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目からうろこ!BKゼミ

2010年12月16日更新

環境と経営を考える3 生物多様性はなぜ必要か

顧客志向の開発は市場経済に生きるわれわれにとって永遠の真理と言ってよい。顧客の要望を理解し顧客の要望を反映した商品づくりをしなければ、市場経済で存続することはできないからだ。顧客志向はあまりにも明白すぎるために、ややもすれば単なるお題目に堕する危険性があり、それを唱えているだけでは得るものは乏しい。そこでこれから3回のシリーズでは、顧客志向の意味を改めて真正面から考えなおしてみたい。第1回目は、顧客価値の構造、つまり商品やサービスなどの財が顧客に対して提供する価値をどのように理解すればよいのか、ということを考えてみよう。

顧客価値と一言で表現されるのだが、実はより踏み込んで考えると、性質が異なる2種類の価値から構成されていることがわかる。数値化できるものと数値化できないものの2種類である。前者の典型は、性能や機能などであり機能的価値と称される。他方、後者の典型はデザインやブランドなどであり、経験的価値と称される。全ての財の顧客価値は、この2種類の価値から構成されている。液晶テレビの場合、画素数や画面の薄さ、画面サイズなどは数値化できる機能的価値であろう。他方、デザインや高級感、贅沢感などは数値化できない経験的価値である。デジタルカメラや携帯電話、自動車などの顧客価値も同様に2種類の価値から構成されている。

重要なことは、この2種類の価値の性質は次の3点に関して異なっており、それを考慮した開発戦略が必要になるということだ。

第1に機能的価値は数値化できるために、他の製品との優劣の比較が容易であり、その結果、数値化された価値を巡って激しい競争が展開される。他社が1000万画素のデジタルカメラを販売すれば、わが社もその目標に向けて製品開発を焦点化する。他方経験的価値は数値化できないために、他社との比較で優劣を判断することが容易ではない。デザインの良し悪しや高級感、贅沢感などは感覚的部分が大きく、優劣に関して万人を納得させるような基準を持たない。そのため機能的価値に比べて、開発競争が焦点化されることはない。このような違いの結果、機能的価値は経験的価値よりも短時間で急速に向上する。数値化された具体的目標が激しい開発競争を促進するからである。かつて、デジタルカメラで激しい画素数競争が展開されたのはそのためである。

そしてこのような性質の違いが第2の違いを生み出す。それは、機能的価値は急速に向上し、その結果、顧客の要求水準を超えてしまうのだが、経験的価値はそうではないということである。それ以上機能的価値を向上させても、顧客価値は高まらないという状態になる。例えば画素数がほぼ1000万画素を超えると、肉眼では違いをなかなか識別できないと言われている。ということは画素数という機能的価値をそれ以上高めても、顧客はその価値を評価できず、購買行動にはつながらないということを意味する。多くの顧客は1000万画素程度で十分満足するからである。

1000万画素を2000万画素に引き上げるための開発コストは、顧客の評価と購買行動につながらず、収益として報われない可能性が高いのである。要するに優れた技術を組み込んだ良い製品であっても売れるとは限らないということだ。そして機能的価値がこのような飽和状態に達すると、顧客のニーズは機能的価値からデザインなどの経験的価値に移り、それこそが差別化要因になる。

このようにして第3の違いが生まれる。それは、製品ライフサイクルの初期は機能的価値が重要だが、成熟段階に到達すると、機能的価値よりも経験的価値のほうが差別化の源泉になるということだ。つまり機能的価値と経験的価値の相対的重要性は、ライフサイクルに応じて変動する。1995年に最初のデジタルカメラとして発売されたカシオのQV10は、画素数が100万画素に満たなかった。当時のデジタルカメラの画質水準は、まだまだ顧客の要求水準に達していなかったのである。

そのため顧客は画質の向上に価値を見出し、企業は画質向上に向けて画素数競争を展開した。画素数を向上させることが顧客への訴求力を高めたからである。しかし技術水準が向上するにつれて機能的価値は次第に頭打ちし、それに代わってデザインなどの経験的価値がより重要になる。

以前、某テレビ局が放送した番組の中で、携帯端末機器の国内シェア1位から転落した企業の開発部長が、われわれは技術で成功してきたために顧客のニーズが性能からデザインに移ったのに気がつかなかった、と反省の弁を語っていたのが印象的だった。顧客価値は振る舞いが異なる2種類の価値から構成される。機能的価値の向上は必ずしも顧客価値の向上や差別化につながるとは限らない。

特に、技術に自信のある企業ほど、機能的価値が既に頭打ちしてしまったことに気付かずに、依然として機能的価値の向上を追求し続けるという罠に陥りやすいのである。機能的価値と経験的価値の違い、およびそれらの変動パターンを理解することで罠に陥ることを回避できるはずだ。

香川大学大学院地域マネジメント研究科 教授 柴田 友厚

目からうろこ!BKゼミとは

「目からうろこ!BKゼミ」は、香川大学大学院地域マネジメント研究科(香川大学ビジネススクール)の講師陣が、経営に役立つ専門知識や実践的戦略の具体的な実例を紹介し、読者の皆様にビジネスマネジメントの一助となる新たな視点を提供していくことを目指しています。

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