2011年3月3日更新
フィルムコミッションの活躍によるロケ誘致と、それによる直接的な経済効果について前回触れた。それに加え、ロケ誘致にはもう一つ見逃すことができない間接的な社会的効果があることを述べておきたい。
近年、地域活性化あるいは地域での様々な取り組みを成功させる要素として、地域に対する愛着、あるいはシビックプライドといったものが重要視されて来ている。それは、現実には日本の地方では地元にはたいしたものは何もないと否定的な地域イメージを持つ人が多いことの裏返しである。地元でロケをした映画を見て驚くのは、普段見慣れた日常の中の風景が、映画というフィルターで効果的に切り取られ提示されると、全く違って見えてくることである。筆者もロケ地だった庵治の近くに住んでいるが「世界の中心で愛をさけぶ」を見て、馴染みの景色が違って見える経験をした。ロケが多い香川で同じような経験をした人は少なくないのではないだろうか。何もないと思っていた地域が、むしろまんざら捨てたものではないという目で見ることが出来るようになる。自分の住んでいる身近な世界を違った角度から肯定的にとらえる、それは地域をよくするための大きな第一歩であり、様々な地域振興の基礎となるソーシャルキャピタルを形成していると言える。今回は、前回指摘した映画と地域の関係のVer2.0の一つとして、当たり前過ぎてなかなか活用できていない地域資源に、映画を契機として新たなスポットライトを当てる可能性を、香川でロケをした映画をめぐるケースを通して見ていきたい。
「世界の中心で愛をさけぶ」で人生が変わった女性がロケ地だった庵治にいる。同映画ロケを契機として、庵治石で映画に関連するグッズを開発・販売するベンチャー企業「ななみ屋」を2004年に立ち上げた滝内志保さんである。最初は、映画公開後にロケ地にやって来た人々と話をしていて、ジュースも買う場所がなくて困っているということで、まずジュース販売を始めた。さらにせっかくなので映画に関連するものを記念に買って帰りたいのですが何かないですかと聞かれた滝内さんは、そうしたものが何もないことに気がつき、まずは公開中に映画館で販売していた映画グッズの販売をさせてもらえないかと、東宝にかけあい、認めてもらって販売することになった。できることなら、庵治に来てくれる人に、ここには庵治石という素晴らしいものがあるからそれを知ってもらいたいと、庵治石で映画関連グッズをつくって販売することを思いついた滝内さんは、さらに東宝と交渉し、どんな形なら認められるかを相談し教えてもらいながら、庵治石フォトスタンドなどいくつか製品化することができた。
04年5月に映画公開された後、8月から05年11月まで、すなわち庵治に観光交流館が出来るまでの間、基本的には土曜・日曜・祝日のみ防波堤で一人で営業を行い、ゴールデンウイークには20万円売上げた日もあったという。ロケ地を訪れた人々との会話の中からニーズに気がつき、映画と地場産業を結びつける着想を、映画配給大手の東宝との交渉の中で、しなやかに具体化していった非常に興味深いケースである。その後、滝内さんは、庵治石を活かして知的障害者を雇用するNPO法人「はじめの一歩」を立ち上げるなど地域で精力的に活動を続けている。
2010年春には男木島・女木島でロケが行われた映画「めおん」が県内で公開された。この映画は地元の人々の協力を得てつくられ、1800人を観客動員して公開映画館ホールソレイユ2の記録を更新したが、この映画にも地域資源と映画のコラボレーションの興味深い試みが見られる。島の特産品であるタコとピーナッツを組み合わせた実際には存在しない「タコピー」というスナック菓子が映画の中にさりげなく登場するのである。何となく気になるもので、試作品を映画公開に合わせて劇場に200個用意したところ、大好評で即日完売してしまった。製造コストの削減が課題だという。
また、「めおん」には、やはり実際には存在しないこだわりシェフによるイタリアンレストランが登場する。目の前が海の好立地でアットホームな雰囲気、さらに実在しなかったタイラギのスープという料理がストーリーのちょっとしたアクセントとして使われる。映画を見た人からは、あんなレストランないの?あればいいのに、という反響が多数寄せられた。映画にはプロダクトプレースメントという広告手法がある。映画のシーンに、さりげなく(場合によっては露骨に)商品をロゴが分かる形で登場させることで広告収入を得るもので、パソコン、携帯電話、清涼飲料水など思い当たる人も多いのではないだろうか。これは実在する商品の宣伝に映画を活用するものだが、「めおん」の試みは、その一歩先を行っている。実在しないレストランや地域資源を活かした商品などを試しに映画に登場させて、観客の反応を調べ、新商品・新規ビジネスの市場性のシミュレーションが出来るというものであり、いろんな応用の可能性が考えられる。タイラギのスープは、最初は監督の無責任なアイデアであったが、その後実際に作られて食べることが出来るようになったそうである。
地域が映画プロジェクトの開発段階から主体的に参加することの一つは、こうした様々な地域資源を映画に活用する道を探るということである。また地域の様々な要素が入ることで、地域的に盛り上がり、映画が注目されて成功する確率も高まる。香川大学ビジネススクールで昨年4月に「めおん」の野村プロデューサー&監督や赤澤監督をお招きして開催した公開イベントでは、様々な可能性をぶつけてみた。本研究科の院生でベンチャーゲノム社長でもある大西正泰氏が地域の素材・熟練の技を結集して開発した新商品「さぬきパスタ」のプレゼンに対して、赤澤監督は開口一番、「いつ出来たんですか、知っていたら映画に使いましたよ!」。めおんスタッフがアドシネマとよぶ方法には地域とのコラボレーションのいろんな可能性の萌芽があると言える。
地域にはさまざまな課題があり、地域活性化の取り組みが行われているが、情報発信能力に欠けるなどの構造的問題もある。映画にはそうした問題を克服できる可能性がある。また映画産業にも前回指摘したように全体に好調な数字の裏で中小の映画会社が倒産しており配給を始めとする構造的問題がある。実は地域的な取り組みを進めることで逆にその問題を解決する糸口があると筆者は考えている(右図参照)。映画と地域の両者を効果的に結びつけ、映画ベースの地域活性化、地域ベースの映画活性化を同時に探求する能力と知恵と仕組みが求められている。




























