2010年12月2日更新
前回みてきた地球温暖化対策は、1992年にブラジルで開かれた地球サミットで、国際合意の基礎が得られた。一方で同サミットを契機に条約が締結されながら、進展の覚束なかったのが生物多様性保護である。もっとも先ごろ、日本がホスト国となった生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)では、先進国と途上国の利害対立を乗り越え、生物資源の利用と生態系保全に関する新ルールが策定された。では、企業経営とこの問題はどのような関係で捉えられるだろうか。
生態系保全をみていくうえで、参考となるのが「土地倫理」(Land Ethic)の概念といえる。これは、米国森林局森林官であったアルド・レオポルドが1940年代に提唱したものである。
彼によれば、原生自然とはヒトが文明という人工物を作りだす素材ではあるが、保護していたはずの動植物の種が消えてしまうのは〈土地〉が病んでいるためであるとする。〈土地〉とは土壌、水、昆虫、動植物などの総称だが、最も重要な機能は「健康」という内在的な自己再生能力であって、この力は有機体の多様性によって担保されるとした。
例えば、土壌は循環するエネルギーの源泉であり、そこで生み出される複雑性が食物連鎖を安定化させる。ところがヒトによって種が破壊されたり、別の種が持ち込まれたりすると〈土地〉の構造を根底から作り変えてしまう。こうして、エネルギー回路の攪乱(かくらん)、蓄積エネルギーの枯渇が生じることとなる。
確かに生存競争や自然変動の結果、35億年とも言われる生命体の歴史のなかで幾多の絶滅を経てきた。しかし現代の問題は、生物種の絶滅のスピードが幾何級数的に加速している点にある。生態学者のノーマン・マイアースによれば、1600年から1900年の間は、4年に1種だった絶滅種の発生が1970年代までに年1種まで進行したという。彼は、地球上の生物種を最大でおよそ1000万としながら、20世紀のその後の絶滅種は年に約4万へと増加すると推定した。主因は、人間の経済活動を通じた森林伐採や乱開発等によるものとされている。
解決の方向性として、先のレオポルドが示すのは、〈土地〉利用の在り方を経済的に好都合か否かのみでなく、有機体の安定性、全体性に沿って評価するとともに、ヒトが〈土地〉と血の通った関係を結ぶことにあるとした。
もともと企業活動は、水、森林、鉱物、動植物や微生物など〈土地〉の恩恵を受けて成り立っている。〈土地〉を持続的に利用できなくなることは、企業にとって大きなリスクとなりかねない。このことに気づき、行動に移す日本企業もみられるようになった。
2009年秋に家電メーカーのシャープは、生物多様性イニシアチブを策定し、2010年度から生態系への影響を管理、評価する新手法を導入した。同社は本社や子会社の及ぼした影響を調達、開発、生産、販売、物流というバリューチェーンに沿って把握するとともに、社会貢献を加えた6つの段階で生物多様性チェックシートを策定した。これらの要素を得点化しながら部門ごとの格付けを行い、進捗度合いを把握しようとしている。
また富士通は、製品‐事業の展開による生態系の損失、事業所の建設等による土地利用への影響、植樹活動などの社会貢献活動による生態系の価値向上という3つの側面について重みづけをしながら評価する。これにより、例えば事業所内の緑化と東南アジアでの植樹とでは、どちらが効果的かといった判断材料を得ることができるという。各社の取り組みは、企業活動のマイナス要素とプラス要素を統合評価しようとする点に特徴がある。電機メーカーを中心に、建設会社などでも独自指標が策定されつつある。
もっとも企業による生態系保全は、まだ始まったばかりである。活動を長期間にわたり継続するには、生態系破壊がなぜ生起せざるを得なかったか、その根本を理解しておく必要がある。
歴史学者のリン・ホワイトは、ヒトが環境問題を引き起こした背景に、西欧の科学技術と絡み合うように発展してきたキリスト教的世界観があるとした。キリスト教の創造神話によると、愛と全能の神は光と闇、天体、地球、すべての動植物を創造し、これらすべてをヒトの利益のために、ヒトに仕えるという目的で造り出したとされる。
ホワイトによれば、このように極めて人間中心的なキリスト教は、ヒトが自分たちのために自然を搾取することが神の意志であると主張した。このため、ヒトが生態系について科学技術を通じて何を成すかは、自然との関係についてもつ我々の考え方に依存しているという。日本でも、明治以降の西欧近代化によって自然征服を無条件に善とする思想が広がり、世界観は一変することとなった。ヒトと生態系との在り方についての「価値」が改めて今、問われている。
環境と経営を考える〈全3回 終了〉




























