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目からうろこ!BKゼミ

2011年2月17日更新

コンテンツと地域活性化の経済地理学(全4回)2 日本映画の復活とフィルムコミッション

前回は、コンテンツ産業とクリエイティビティに関する従来の研究および政策の流れを簡単に述べたが、そこで紹介したクリエイティブクラス論に関係する実践的(?)応用問題を一つ。アメリカの初めて訪れた都市でおいしいレストランを見つけるにはどうすればいいか。答えは、その都市でゲイやレズビアンが集まっている地区はどこかを聞いて、そこで探す。筆者は米国の友人の結婚式出席のためシアトルを初めて訪れた時、この方法を試してみて大正解。とてもかっこいい「女性」がサーブしてくれる感じのいいお店を見つけ、家内とリーズナブルでおいしいランチを楽しんだ。でも日本ではこうはいかないから、理論の有効範囲と限界にご注意を。今回は近年の日本映画とロケ誘致について見ていきたい。

2000年代いわゆるゼロ年代には日本映画に2つの変化があったと指摘できる。第一は市場での日本映画の復活、第二はフィルムコミッションの登場・拡大である。先日、2010年の日本の映画興行収入が前年比7.1%増の2207億3700万円となり、過去最高を記録したことが発表された(一般社団法人日本映画製作者連盟)。3D映画のヒットが牽引していることが指摘される一方、3年連続で日本映画が外国映画を上回っており、日本映画の好調ぶりが数字の上でも表れている(左図参照)。90年代中頃まで映画興行収入が長期低落傾向にあり、2000年には日本映画が外国映画の約半分の興行収入だったことからすると隔世の感がある。

邦画の復権に香川県出身の本広克行監督の「踊る大捜査線」シリーズが与えた影響が大きいとも言われている。しかし、物事には表と裏がある。日本映画が好調であるという流れの中で、日本映画の製作本数が増加した。90年代後半から2000年前後までは年間280本程度の水準だったのが、ゼロ年代後半には400本を超えている。バブル的に映画製作本数が増えたが、中小の映画会社がつくる中低規模予算映画の中には十分な観客を獲得できず、あるいは劇場公開も不十分なまま消えていく作品も多く、配給の壁が存在し、その結果、倒産する映画会社も出てきている。他方、09年に大手三社(東宝、松竹、東映)の製作した映画は67本で全体の約15%に過ぎないが、興行収入の約83%を占めているし(「映画ビジネスデータブック〈2009-2010〉」キネマ旬報社)、東宝は10年の年間興行収入が過去最高を記録した。日本映画は二極化が進んでいると言える。筆者が昨年のロサンゼルス調査の際、米国での映画公開で来ていてインタビューした黒沢清監督は言っている。「日本映画が好調なことはいいことだし、できることならヒットさせたいと思わないことはない。しかし、最近の状況はヒットしない映画は映画ではないという雰囲気がある。それはいかがなものか」

こうした傾向は外国映画の上映にも影響を与えており、地味だが良質の海外の映画が上映しにくい、ヒットしにくい状況が生まれ、外国映画の配給を手掛ける会社も倒産を余儀なくされるケースが出ている。米国では観客が字幕に慣れておらず、外国映画がヒットしにくい市場環境にあるが、日本では東京などの大都市で、1980年代後半以降いわゆる単館上映と言われる映画館が増加し、日本だけでなく様々な国のいい作品をしゃれた空間で見る機会が増えていった。いわば多様性を許容する「寛容な」世界的にも珍しい常設映画市場が出現していたと言える。近年の日本映画のヒットは喜ばしいが、多様性を殺す結果になると次のクリエイティビティの芽を摘むことになる。UCLAのアラン・スコット教授は、音楽と同様に映画も市場をメジャー映画が支配する時期とインデペンデント映画が盛り返す時期が交互に訪れることを指摘している。ハリウッドでも大作ものが幅を利かすがすぐに飽きられ、常に新たな試みが流れを生むところにダイナミズムの秘密がある。全体としての日本映画の好調を、継続的に多様なクリエイティビティが生まれ活かされるビジネス環境づくりにつなげないといけないだろう。

日本映画が復活していく流れと並行して、日本ではゼロ年代に各地でフィルムコミッションがつくられていった。製作映画本数が増えればロケ地も増えるのでフィルムコミッションが必要とされる機会が多くなる。両者がコインの表裏のように進行したのも偶然ではない。映画やテレビドラマなどを、屋内のスタジオでなく、屋外の実在の場所で撮影することをロケーション撮影(ロケ撮影、ロケ)、その撮影場所をロケ地と言う。フィルムコミッションというのは、ロケを誘致するために組織された公的機関であり、母体は自治体・観光協会など色々だが、いずれもロケ地候補の情報提供、エキストラの募集など、様々な支援を行う。日本では公式の最初のフィルムコミッションは2000年2月に大阪で設立され、現在では200を超えている。ロケ撮影が行われると、スタッフの宿泊・食事などの消費、公開後のロケ地への観光客の集客など地域へのさまざまな経済効果が期待される。

四国経済産業局は徳島でロケが行われた映画「眉山」の経済波及効果を約26億円〜36億円と推計している(四国経済産業局「映画を活用した地域の賑わい創出及びロケ受入による経済効果等測定事業実施報告書」2008年3月)。香川県では、01年と全国でも早い時期にフィルムコミッション事業が開始されている。フィルムコミッションの努力と地域の人々の協力によって香川県でロケが行われた04年公開の映画「世界の中心で愛をさけぶ」がヒットし、庵治周辺のロケ地に多くのファンが訪れたため、ロケに使われた写真館が一端壊された後に復元されるに至った。その後も、「UDON」「ぼくとママの黄色い自転車」「きな子」「レオニー」など多くの映画が県内でロケを行っている。韓国テレビドラマ「IRIS」がヒットし、秋田県での韓国人のべ宿泊者数が10年1月に6000人を上回って通常の3倍以上となりIRIS効果と呼ばれた。ロケ誘致と観光集客の動きも国際的になっており、現在、香川県でも日韓ドラマのロケ誘致が官民をあげて進められている。

映画ロケの誘致は一定の成果をあげているが、映画プロジェクトの開発が外で行われていて、動き出した映画プロジェクトのロケを誘致するという限り、地域の側は受け身である。いわば工場を地方に誘致するのと似ており、外発的な経済発展と言えるが、それは意思決定主体が地域外にあることに難点があるため、最近の地域経済政策は産学官連携や大学発ベンチャーなどをテコにして地域資源を活かす内発的経済発展を重視している。筆者は、受け身のロケ誘致を映画と地域の関係のVer1.0と呼んでいるが、これからは地域がより主体的な役割を果たす一歩踏み込んだVer2.0に進み、より深い広範なシナジー効果を探求する時期に来ていると考えている。次回は、そうした新しい映画と地域の関係の方向性を見ていきたい。

香川大学大学院地域マネジメント研究科 准教授 原 真志

目からうろこ!BKゼミとは

「目からうろこ!BKゼミ」は、香川大学大学院地域マネジメント研究科(香川大学ビジネススクール)の講師陣が、経営に役立つ専門知識や実践的戦略の具体的な実例を紹介し、読者の皆様にビジネスマネジメントの一助となる新たな視点を提供していくことを目指しています。

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