2011年6月2日更新
コンパクト・シティ政策が注目を集めています。コンパクト・シティとは一言でいえば、「外延的な開発を抑制し、主に公共交通や徒歩による移動を前提として、生活に必要な機能が一定距離内で充足される都市」ということになるでしょうか。これは元々ヨーロッパで生まれた都市政策モデルですが、現在ではわが国でも、高松市をはじめ、青森市、富山市、北九州市などが推進しています。このような政策が立案されるということは、その裏返しとして「現状の都市は大きすぎる」という認識があるからに他なりません。しかし、この認識が正しいとしたら、どのような理由によって都市は過大になっているのでしょうか。
その最も大きな理由は、「郊外部に住むことの費用が安すぎる」ことにあるといえます。「安すぎる」などというと、「安くて何がいけない」と叱られそうですが、ここでは「支払うべき費用を住民が支払っていない」と理解して下さい。具体的に考えてみましょう。第一に、郊外居住はマイカー利用を前提としたライフスタイルです。そして、ご承知のとおり自動車の排気ガスは、地球温暖化をはじめ環境悪化の一因となっています。彼らはまずその費用を支払っていません。また、マイカー交通はその特性から、場所と時間によっては多大な混雑を発生させます。郊外に住むマイカー通勤者はこの混雑という社会問題を生み出しているにもかかわらず、やはりその費用を支払っていません。第二に、郊外を新たに開発して住むということは、その場所に新たなインフラが必要になることを意味します。しかしながら、日本の現在の制度の下では、開発業者や居住者がそのための費用を十分負担するようなシステムになっていません。第三に、このような新規開発が貴重な自然・資源を喪失させることがあったとしても、やはり現行の制度の下では、彼らがその費用を十分負担するようにはなっていません。
逆にこれらの費用支払いがルール化されている社会を考えてみましょう。マイカー利用が高コストになれば、あるいはインフラ整備費や環境損失費が郊外住宅の価格に上乗せされるとすれば、公共交通の利便性の高い既成市街地に人々の足は向かうでしょう。欧米でもこれらすべての費用をルール化している都市は少ないですが、ロンドンのロード・プライシング(混雑税)や米国の都市などで行われているインパクト・フィー(インフラ整備のための税)は、ルール化の一例と言えるでしょう。
つまり、コンパクト・シティに向けて何よりまず取り組まなければならないことは、こういった社会的な費用支払いのルール化です。環境やインフラといったものは特定の個人に帰属するものでないため、それに負担をかけたとしても直接文句を言ってくる人はいません。ですから、これらの費用は政府が「税金」という形で金額を提示し、徴収する必要があるのです。
いかにコンパクトな都市を実現するかというときに、しばしば言われるのが郊外部の開発規制です。これに関していえば、香川県は全国的に注目を集めている地域となっています。それは、2004年に線引き制度を廃止し、開発を原則禁じるエリアである「市街化調整区域」を持たない県となったからです。それでは、コンパクト・シティを実現する上で、こういった開発規制は再び必要になるのでしょうか。
この点については相当に留意する必要があると思われます。この問題を、例の二つの評価軸(効率性と公平性)に基づいて考えてみましょう。まず、効率性の観点からいえば、開発規制は税制よりも劣っているということになります。例えば、先に挙げた自動車の過利用を考えてみましょう。税制によって自動車の利用費用(例えばガソリン代)を上げれば、その利用が抑制されるのは間違いありません。それでは、開発規制によって自動車の利用は減るでしょうか。香川県におけるかつての線引きが教えてくれたことは、開発規制エリアを設けると、居住費用の安いさらにその外側に立地を促し、通勤等の移動を長距離化させることで、かえって自動車利用を増加させる可能性があるということです。開発規制によって都市のサイズや自動車利用をコントロールすることは予想以上に困難なのです。
次に、公平性の観点から考えてみましょう。税制は、「支払うべき費用を住民が支払う」制度でしたから、受益者が負担をする公平な制度といえます。一方、開発規制についてはそれが成立しませんので、この点においても税制が望ましいといえます。しかし、公平性の問題については、実はもっと大きな問題が潜んでいます。それは、どちらの制度を用いるにせよ、都市のコンパクト化は、「都市内に土地を持つ地主」をより豊かにするが、「所得の低い交通弱者」についてはかえって不幸にするかもしれないという事実です。なぜなら、都市のコンパクト化は、都市内の地価、家賃を上昇させるからです。交通弱者に優しいことがコンパクト・シティの利点だったはずですが、所得の低い交通弱者は、公共交通の利便性が高い「よい場所」に住むことができず、結局家賃上昇の不利益だけを被る可能性が高くなるというわけです。したがって、公平性の観点でより重要なのは、上記で述べてきたような税金や、あるいは不動産への税金を活用して、これらの格差を縮小することにあると思われます。




























