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目からうろこ!BKゼミ

2011年6月16日更新

都市と地域の開発を考える(全4回)3 テクノポリス計画が夢見たもの

わが国の人口分布はよく一極集中型と言われます。実際、日本の総人口は約1億2700万人で世界第10位ですが、東京都市圏の人口は約3700万人で、2位のデリー都市圏(約2200万人)を大きく引き離し、世界1位となっています(国連の統計による)。総人口の3割近くが東京都市圏に住んでいる勘定になり、しかもその数は戦後ほぼ一貫して増え続けています。このような背景から、日本の国土計画においては「均衡ある発展」という看板が幾度となく掲げられ、企業の分散化を意図した産業立地政策が数多くなされてきました。テクノポリス計画もその一つです。

テクノポリス計画とは、1983年の高度技術工業集積地域開発促進法に基づいて行われた計画で、当時の先端技術分野(コンピューター関連、医薬品等)の企業を、三大都市圏以外の地域に誘致することを目的とした計画です。全国で26の地域が選定され、インフラや研究機関の整備、補助金政策など様々な手段が誘致のためにとられました。高松市林町にある「香川インテリジェントパーク」もこの計画を契機に生まれたものです。テクノポリス計画が策定された当時は、日本経済自体がとても元気があった頃ですから、その果実が地方にももたらされることに多くの人が期待を寄せていたに違いありません。

しかし、当初の期待とは裏腹に、多くのテクノポリスは思うような結果を出すことができませんでした。松山大学の鈴木茂教授の調査研究によれば、対象地域における目標出荷額の平均達成率は1990年で71.6%、1995年には49.7%だったということです。もちろんその背景には、急速な円高進行にともなう日本企業の海外進出、バブル経済の崩壊とデフレ不況といった日本経済全体に対するマイナス要因があったことは事実です。しかし、計画の状況を追った調査報告を読むと、問題はもっと根深いことがうかがわれます。そこでは、地方に進出した企業の多くは経営が不安定な中小企業で撤退・倒産した企業も少なくない、技術労働者の不足が事業拡大の上で大きな制約となっている、単純労働力指向型の産業・企業の受け皿となった可能性が強い、といったことが明らかにされており、本質的な分散化には程遠い状況であることが分かってきたのです。

莫大な資金・資源を投じたにも関わらず、本質的な分散化に至らない。その理由については当時、学術的な説明が十分なされたわけではありませんでした。しかし、1990年前後より急速に発展してきた「空間経済学」という学問分野は、そのメカニズムを明らかにしつつあります。「空間経済学」とは、ポール・クルーグマン・プリンストン大学教授や藤田昌久・京都大学名誉教授らが創始した経済学の新しい一分野です。この分野の新しさは、そもそも人々や企業の立地が不均一なのは様々な意味での資源が不均一に分布していることにのみ起因しているのではなく、(資源の分布がたとえ均一だったとしても)人々や企業の「意思決定」の相互作用として創発されることを経済学的に明らかにした点にあります。限られた紙面でこの最先端の分野を詳細に説明することはできませんので、これまでに得られている空間経済学の知見を箇条書き的に挙げたいと思います。

第一に、交通基盤の整備・発展による輸送費の低下は、企業や人口を限られた地域に集積させること。輸送費が高い状況では、一次産業従事者のように土地にしばられた消費者にモノを供給するため企業はある程度分散立地しますが、輸送費が低くなると企業は少しでも大きな市場に立地しようとし、土地にしばられない消費者は多様な企業が立地するその場所に魅力を感じ集まってくるからです(図を参照)。

第二に、この集積過程においては、人口や実質所得の意味で地域間格差が拡大しますが、その集積は過大で、集積の程度を緩和する方が(地域間の公平性という意味だけでなく)効率性の観点から望ましい可能性があるということ。第三に、大きな市場から得られる利益は生産性が高い企業ほど大きいため、補助金等で企業誘致を行ったとしても、生産性の低い企業が地方部に誘致される可能性が高いこと。第四に、地域繁栄の鍵は企業を集めることより、技術を持った「人」を集める点にあること。なお、これらの知見の一部は、田渕隆俊・東京大学教授や、大久保敏弘・慶応義塾大学准教授など、日本人の研究者の貢献によるものであることを申し添えておきます。

このように空間経済学の知見は、テクノポリス政策がもたらした結果をうまく説明しているのですが、それは同時に地方部活性化の青写真を描くことが容易でないことも意味しています。しかし、いくつかの可能性を見ることはできそうです。第一に、これまでのように企業を分散化させるという発想ではなく、人材を分散化させるという発想です。これ自体容易でないことは空間経済学も示していることですが、これまでの分散化政策は産業用インフラ、法人税軽減など、企業の視点にあまりにも傾いてきたようです。そうではなく、住む人の視点から地域づくりを考えるということです。例えば、進学や就職時に、どうしたら優秀な人材が地域にとどまってくれるかを真剣に考えなくてはなりません。加えて、現在の中央集権的な体制を改めることも必要だと思われます。「真のテクノポリス」を目指すためには、どんな業種であれ、地域に頭脳を、価値を生み出すパワーを持つことが重要なのです。

香川大学大学院地域マネジメント研究科 教授 髙塚 創

目からうろこ!BKゼミとは

「目からうろこ!BKゼミ」は、香川大学大学院地域マネジメント研究科(香川大学ビジネススクール)の講師陣が、経営に役立つ専門知識や実践的戦略の具体的な実例を紹介し、読者の皆様にビジネスマネジメントの一助となる新たな視点を提供していくことを目指しています。

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