すれば、新しい事業を多くの皆様と一緒に展開することができるようになるでしょう」
地縁血縁の共同体が支えた祭りは衰退したが、観る人も一緒に参加するプロバスケは、地域が沸き立つ新しい祭りになる。
星島さんの同世代には、グリー(GREE)、ミクシィ(mixi)、ジョブウェブなど、ベンチャーで成功した人たちが大勢いるが、ホリエモン事件の後の世代は途絶えている。
日本生産性本部やリクルートワークス研究所の統計では、大企業に入って定年まで働きたいという若者が増えて、ベンチャーや、転職してキャリアアップにチャレンジする人が減り続けている。
「ベンチャービジネスは、ある種気が狂うか、勘違いしないとチャレンジできるものではありません。あの人も成功した、俺もできるかもしれないというお手本が、周りにないとだめです」
星島さんは、保守化、草食化する若い世代を挑発する。「霞ヶ関で偉そうなことをいうよりも、一つでも多く、しかも目立つ成功事例を作った方が、日本の経済のためにいいだろうと、自分がプレイヤーになろうと決めました」
キャリア官僚の職を放り投げて、ベンチャーにかける星島さんを意気に感じて、支援する人は香川にも岡山にも多い。
「瀬戸内海という資源を持つ香川と岡山の一体化が進めば、日本を支える有数の経済センターになれます。アローズがその架け橋の1つになりたいんです」
浅黒い精悍な顔が引き締まった。星島さんは大きな目をさらに大きくして言った。
※グリー・ミクシィ
ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)で、2社は2004年に同時期にサービス開始。日本では最も早い時期からサービスを展開しているSNS。
※SNS
Social Network Serviceの略。社会的ネットワークをインターネット上で構築するサービスの事である。代表的なソーシャル・ネットワーキング・サービスとして、日本最大の会員数を持つmixi、モバイル向けのGREE、モバゲータウン、海外では世界最大の会員数を持つFacebook、それに次ぐMySpaceなどがある。
※ジョブウェブ
株式会社ジョブウェブが運営する、転職活動とインターンシップの情報サイトで、企業の採用情報・締め切り情報、インターンシップを行っている企業情報、企業の社長や採用担当の方のブログ・くちこみ情報などが掲載されている。
アローズには、外国人選手が3人しかいない。4、5人いる他チームと比べて不利だと見られているが、「自分たちが頑張らなければ」と、厳しいトレーニングを積んできた日本人選手たちが成果を出している。
「外国人にたよりがちのbjリーグで、主役を張れる日本人選手に恵まれた素晴らしいチームです」
日本の子どもたちのバスケットボールはレベルが高いという。「bjリーグが主催する国際戦では、中学生の日本代表チームとアメリカ代表チームの試合は、日本が圧倒して勝負にならないそうです。高校チームとやってもいい試合をするそうです」
器用で練習熱心な日本チームは、早くからチームとして結果を出し、体は大きくても個人プレーの多いアメリカのチームより、優れた所が多いのではないかと星島さんはいう。
「体が小さくても、ボールハンドリングがうまい人が活躍できるポジションが、バスケにはあります」。プロバスケが盛んになれば、中学、高校から大学チームへ、プロ選手へのコースが出来る。世界で活躍する選手もやがて出てくる。
- 1976年 岡山市生まれ
- 2001年 京都大学卒業
経済産業省入省 - 2005年 アメリカ留学
- 2007年 中小企業庁 金融課 課長補佐
- 2010年 7月 経済産業省を辞職
(株)高松ファイブアローズ 代表取締役就任
| 所在地 | 高松市屋島西町2366-8 銀星ビル1階 TEL 087-818-1588/FAX 087-843-1599 |
|---|---|
| 設立 | 2005年(株式会社スポーツプロジェクト高松として設立) |
| 代表者 | 代表取締役社長兼GM 星島郁洋 |
| 資本金 | 1億円 |
| 業種 | サービス業 |
| 事業内容 | プロバスケットボールチーム運営及び興業 |
「プライムパーソン」は、香川の経済を牽引する企業や香川に拠点を置く企業のトップにスポットを当て、企業理念やその企業に息づく深い歴史、今後の事業展望、また企業のトップパーソン自身の信念なども交え、今をときめく企業の横顔を「人=トップ」を通してお伝えしていきます。



































