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目からうろこ!BKゼミ

2011年3月17日更新

コンテンツと地域活性化の経済地理学(全4回)4 映画ベースの地域活性化と地域ベースの映画活性化

前回最後に述べた映画の課題の克服に地域の力が貢献できるというのは、どういうことか。映画ベースの地域活性化、地域ベースの映画活性化という視点から、最終回では「真に地域に根ざした作品づくり」と「映画配給の問題」の2つを取り上げつつ、地域ぐるみの取り組みを考えていきたい。

ハリウッド映画に描かれる日本を見て、どこか違うと違和感を持つ人は少なくないのではないだろうか。最近では「硫黄島からの手紙」のような例外もあるが、表面的、ステレオタイプだったりして、すんなりと受け入れられないものが多い。東京の人が香川を題材につくった映画を見ると、同じような感覚に陥ることがある。瀬戸の島々、温暖な気候、さぬきうどん、お遍路さん、間違いではないが、底が浅い。あるいは香川でロケをしているが、別に鹿児島でも、山形でも、どこでも成り立つストーリーが多い。今や見る人も目が肥えている。エセ地域ものでは誰も満足しない。その地域の風土、歴史、文化に根ざして、そうした環境だからこその、地域に根ざした感覚があり、そこに住み、働き、生きることから来る喜怒哀楽がある。「踊る大捜査線」の織田裕二演じる青島刑事の有名なセリフに習ってこう言えるのでは。「面白い話は東京の会議室で起きているんじゃない、地域の現場で起きているんだ!」。山形の土地に根ざした下級武士についての優れた藤沢周平原作を映画化した山田洋二監督作品群などは、時代劇ではあるが、そうした視点からの一つのモデルと言える。数年前にアカデミー賞の作品賞候補になり、最優秀脚色賞を受賞した米国映画「サイドウェイ」は、サンタバーバラ周辺のワイナリーをロケ地とし、ワインの種類の個性と登場人物の個性がうまく重なり、地域の要素が映画の中で絶妙な要素として活かされて、楽しくも味わい深い作品になっている。

南カリフォルニア大学はジョージ・ルーカスも卒業している名門大学である。その演劇スクールのベリーナ・ハス・ヒューストン教授は劇作家であり、いわゆる戦争花嫁を題材にした「ティー」などの作品で数々の賞を受賞しているが、彼女の現場主義の作風を活かし今年度に新たに始めたグローバル・ドラマティック・ライティングという授業では、ロサンゼルスの土地の利を活用して、ある異文化についてまず可能な限りの現地調査を行い、その文化の現場感覚を吸収させ、その上で脚本作成を行っている。こうした演劇の脚本教育の新しい試みに、地域に本当に根ざした映画づくりのヒントがある。地域のことをきちんと考えることは、必ずしも制約条件ではなく、地域のオーセンティシティ(本物)をベースに新たなクリエイティビティ(創造性)を発揮できるのではないだろうか。

しかし、いい作品が必ずしもヒットするとは限らない。そこに映画配給の問題がある。アメリカでは映画公開の第一週が最も興行収入が多く、第二週は必ず減る。避けられないので、減る割合をいかに小さく抑えたかどうかで大ヒットになるかが予測される。映画は生ものである。大ヒットをねらう映画は3000スクリーン以上が用意され、パワーマーケティングによって、多くの宣伝費をかけてメディア露出を行い、第一週の観客動員を図る。映画づくりそれ自体にかかる費用に加え、P&Aがほぼ同額必要と言われる(図参照)。Pはプリント、すなわち劇場で上映するフィルムをつくる費用であり、Aはアドバータイジング、つまり宣伝の費用である。P&Aが高いことは映画市場が大手の寡占となる一因でもある。PとAを削減し、その効果を別の形で代替し実現する工夫が出来るなら、新たな映画ビジネスの方法論となる。

実はPについては、デジタル上映の普及が進み、条件が大きく変化しつつある。これまで地方の小さな映画館はPの負担が出来ないから、大都市の上映が終わって物理的にフィルムが回ってくるのを待っていた。デジタル上映なら、Pの費用が格段に減るから、東京でヒットしているという情報が入ったら、すぐ次の週にでも上映可能になる(全く無料ではないが)。ただし、現在は設備投資力の差で、大手の系列を中心にデジタル化が進展しているので、中小の映画館にどのくらいデジタル上映の設備が整うかは大きな課題である。ここにも地域が知恵をしぼるべき点がある。また、中小の映画づくりの現場ではデジタル化がすでに進展しているのに、従来そうした映画を上映していた単館映画館がデジタル化できてなくて上映できないというミスマッチが起こっている。

巨額なPを代替する興味深い事例は東京のアニメの単館上映に見られる。「空の境界」というアニメは、なかなか上映館が決まらなかったが、やっとある映画館でレイトショーでのみ上映することになった。1カ月の間、毎日、劇場前に行列が出来る状態となり、メディアも無視できず取り上げて騒ぎ始めた。ロングランし、他の上映館も増えていった。

実は、香川を起点として100万人が見たという知られざる大ヒット映画があることをご存じだろうか。香川ロケをした映画「レオニー」の松井久子監督の「折り梅」である。「すべてのはじまりは、1998年の4月、四国・香川県からだった」(松井久子著『ターニングポイント』2004年、講談社)。松井監督の第1作「ユキエ」はアルツハイマーを扱い、かつ戦争花嫁の夫婦の話であった。ボケ老人をかかえる家族の会・夕映えの会の藤田浩子さんは、琴平で開催された試写会に最初は参加することを躊躇していたが、実際に「ユキエ」を見て感動し、高松で上映会を開催して3200人を集めた。そのことが契機となって松井久子監督の映画を見る動きが広がり、第2作の「折り梅」は100万人が見た。日本アカデミー賞最優秀作品賞の「フラガール」と同じレベルだが、自主上映が主で映画劇場公開をベースとした統計には表れず、隠れた大ヒット映画なのである。いい映画を見たいと思う人は確実にいるのだが、効果的に宣伝する方法がなくターゲットとする層に短期間で浸透できないと予測されると上映されない。第3作の「レオニー」を支える組織マイレオニー代表の斎藤弘美さんの「生協活動と同じなんです」という言葉は興味深い。無農薬野菜などと同じで、いいものが流通の論理で手に入らないというなら、自分たちの力で実現しようということである。いい映画を見たい人に届ける、ヒットさせるには配給の壁を乗り越える起爆剤が要る。地域ぐるみの取り組みでその壁を乗り越える工夫が求められている。

音楽産業では映画より一足先に地域ベースの新人発掘と発信のモデルの成功例がある。映画は音楽より複雑だが、解決すべき問題は明確になってきており、ツールや条件も整備されてきている。香川にはロケ誘致の実績もあるし、四国はまとまりがよく、経済界、公共部門、NPO、大学などが叡智(えいち)を結集するのに適している。産官学が共同で取り組み、映画と地域の新たなパートナーシップを構築し、大きな実を結ばせるとしたら、このタイミングでこの場所ではないだろうか。 (了)

香川大学大学院地域マネジメント研究科 准教授 原 真志

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「目からうろこ!BKゼミ」は、香川大学大学院地域マネジメント研究科(香川大学ビジネススクール)の講師陣が、経営に役立つ専門知識や実践的戦略の具体的な実例を紹介し、読者の皆様にビジネスマネジメントの一助となる新たな視点を提供していくことを目指しています。

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