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目からうろこ!BKゼミ

2011年2月3日更新

コンテンツと地域活性化の経済地理学(全4回)1 コンテンツ産業とクリエイティビティ論への招待

映画・ドラマ・アニメなどのいわゆるコンテンツによる地域活性化が注目されている。香川県では、庵治周辺でロケ撮影が行われた映画「世界の中心で愛をさけぶ」がヒットし、ロケ地に多くの人が訪れたことで映画の力を実感した方も多いのではないだろうか。昨年のNHK大河ドラマ「龍馬伝」による高知県への集客効果も大きく、また朝の連ドラ「ゲゲゲの女房」でやはり集客が伸びた境港では、既に10年以上にわたり「ゲゲゲの鬼太郎」のアニメ・映画などの「水木しげる」効果で観光客が増え続けている。今回のシリーズ(全4回)では、こうしたコンテンツによる地域活性化をめぐるポイントを考えていきたい。

映画・ドラマ・アニメなどを生み出し流通させる産業は、国によって文化産業、創造産業、エンターテインメント産業など様々な呼び方がされている。日本では、劇場・テレビ・IT・DVDなど様々なメディアによって伝えられる「中身」という意味での「コンテンツ」という概念を用いたコンテンツ産業という表現が政策的議論で用いられ、一般にも広まっている。わが国のコンテンツ市場規模は約12兆円と推計されており、名目GDPのおよそ2.5%程度を占めている(表参照)。

官民を挙げたコンテンツ振興策は、知的財産戦略本部が2003年7月に発表した「知的財産の創造、保護及び活用に関する推進計画」が起点とされ、その後05年に「コンテンツをいかした文化創造国家」という概念を用いることで、狭い「コンテンツビジネスの振興」から、文化芸術の振興・外交や地域経済活性化への活用などを含めた大きな概念である「コンテンツの振興」へと進化し、ターゲットを拡大させている。実は日本だけでなく他の先進国を含め多くの国がコンテンツ産業に注目し政策支援を行っている。その理由としては、国際的な生産拠点再編により多くの工場が途上国に流出する中で、コンテンツ産業は先進国にとどまり高コストの大都市に立地する傾向が強いため、知識経済化が進行する中で先進国経済を牽引する役割が期待される点が大きいと言える。

ストーパーとクリストファーセンの1980年代の先駆的な研究では、ハリウッドの映画産業が「柔軟な専門化」とよばれる生産システムの典型であるという側面が明らかにされた。柔軟な専門化というのは、大企業の大量生産システムと対比され、製造プロセスでのいろんな専門工程に特化した中小企業が地域的に集中して立地しており、市場の需要に応じて柔軟にネットワークを変えて対応するという生産システムのことであり、日本では大田区の機械工業集積が有名であるが、京都の西陣織や四国中央市の紙産業など、伝統的な地場産業によく見られる。

ハリウッドというとグローバルな巨大企業であるユニバーサル、ディズニーなどのメジャースタジオのイメージが強いので意外に思うかもしれないが、映画プロジェクトの現場には、監督、俳優・女優にカメラや照明などの技術者はもちろん、どんな時代のパトカーも提供できるカーリースや、衣装レンタル業者、小道具、大道具、メーク、最近ではCGなど、高度に専門特化した様々な企業が多く参加しており、80%強が従業員10人未満である。かつてハリウッド映画スタジオは統合型の企業であった。しかし映画に必要な要素をすべて内製化すると、必要ない時期の無駄な維持費がかかってしまう。ハリウッドにさまざまな企業が集積し、独立した専門業者がいろんな映画会社のプロジェクト横断的に、必要な時に必要なものを提供することで、映画会社側はコストが削減できるし、専門業者側も需要を確保している。これらは産業集積論が述べる集積の利益の典型的なものであり、特殊に見える映画産業が実はきわめて一般的な経済原理に沿って動いている側面があると言える。その後2000年代には都市の文化経済に関する研究が盛んになり、コンテンツ産業が大都市に集積する傾向が続いていることが数多く報告されている。

近年、コンテンツ産業などが経済振興と関連づけて議論されるようになったもう一つの要因に、リチャード・フロリダによるクリエイティブクラスの研究の影響がある。フロリダは全米の元気な都市の多様なデータを収集し、どのような変数が経済成長と関係しているかを分析したところ、相関関係がある非常に興味深い変数を見出した。そこには特許などで測られるイノベーションの数や外国人の数とともに、ゲイやレズビアンの数が含まれていた。筆者は2001年に自身初めてアメリカの学会で研究発表した際に、フロリダ氏の研究発表を聞いたのだが、何を言い出すのかと一瞬目が点になった。その議論はゲイやレズビアンが直接経済を活性化するという単純なものではなく、経済を活性化させるクリエイティブな人、外国人、ゲイ・レズビアンをひきつける地域には、共通の要素として異端に対する「寛容性」があるというものである。すごい発明・発見をする人というのは、どこか他人と違った発想や考え方をすることがあり、そうした異端の人を温かく迎えてくれる場所は、同時に社会の異端者である外国人やゲイ・レズビアンの人々も住みやすい。寛容性がある場所に異端なクリエイティブな人が集まり、結果として経済を活性化させることになるという。寛容性(Tolerance)、才能(Talent)、技術(Technology)という3つのTを結びつけ、いかなる都市が才能あるクリエイティブな人々をひきつけて成長を継続させているかを論じたクリエイティブクラス論は、従来型の企業の立地論ではなく、(才能ある)人の立地論として、地域経済をめぐる政策論や企業経営の分野に大きな影響を与えるに至っている。

ただし、クリエイティブクラス論も万能ではない。UCLAのアラン・スコット教授は、クリエイティブな人々をただ連れて来るだけでは不十分であり、クリエイティブな人々が適切にクリエイティビティを発揮できるような地域的生産システムが発達しなくてはいけないと指摘している。これらは鶏と卵のようなところがあるが、両者を視野に入れた総合的な取り組みが求められると言える。

以上のようなコンテンツ産業やクリエイティビティをめぐる議論は、大都市を中心的な対象として発達してきた。現実には地方都市においてもコンテンツやクリエイティビティに関する興味深い動きがあるのだが、それはフロンティアとして残されていた。次回からは、地方におけるコンテンツやクリエイティビティに関する論点を、身近な例を見ながら考えていくことにしたい。

香川大学大学院地域マネジメント研究科 准教授 原 真志

目からうろこ!BKゼミとは

「目からうろこ!BKゼミ」は、香川大学大学院地域マネジメント研究科(香川大学ビジネススクール)の講師陣が、経営に役立つ専門知識や実践的戦略の具体的な実例を紹介し、読者の皆様にビジネスマネジメントの一助となる新たな視点を提供していくことを目指しています。

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