2011年5月5日更新
100年続いた菓子問屋を廃業、倉庫跡にベーグルの製造工場を建てた。大阪の業者に貸す算段が、先方の都合で下請け工場になった。1年半後にその相手が倒産した。
親戚や友人などから軽率だったと批判された。経営方針が不満で辞めた社員もいた。苦楽を共にすると言ってくれた社員もいた。マコーズファクトリー社長の吉野正晃さん(47)は、撤退か継続か悩み苦しんだ。
「会社の倒産で迷惑をかけたので、もっと美味しいベーグルを作って、職人としての筋(すじ)を通したい」・・・ベーグルの製造技術を指導してくれた潰れた会社の社員、岡山博之さん(38)は意外な事を言った。吉野さんは腹をくくった。苦労をかけた社員に報いるために、会社を存続発展させるために、経営者と職人は出直すことにした。
※ベーグル
パンの一種。小麦粉の生地を輪の形にして発酵させ、ゆでた後に焼いて作る。
通常パンで使用されるバター(油類)、卵、牛乳を生地に使用していないので脂肪分やコレステロールが低い。冷凍保存なら7カ月程度保存できる
吉野さんの実家は創業1907年の菓子問屋だった。大学を出て日本ハム(株)に2年勤めた後、家業を継いだが、商社系大手問屋の進出で2007年に廃業した。
大阪のベーグル製造販売会社の社長が、大学の顔見知りだった。「工場を建てて貸す計画だったんです。それが下請け工場としてやることになって、製品を納めていたら、突然相手が倒産したんです」
工場の設備やベーグルの製造技術を指導したのが岡山さんだった。「吉野社長に大変な迷惑をかけたことを後で知りました。それで自分だけでも筋道を通そうと思ったんです」。間をおいて照れくさそうに言った。「大阪で仕事を見つける方が楽かもしれません。でもこちらの会社で頑張る方がカッコいいでしょう・・・」
岡山さんは、社員にとって会社の存続がいちばん大事だと、潰れてからわかった。「もっと売り上げをあげていたら、もう少しみんなで頑張っていたら、なんとかなったはずです」
潰れた会社でやり残したことへの再挑戦と、技術を教えた職人としての責任感。そのストイックな気迫が吉野さんを決断させた。
「会社を存続発展させて、苦労させた社員に報いることが私の仕事です」。吉野さんは岡山さんを工場長として招いた。経営者と職人がスクラムを組んだ。
ベーグルの基本は卵やバターを使わない。小麦粉と砂糖、塩、パン酵母を発酵させて、ゆで上げて焼くだけだ。マコーズファクトリーの工場では、アメリカ製の機械で製造するが、発酵やゆでる工程は手作業だ。
「気温や湿度の違いで、生地の発酵度合いが変わります。ゆで具合は一個ずつ手の感触で判断しないと美味しいものはできません」
岡山さんは頑固な職人だ。「8時間かけて作った4000個のベーグルが気に入らなくて、全部やり直したこともあります」
他のパンに比べて水分が少ないベーグルは、冷凍保存できるから全国に出荷、販売できる。手作業の工程が欠かせないから、大手業者との競争にも強い。
岡山さんが作るものより、美味しいベーグルが2カ所あるという。それを超えるベーグルを、いかに安く、多く作れるかの挑戦だ。
去年、特産品の掘り起こしを図る「かがわ県産品コンクール」に、白みそや伊吹島イリコのベーグルを出品した。
「イリコとベーグルはミスマッチの感じですが、イリコがアンチョビのイメージなら違和感はありません。小豆島のガーリックオリーブオイルで食べたら、美味しいという人もいます」
チーズフォンデュの隠し味にも使う白みそを、チーズと組み合せてベーグルにした。チーズが勝って、白みその特徴が出てこない。
白みそとバターを混ぜてラスクに塗ってみたら、劣化が早く日持ちがしない。
「アイデアが面白くても、おいしくても、わが社独自の細菌基準をクリアするのが難しいんです」。イリコも白味噌も賛否両論で、商品化はまだだ。
※かがわ県産品コンクール
販路開拓に意欲的な県内事業者・生産者から、優れた香川県産品を募集するコンクール。かがわ県産品振興協議会主催。
新商品は、思惑が外れることも多い。美味しいと思った「キャラメルココナッツ」が売れず、あまり売れないかなと思った穀物入り「ミックスグレイン」が売れた。
「お客さんから見れば、『キャラメルココナッツ』はベーグルというよりお菓子ですが、『ミックスグレイン』はヘルシーなベーグルそのものなんです」
3カ月限定のベーグルで、お客さんの反応をみている。「いま伊吹産チリメンジャコのベーグルを出していますが、まずまずです。次は6月からレモンティベーグルですが、売れるかどうかスリルがあります。結構楽しいですよ」。売れなかった場合に備えたレシピも用意している。
「ベーグルは、食感が硬いとよく言われますが、電子レンジやトースターですこし温めると柔らかくなります」。添加物を使えば柔らかくなるし長期保存もできるから、作り手に便利だが・・・「召し上がって頂く側のことを考えるのが、作り手側のいちばん大事なことです」。商品開発はお客さんが決めるのだ。
吉野さんは、かがわ農商工ファンド事業の支援を受けて、香川の食材にこだわったべーグルの開発を目指している。
「レモンのベーグルは去年の瀬戸内国際芸術祭で評判でした。米粉や希少糖のベーグルも開発中です。果物や野菜、海産物など、主に地元食材を使う約300レシピがあります」
果物では、三豊市の農家の主婦でつくる「大地と語り合う会」(多田弘美会長)と、ボイセンベリーのベーグルを共同開発中だ。
ポリフェノールやビタミン、ミネラルを多く含むボイセンベリーは、欧米で人気のある健康志向フルーツで、「大地と語り合う会」が、06年から栽培を始めた三豊市の特産品だ。
「減農薬、有機栽培のボイセンベリーと、動物性油脂を使わないベーグルの組み合わせですが、ボイセンベリーの風味を生かすのにひと工夫いります」。ヘルシーで美味しいボイセンベリーベーグルの商品化はもうすぐだ。
※希少糖
自然界に存在量が少ない糖類で、約50種類が知られている。香川大を中心とするグループがブドウ糖から大量生産する技術を開発、ダイエット食品や医薬品などへの応用研究が進む。
※かがわ農商工ファンド事業
財団法人かがわ産業支援財団が行う、中小企業と農林漁業者の連携する事業への助成。
※ボイセンベリー
ブラックベリーとラズベリーの交配種とも、野生ベリー種の突然変異とも言われ、起源が明らかになっていない。
※ラズベリー・ブラックベリー
バラ科キイチゴ属に属するいくつかの種の低木、およびその果実。
吉野さんは、菓子問屋の人脈を活かしてゼロから販路を拓いた。量販店やデパート、生協関係、全国のカフェ店、ネット販売、有名ベーカリーや高級スーパーのOEMも開拓した。まだ市場規模は小さいがニーズは確実にふえている。
ベーグル開発のコンセプトは「健康と美容」だ。「日本で売られ始めてまだ十数年で、知らない人が多いんです。これから食への関心が強い女性に向けて、健康や美容に良くて美味しいベーグルをどんどん開発していきます」
苦労をかけた社員に報いるために。迷惑をかけた取引先に筋を通すために。経営者と職人の再挑戦が、今、ようやく実り始めた。
※OEM
相手先ブランド製品の製造。
ベーグルの本場では、ヘルシー志向のニューヨーカーに人気がある。吉野さんがニューヨークで食べ歩いたベーグルは、一個200グラムほどの大きさだった。
日本のベーグルは一個100グラムほどだが、もちもち感や歯ごたえがあるので、普通のパンより食べ応えがある。
ベーグルはドーナツ型が定番だ。「女性や子供には1個食べきれないというので、20グラム程度の、サイコロ型べーグル『プチベー』を開発しました」
ソーセージに生地を巻きつけたベーグルドッグも好評だ。「ベーグルはサンドウィッチにして休日のブランチに食べるというイメージがありますが、調理するのが面倒という方にも、もっと身近に感じて欲しかったんです」
ベーグルの形もお客さんが決めるのだ。岡山さんは頑固な職人だが、既成観念にとらわれない。
- 1963年 高松市生まれ
- 1987年 香川大学卒業
- 1987年 日本ハム株式会社入社
- 1989年 同社退社
- 1989年 株式会社吉野屋入社
(後に社名変更 株式会社ヨシノ) - 2007年 マコーズファクトリー設立
代表取締役に就任 - 現在に至る
| 所在地 |
高松市川部町1494番地8
TEL 087-816-0070/FAX 087-886-8521
URL:http://www.macous.co.jp/
【東京支店】 ウイークエンドブランチ モザイク銀座阪急店 東京都中央区銀座5−2−1 モザイク銀座阪急3F TEL 03-3575-2098/FAX 03-3571-6366 |
|---|---|
| 設立 | 2007年 |
| 資本金 | 200万円 |
| 代表者 | 代表取締役 吉野正晃 |
| 従業員 | 正社員7名・パート22名(2011年3月現在) |
| 事業内容 | ベーグル・イングリッシュマフィン製造販売・飲食店経営 |
「プライムパーソン」は、香川の経済を牽引する企業や香川に拠点を置く企業のトップにスポットを当て、企業理念やその企業に息づく深い歴史、今後の事業展望、また企業のトップパーソン自身の信念なども交え、今をときめく企業の横顔を「人=トップ」を通してお伝えしていきます。




































