2011年7月7日更新
競争相手は、製紙メーカー系の大手企業だ。資本力も技術もコストも、人材もかなわない。しかし、負けないものがある・・・・・・「おもしろい」と「スピード」に賭ける意気込みだ。
富士ダンボール工業(株)の発想は、段ボールの限界を超えている。実物大の「坊っちゃん列車」、カヌー、F1カーや棺おけまでもつくる。その技術が主力製品に生かされる。
「能力をアピールできる場、舞台を社員の全員に与えます。チャンスをものにしようと、みんな一生懸命役割を演じてくれます」。代表取締役社長の本田 展稔(のぶとし)さん(60)は、照明係で、演出家で、本田劇場の館主でもある。
舞台の社員にスポットライトが当たる。熱演が会社全体に循環する。みんなが明日の主役を目指す。劇のタイトルは、社員の意欲と活力を呼び覚ます〝放し飼い経営〟だという。
※坊っちゃん列車
夏目漱石の小説「坊っちゃん」に登場する汽車。レプリカが松山市駅前~道後温泉間で運行されている。
※F1カー
フォーミュラカーのこと。「車輪とドライバーがむき出しになっている」フォーミュラ(規格)で設計されたレーシングカー。
主力製品は一般用段ボール箱やうどん用ケース、緩衝材(かんしょうざい)に重量材荷造り用などだ。付加価値がないと大手とのコスト競争に勝ち目はない。本田さんの勝つためのキーワードは・・・・・・。
「おもしろいこと」は、夢中になり時間を忘れること。
「おもしろいやつ」は、ほめ言葉。
「おもしろい会社」は、取引したい相手。
だから、「おもしろい方法」には、新しさや付加価値がある。
本田さんは、「おもしろい」を切り口にして、ユーザーの作業効率や商品の保護性、販促にも役立つ段ボール箱の開発を目指した。
「段ボールの限界を考えるなと言って包装設計者を育てたら、どんどんいろんなものを考え出してくれて、包装以外の市場が開けたんです」
2004年に開設した包装設計開発室が、新規事業に発展した。約20メートル四方の巨大迷路や高さ約3メートルの電車の滑り台、恐竜の骨格模型などが、東京や各地の商業施設のイベントで使われ評判になった。10年、「ダンボール素材工作キット」を製造発売するhacomo(ハコモ)株式会社を設立した。
※包装設計
段ボールや紙製の包装や流通用の箱を、商品の見栄えを良くし、輸送で壊れないように、コンパクトにまとめる設計。
段ボール箱は、商品を保護するために、発泡スチロールや気泡シートが緩衝材に使われる。「酒ビン専用の段ボール箱は、箱の構造でクッション機能を持たせてビンが割れないようにしました」。クッション部分も段ボールだから、節約できる。
役目を終えた段ボールは資源ごみになる。 「セシールさん専用の段ボールは、ストッキングなど商品を取り出した後、折りたたみ式のおもちゃ、牛などの動物になります」
「おもしろい」発想で開発に取り組む本田さんだが、「段ボールを資源ごみに出す時、頑丈すぎて困る。壊しやすくして」と奥さんに注文を付けられた。
「素材を薄くして、構造で強度をあげると壊しやすいし、原料の紙も少なくて済みます。体積も小さくなりますから、ユーザーにも歓迎されます。でも、それには高度な設計技術が必要なんです」
コンパクトで、丈夫。その上壊しやすい。そんな段ボール箱を、いま開発中だ。
避難生活でプライバシーを保つ災害用間仕切りを、5年ほど前から地元の自治体に発売している。「ダンボールはクッション性と保温性があります。間仕切りにもなるし、床にも敷けます」
災害用間仕切りは、平常時は無用の長物だ。普段でも活用できないか見直しを始めた。「子供達に大人気の迷路は、イベントが終われば分解して、次の会場で組み立てます。何度も使えます。これを災害用間仕切りに応用するアイデアです」
本田さんは、大震災の悲劇に思いを巡らせながら、段ボールが復興に役立つ可能性を確信する。
1948年、父の本田稔さんが製盆業を創業。55年、手袋用木箱の製造を始めた。57年、段ボールの製造を開始して富士ダンボール工業を設立した。
「売り上げの90%が手袋向けでした。だんだん手袋工場が海外に出ていくので、他のユーザーの開拓を始めたんです」
75年、本田さんは、勤めていた大手の段ボールメーカーを辞めて入社した。「第二次石油ショックの後遺症で、売り上げは下がるし赤字になるし、潰れるかと思いました」
会社は機械化の流れに乗り遅れていた。
「職人気質の父は、『汗水流してものを作れ、楽したらいかん』というやりかたで、営業力もありませんでした」。父の反対を押して機械化を進めた。人づくりに力を入れた。「おもしろい」のキーワードで、市場を開拓した。
「高度な品質を要求される医薬品や、柔軟な発想で設計した電子機器やリチウムイオン電池などのダンボールケースは、包装設計技術と先端機械設備の成果です」
顧客が求める、包装技術のレベルはますます高くなる。機械化と人づくりでそれに応えた。入社のころ2億数千万円だった売り上げが、2009年ごろ、約20億円になった。
工場の一角に、「製造道場」とドアに書かれた部屋がある。「責任者が、この方がおもしろいと製造管理室をそう名付けたんです」
いつもより早く出勤したとき、包装設計開発室に社員たちがいた。「みんな早いな」と声をかけたら徹夜だった。
「小屋から解き放たれて、地面を自由に走り回って草や虫をついばむ鶏の卵は、おいしいです。社員が自由に発想、仕事に取り組める環境ができたら、会社もおもしろくなるはずです」。本田さんは力を込める。
「チャンスという舞台で、原作もシナリオも、主役も自分たちでやる。部門長が決裁して、社長には事後報告するというやり方です」。失敗のリスクは社員に負わせない。責任は社長がとる・・・・・・本田さんは〝放し飼い経営〟と表現した。平均年齢は30代後半、工場は大学のサークル活動のような雰囲気だ。
「問題なのはむしろ失敗しないことです。再挑戦する者には二度でも三度でも、次の舞台を用意します」
観客の拍手喝采で、俳優の風格は大きくなる。舞台に立つ社員に、使命感と意欲が生まれる。
人事制度の骨格は、能力・実績・人格の評価だ。個人評価と組織の和は、両立が難しい。「良い評価は個人の利益です。それをお互いの利益へ、組織の総利益へ循環させるんです」
本田さんは人格を重視する。「中小企業は会社の空気づくりが大事です。そのためのいちばん大きなポイントは、人格の評価です」
人格とは、感謝の心だと本田さんは考えている。「みんなの協力で仕事ができる。自分の成果はみんなのおかげだ。そう思える人物を部門長にしています。人格が組織を一つにするんです」
仕事の場を舞台にたとえる本田さんは、芝居の演出家だ。「その部門では、私より社員たちのほうが有能です。だからチャンスを与えるんです」
「おもしろい」で未来を創れ!「スピード」で他社に差をつけろ!・・・舞台の熱演が、〝放し飼い経営〟で目覚めたバイタリティーが、オンリーワンの新しい段ボール箱を創る。
段ボール業界は成熟産業で、市場は縮小気味だ。「95%以上がリサイクルされる、環境にやさしい素材だから、包装以外の用途をもっと開拓すれば需要は増えると思います」
普通の段ボール箱は、重さ50キロぐらいまで収納できる。それ以上は木材だ。「大きさは人間が入れるぐらいまで、たとえは悪いですが棺おけサイズです」
本気で段ボールの棺おけを作ったことがある。木を薄くスライスしたツキ板を張って立派にできたが、葬儀社の社長から「段ボールとキリの棺おけと、あなたはどちらに入りたいですか」と聞かれた。諦めた。
熱効率が良いのでよく焼けるが、時期が早かった。欧米では段ボールの棺おけが売れているというし、ペット用はすでにあるそうだ。
- 1951年 東かがわ市(旧大内町三本松)生まれ
- 1974年 芦屋大学卒業
本州段ボール工業(株)入社 - 1975年 富士ダンボール工業(株)入社
- 1994年 代表取締役社長に就任
| 所在地 | 東かがわ市湊1858 TEL 0879-25-2381/FAX 0879-25-2385 URL:http://www.fujidanball.co.jp |
|---|---|
| 創業 | 1948年 |
| 設立 | 1957年 |
| 資本金 | 4000万円 |
| 従業員 | 80名 |
| 事業内容 | 包装設計、デザイン企画、パッケージコンサルタント、ダンボールケース製造・販売、特殊強化3層ダンボール製造・販売、印刷紙器、包装資材、包装物流機器販売 |
| 事業所 | 三本松工場(東かがわ市横内)、愛媛工場(西条市壬生川) |
公職・褒章
- 香川経済同友会 副代表幹事
- 東かがわ市商工会 理事 工業振興委員会委員長
- 香川県防衛協会 監事
- 元(社)東かがわ青年会議所 理事長
- 他に社会福祉法人の役員など
沿革
- 1948年 創業者 本田稔が製盆業を創業
- 1955年 木箱製造を三本松(東かがわ市)で始める
- 1957年 ダンボールの製造を開始し、 富士ダンボール工業(株)設立(資本金500万円)
- 1963年 白鳥町(東かがわ市)に新工場を建設、本社移転
- 1978年 資本金4000万円に増資
- 1994年 本田展稔が社長に就任
- 2003年 IS09001認証取得
- 2004年 包装設計開発室設置・TVチャンピオン出場(テレビ東京)
香川県経営革新企業認定 - 2005年 日本包装技術協会 グッドパッケージング賞受賞
- 2007年 ダンボールキットhacomoシリーズ発売開始
- 2008年 三本松工場・愛媛工場開設
- 2009年 hacomoシリーズがキッズデザイン賞
(キッズデザイン協議会主催)を受賞 - 2011年 経済産業局 地域資源活用新事業認定
「プライムパーソン」は、香川の経済を牽引する企業や香川に拠点を置く企業のトップにスポットを当て、企業理念やその企業に息づく深い歴史、今後の事業展望、また企業のトップパーソン自身の信念なども交え、今をときめく企業の横顔を「人=トップ」を通してお伝えしていきます。




































