2011年5月19日更新
私たちが住んでいる「まち」は、様々な要因によって日々変容しています。事実、朝の通勤途中などに工事現場を見ない日はないといってもいいくらいです。こういった「まちの変容」は、そこに暮らす私たちにとって望ましい方向に向かっているといえるでしょうか。今回のシリーズ(全4回)では、高松や四国地域等における事例を挙げながら、こういった問題を考えていきたいと思います。
ところで、「まちの変容が望ましい方向に向かう」、あるいは「まちが良くなる」とはいったいどういうことでしょうか。これはなかなか難しい問題です。なぜなら、ある「まちの変化」が、特定の人々には得をもたらすけれども、その他の人々には損をもたらすということはよくあるからです。典型的な例としては、ごみ処理場の建設が挙げられます。ごみ処理場から遠く離れたところに住む人にとっては得かもしれませんが、近くに住む人にとっては騒音や悪臭などによって生活上大きな不利益を被る可能性があるからです。さて、このような場合、ごみ処理場の建設はまちを良くすると言えるでしょうか。
実は、この問題に対する解答は一つではありません。倫理的にどのような立場に立つかによって解答が異なってきます。このことを詳しく述べる余裕は今回ありませんので、興味がある方は最近ベストセラーになったハーバード大学のマイケル・サンデル教授の著書などを読んでみて下さい。ここでは、「一つの解答」のみを紹介します。それは、「まちの変化がもたらした得の合計が、まちの変化がもたらした損の合計を上回るならば、その変化を良しとしよう」という考え方です。これを功利主義の考え方といいます。
どう思われたでしょうか。「そのあたりが妥当なところか」と思われた人もいるかもしれません。しかし、「それでは得をする人はいいが、損をする人がかわいそうだ」と思われた人もたくさんいるのではないでしょうか。にもかかわらず、この考え方は一定程度支持されており、私たちの社会の制度においても採用されています。それは、公共事業の評価において義務付けられている、「費用対効果分析」、「費用便益分析」などと呼ばれているものです。
これらの分析手法は、大雑把に言って次のようなものです。当該事業がもたらす便益Bと費用Cを、円単位で推計します。先ほどのごみ処理場の例でいえば、新しい施設ができることで関係地域におけるごみ処理費用が削減できると考えられます。新しい施設は一般に処理能力が高いですし、そうでなくても施設が増えることでごみの平均輸送費用が下げられるからです。これらの処理費用削減額が便益Bに相当します。
一方、費用Cには当然施設の建設・運営・維持費用が入ってきます。しかし、それだけではありません。建設にともなって貴重な自然を失うことになるとすれば、その喪失費用も入りますし、騒音や悪臭等の公害が以前より増えるのだとしたら、その公害の費用も勘定しなくてはなりません。このような環境に関わる費用をいかに円単位で推計するかというのは、それ自体大きな問題ですが、それができたとすれば、費用便益分析の下す結論は明快です。便益が費用を上回れば、すなわち「B/C>1」が成立すれば、その事業は実施する価値があるというものです。読者の方の中には、B/C(ビー・バイ・シー)という言葉を聞いたことがある人もおられるのではないでしょうか。
この価値判断に、先に述べた功利主義の考え方を用いていることは明らかでしょう。なぜなら、ここでいう便益Bや費用Cというのは、あくまで社会全体で集計した値をいっているのであって、各個人が受けるBやCを見ているわけではないからです。それではなぜこのような功利主義の考え方が採用されているのでしょうか。
第一の理由は、総便益が総費用を上回るならば、仮に損をする(費用を被る)人が出たとしても、得をした人たちでその損失を補うことで、結果的に皆が損をしなくて済むと考えられるからです。第二に、そのような補償が事業ごとに行われなかったとしても、様々な事業が次々と行われるような都市部においては、自分の子孫の世代までの長期の期間で考えれば、功利主義の基準で事業を採択していくことでほとんどの人が得をするだろうと考えられるからです。
しかしこのように言うと、行われる事業が少ない僻地ならばどうか、子孫がいない、あるいは同じ地域に住む可能性が低いならばどうか、というような疑問が生じます。したがって結論をいえば、やはり「(1)集計したBやCを見る」だけでなく、可能な限り「(2)BやCの配分先に目を配る」必要があるということです。経済学では(1)のような評価を「効率性」の評価と呼び、(2)のような評価を「公平性」の評価と呼んでいます。このシリーズでは、この経済学の評価軸に基づき、都市・地域開発に関するいくつかのトピックを効率性と公平性の両面から考えてみたいと思います。次回は、高松市でも議論が盛んなコンパクト・シティ政策の話題を取り上げたいと思います。




























