2010年12月2日更新
旧日本道路公団が2005年、民営化されネクスコ西日本となった。いわゆる旧ファミリー企業が道路管理を独占していたことなどと批判されていた。
07年、そのファミリー企業だった四国道路エンジニア(株)が、ネクスコ西日本の子会社、西日本高速道路エンジニアリング四国(株)になって、四国の高速道路の管理を任された。親会社からの自立が最大の経営課題だ。
「わが社には、コンクリートも植栽も、設備管理も通信もやれる人材がいます。現場で困ったことが、技術開発のネタなんです。解決策を見つけることが、そのまま新しいビジネスになり、企業価値を高めます」・・・・・・公団のエンジニアから初代社長になって4年目。濱野光司さん(59歳)は、「この3年間にとった特許は4件。申請中と準備中を合わせると23件にもなります」と胸を張る。
※ネクスコ西日本
日本道路公団の民営化により発足した西日本高速道路株式会社の愛称。
「石橋をたたいて渡る。そんな必要もなくなります」・・・・・・開発した新商品、「Jシステム」のキャッチコピーだ。離れた所から撮影した画像で、コンクリートの劣化が診断できる優れモノだ。足場を組まなくても橋梁などのコンクリート構造物の検査が出来る。だから交通規制の必要もない。「安全・高精度・低コスト」の画期的なソフトだ。アメリカやヨーロッパ・韓国などにも国際特許を出願した。
従来の「打音検査」は、壁面をハンマーでたたく手間のかかる作業だった。省力化のため赤外線サーモグラフィを使ったが、精度は低かった。熟練者しか使えなかったので、現場で試行錯誤して、画像の赤・黄・青で損傷度が一目で分かるように改良した。
橋やビルなどコンクリート構造物は、5年に一度の検査が義務付けられている。「Jシステムは、汎用性の高い市場価値のある製品です。瀬戸大橋の検査でも使われています」。濱野社長はうれしそうだ。
「しかし製品以上に誇れるのは、特許を利益に結びつける意識が、社員に生まれたことです」。道路公団だけの仕事をしていたファミリー企業の時代から脱皮しつつあることだ。これまでの苦労は口に出さない。濱野さんは笑顔で話を続ける。
※赤外線サーモグラフィ
対象物から出ている赤外線放射エネルギーを検出し、見かけの温度に変換して、温度分布を画像表示する装置あるいはその方法のこと。
失敗してもやってみる。そんな社風をどうやって根付かせるか。技術開発より時間のかかる人材育成をどうするか。
年に1回、休日の土曜日に285人の社員全員が参加する「業務改善改革発表会」を毎年開催している。去年は、70件以上の発表があった。もっともっと、社員からアイデアが次々出てほしいと、濱野さんは思いつきをいつでも提案できる、「アイデアの投げ込みかご」も作った。
「提案以上に、もっとアイデアをというのは、ぜいたくかもしれません。でも十個種をまいても、一個モノになればいい方です。いつも技術開発の手掛かりを、どん欲に探し続けることが大事です」
また、技術力の向上意識を高めるため今年から3年間の期限付きで、資格取得のインセンティブ制度を始めた。「技術士の資格を取ったら30万円の報奨金を出します。社員の中には資格を五つも六つも持っている人がいます」。濱野さんも総合技術監理部門と建設部門の技術士だ。
※技術士
技術士法に基づく日本の国家資格。有資格者は技術士の称号を使用して、登録した技術部門の技術業務を行える。
「困ったことが、技術開発のネタになります。解決のアイデアは多種多様です。とんとん拍子に進むことも、壁にぶつかることもあります」。何が起きても、濱野さんは楽しそうだ。
トンネル内の照明は黄色のナトリウム灯から白く明るい蛍光灯へと変わってきている。しかし、もっと環境に優しいLED照明の開発に大学や地元企業と共同で挑戦している。試作機が完成し、実用化に向けて取り組んでいる。
ある会社が開発した自動車塗装の仕上げ検査用の計測器は、色の濃さや明度が瞬時にわかる。これを使って、車で走りながら特殊カメラで撮影して、路面やトンネルのひび割れを自動的に検出する機械を開発した。今年3月にテストが終わって、まもなく製品化する。
道路のレーンマーク(路面記号)は1年ぐらいで塗り直す。4車線なら問題はないが、四国の高速道路はまだ2車線が多いから、通行止めが必要だ。1分程度で乾くペンキを、車で走りながら塗るテストに成功して、まもなく実用化できそうだ。出張途中の思いつきだった。
新聞に、台風で信号機や標識が年間に何機も倒れるとあった。支柱が錆(さび)などで劣化していることが原因と考えられるが、損傷を音や振動の波形で調べる方法を2年前から香川高専(旧高松高専)と共同で開発している。
一方で、アイデアはいいが、まだ「卵状態」のモノもある。
バスの運転手さんが道路の異常を見つけたら、ボタンを押す。道路管制センターに情報が届くシステム案だ。パトロール車が1日数回しか巡回できない対策で、高速道路を走るJRバスとタイアップしようと考えたが、今のところ設備投資の費用対効果が見合わないため、実現していない。
路面の補修時期や範囲を、振動測定器を積んだ車を走らせて、乗り心地を数値化して判断できるようにする・・・・・・これはまだアイデアの段階だ。
四国の高速道路は他の地域に比べて規模が小さい。当然エンジニアリング四国の社員も少ない。しかし仕事の範囲と種類は他の地域と同じだ。
「検査や修理の人手に余裕がありませんから、省力化のために工夫します。そのための技術開発です」。省力化した人や時間を、他の業務や技術開発に配分する。会社の競争力を高めるために、絶え間ない技術開発が不可欠だ。
「作業がうまくいかなかったり、遅かったり、採算が合わなかったり、現場にはかならず困ったことがあります。だからネタ探しには苦労しない。気付くかどうかだけなんです。気付けば、技術開発にトライするだけです」
濱野さんの目標は、親会社以外からの売り上げを現在の8.5%から3.5倍の30%にすることだ。しかし一気に市場は開拓できない。技術開発も本業の合間でやるから、簡単には進まない。人材不足で足踏みしている技術開発もたくさんある。
橋やトンネルはゼネコンが作る。四国の高速道路を保守するのはエンジニアリング四国だ。「きちんと施工しても、トンネルのコンクリートは継ぎ目が剥離(はくり)してくる。これはファミリー会社の時代から10年も20年も我社が管理し続けているから分かるんです」
四国の高速道路は、70%の整備が終わった。ビルなら、50年もたてば壊して建て直すが、橋やトンネルはいつまでも使い続ける。
低コストで橋やトンネルを長持ちさせることが、長期的なテーマだ・・・・・・濱野さんの大きな目が動き、輝く。「技術開発」のネタを探し、アイデアを巡らしているサインだ。
濱野さんは就任して1年後に、なんでもやれる会社にしようと、会社の定款を変えた。
「道路のメンテナンスや路肩の草刈りは、雨が降ると作業ができないんです。年間の2、3割もある雨の日を無駄にしないように考えました」
去年からシイタケやブルーベリーの栽培を始めた。シイタケは、くぬぎなどの原木に菌を埋める時と収穫に人手が掛かるだけだし、雨の日でも作業が出来る。
ブルーベリーに実がなるのは7月から9月までだ。道路メンテナンスの作業は、高速道路の利用が多い夏の3カ月を避けるから、人手をブルーベリーの収穫に配置できる。
去年から始めているシイタケ栽培は今年は原木を2000本に増やす計画だし、愛媛県四国中央市で試験栽培しているブルーベリーは、高知の大豊町に移してガラス製のハウス(1700m2)用農地3260m2の借地契約をし、本格的に栽培を開始した。
花の栽培も始める予定だ。サービスエリアのトイレの汚水は、薬品で窒素とリンを中性化して浄化している。「窒素とリンは花の肥料に使えます。トイレに飾る花も自前で作れますし、薬品の使用量も減ります」
文字通りの循環型アグリ事業だ。地産地消で、サービスエリアでも販売できそうだ。
- 1951年 島根県浜田市生まれ
- 1974年 愛媛大学工学部土木工学科 卒業
日本道路公団(現 西日本高速道路株式会社)入社 - 2007年 西日本高速道路エンジニアリング四国
代表取締役社長就任 現在に至る
| 所在地 | 高松市花園町3-1-1 TEL 087-834-1121/FAX 087-831-0150 URL:http://www.w-e-shikoku.co.jp |
|---|---|
| 代表者 | 濱野 光司(はまの みつし) |
| 創業 | 1992年 |
| 資本金 | 6000万円 |
| 売上高 | 55.8億円(2010年3月期) |
| 社員数 | 285人(2010年10月1日現在) |
| グループ会社 | 西日本高速道路(株)、西日本高速道路エンジニアリング関西(株)、西日本高速道路エンジニアリング中国(株)、西日本高速道路エンジニアリング九州(株)、西日本高速道路サービス・ホールディングス(株)、西日本高速道路サービス四国(株)など19社 |
沿革
- 1992年 10月 四国道路エンジニア株式会社設立
- 1999年 8月 ISO9001認証取得
- 2007年 4月 西日本高速道路エンジニアリング四国(株)に社名変更
- 2007年 9月 土木保全作業部門の事業開始
「プライムパーソン」は、香川の経済を牽引する企業や香川に拠点を置く企業のトップにスポットを当て、企業理念やその企業に息づく深い歴史、今後の事業展望、また企業のトップパーソン自身の信念なども交え、今をときめく企業の横顔を「人=トップ」を通してお伝えしていきます。



































