2011年7月21日更新
目の前に広がる瀬戸内海。そして島々の間をゆっくりと行き交うフェリーやタンカー。まるでこの空間だけ、時が止まってしまったかのようだ。
四国の最北端・庵治半島のほぼ先端に位置する庵治観光ホテル。代表取締役の金井淳三さん、そして金井さんを支える支配人の森林壽さんは、何度も何度もこの言葉を繰り返す。
「とにかくいいところなんです」
瀬戸内海とともに歩む一軒家老舗温泉旅館。この場所にはきょうも緩やかな時間が流れている。
高松市庵治町の『あじ温泉 庵治観光ホテル海のやどり』。高台にあるホテルからの眺めはまさに絶景。天気が良ければ、小豆島、豊島、大島など、大小30以上の島々を見ることもできる。それはまるで瀬戸内海を独り占めしたかのよう。金井さんも、その美しさに魅せられたひとりだ。
「潮の流れで、1日に7回も海の色が変わるんです。この眺めを一度見たら、また来たくなるんですね。お客さんで一番多いのはリピーターです」
庵治観光ホテルは1963年、香川で最も古い温泉旅館として誕生した。しかし客足は伸びず、やがて経営難に。そこで99年、高松市内で別の旅館を経営していた金井さんが倒産寸前のところで経営に参加した。
「高松市の中心部では、120軒以上の旅館がしのぎを削っています。しかしここは1軒だけ。しかもこのロケーションと海の幸がある。不安は全くなかったですね。逆に〝後光がさしている〟とさえ感じていました」
老舗旅館再生へ―。金井さんがまず最初に行ったのは〝PR〟だ。
「関西を中心にパンフレットを100万枚ばら撒きました」
お客さんが来ないのは、単に〝知られていない〟から。そう考えた金井さんは、新聞の折り込みチラシや広告などに約500万円を投下。さらに旅行代理店には、通常10%支払う手数料をプラス5%の15%にして、ツアーなどの商品を大きく取り扱ってもらった。
瀬戸内海のオーシャンビューが楽しめる客室や露天風呂。それに、毎朝庵治港に水揚げされる種類豊富な海の幸。ホテルの利用客は高めの年齢層が多く、そのお客さんが何より喜ぶのが新鮮な刺身だった。
思惑はずばり的中。前年約7500万円だった売り上げが、1年で倍増した。
傾いていた香川最古の温泉旅館は、瀬戸内海と海の幸で、体勢を立て直した。
今年も夏がやってきた。金井さんにとって最も楽しみな季節のひとつだ。
庵治観光ホテルの夏は、若者たちのにぎやかな声が響く。声の主は、部活動やサークル活動の合宿で香川にやってきた学生たちだ。
「『ただいま』って戻ってきてくれるんです。『お帰り』って迎えるのが何よりうれしいですね」
ホテルを訪れるのはお遍路さんやゴルフ客、それに庵治周辺の地元客も多い。金井さんは客層を広げようとユニークなサービスを始めた。〝送迎〟だ。
自然豊かなロケーションは大きな強みだが、裏を返せば、市街地までが遠いということ。そこでホテルでは送迎用のバスを5台確保。グラウンドや体育館など公共施設の予約を代行し、その練習場所へ学生たちを無料送迎することにした。時には練習場の整備までやることもある。
野球、サッカー、柔道・・・全国から学生たちがやってきた。大学1年から4年まで、毎年来てくれる学生もいた。
このサービスは評判になり、学生たちだけにとどまらず、高松市やその周辺で開催されるスポーツ大会などに出場する小中学校のチームも泊まってくれるようになった。
金井さんの信念は「絶対にお客さんを喜ばせてみせる」。そうすればきっと「戻ってきてくれる」―。利用客の約6割を占めるのがリピーターだというのもうなずける。
ホテル下の海岸近くに、明治元年に建てられた古民家がある。「佇まいを残したまま改装して、家族客などに別荘として利用してもらおうと思っています」
また、災害時には避難場所として敷地を提供するほか、〝地産地消〟料理をもっと開発したい、周辺の海で釣り堀を作りたい・・・金井さんにはやりたいことがまだまだある。
「将来、敷地内に介護老人保健施設を作りたいと思っています。もちろん瀬戸内海を見渡せて、温泉を引いて、周りには桜の木をいっぱい植えて・・・喜ばれることをやりたい、ただそれだけなんですよね」
来月69歳になる金井さん。その情熱は今なお、加速することをやめない。
「海、港、レトロ感たっぷりのホテルの建物・・・日本の原風景がここにはあると思うんです」
こう語るのは、別の観光ホテルで長年支配人を務めていた森林壽さん(上写真左)。古くからの知り合いだった金井さんとの縁で、去年4月、庵治観光ホテルの支配人に就いた。
「スポーツ体験やゴルフ、釣り、クルージングなどを付けたセット商品や、お客さんのニーズに合った料理・・・様々なことにチャレンジしたいですね」

| 所在地 | 高松市庵治町5494番地 TEL:087-871-3141 / FAX:087-871-2494 URL:http://www.ajiuminoyadori.com/ |
|---|---|
| 資本金 | 3000万円 |
| 従業員数 | 27人 |
沿革
- 1962年 株式会社三松 設立
- 1973年 旅館みまつ(高松市通町)開業
- 1989年 四国高松温泉 ニューグランデみまつ 開業
- 1999年 庵治観光ホテル 買収
あじ温泉 庵治観光ホテル 海のやどり 開業































