2011年10月20日更新
~夏場の海外旅行 円高メリットと震災の自粛反動で伸びる~
日本政府観光局(JNTO)の資料によると、日本人の8月の出国者数は179万2000人(前年比9.1%増、推計値)と過去最高水準を記録した。3月11日に発生した東日本大震災以降、日本人の出国者数は前年同月割れが続いていたが、7月は146万9000人(同4.5%増、推計値)と震災後初めて前年比プラスに転じ、震災の影響が薄れている。
震災や福島原発事故で大きく落ち込んだ海外旅行需要だが、 〝歴史的な円高〟や消費の自粛疲れを背景に回復してきたようだ。さらに、ANAやJALなど国内大手航空会社がLCC(格安航空会社)に本格参入を表明し、海外旅行マーケットの回復が急ピッチで進んでいる。
主要旅行会社での海外旅行申込は、円高メリットで「安・近・短」需要客の取り込みに成功している。 一方、中小旅行会社では円高の恩恵はあるが、消費マインドの冷え込みで苦戦が続いている。急成長するLCCは徐々に浸透しているが、一部の旅行会社では扱いに消極的な姿勢を崩していないことがわかった。
東京商工リサーチ(TSR)では主な旅行会社50社を対象に、円高が顕著となった2011年7月~8月末の海外旅行の申込状況、LCCの取り扱いなど海外旅行に関するアンケート調査を行った。調査は11年1月31日に続き2回目。
11年7月~8月末の旅行会社50社の海外旅行申込は、回復局面が鮮明になってきた。10年同時期より「増えた」(9社・構成比18.0%)と「やや増えた」(16社・同32.0%)との回答が25社(同50.0%)と半数を占めた。
一方、「やや減った」(8社・同16.0%)、「減った」(6社・同12.0%)の回答は14社(同28.0%)にとどまった。「微増」あるいは「微減」の範囲内にある「あまり変わらない」は11社(同22.0%)だった。「あまり変わらない」の11社を除く39社でみると、増加傾向が64.1%を占め、海外旅行の回復の兆しがみえてきた。

年商100億円以上では「あまり変わらない」を含め、10社が改善傾向をみせており、申し込みが比較的順調だった。年商10億円以上100億円未満では「増えた」と「やや増えた」が12社に対して、「減った」と「やや減った」は8社と明暗が分かれた。年商10億円未満では「増えた」と「やや増えた」が5社で、「やや減った」(2社)を上回った。大手・中堅クラスでは円高や低価格商品の充実で個人客の増加につなげ、中小クラスは団体客や法人客の取り込みを中心に健闘している。
旅行申込が「増えた」と「やや増えた」と回答(複数回答)した25社では、増加要因のトップに「円高の影響」(16社)をあげている。この16社に円高で申し込みが伸びた地域と国・地名(複数回答)を尋ねると、最も多かったのは「北米」(9社)で、次いで「アジア」(7社)が続いた。国・地名では「ハワイ」(7社)、「韓国」(6社)が多く、ドル安、ウォン安メリットを生かした観光や買い物ツアーなどで旅行客のニーズを取り込んだ。
25社が2番目に増加要因としてあげたのは「東日本大震災後の自粛の反動」(14社)で、自粛疲れが押し上げた格好となった。
以下、「旅行料金の低価格化」(12社)、「プラン・パッケージの充実」(9社)と続いた。低料金や多様なプラン提供で旅行客を引き付けているが、この他では「10年10月に羽田空港の新国際線旅客ターミナルが開業」したことによる国際便の供給増や、「LCCの取り扱い増」との回答もあった。なお、今夏は節電の影響から「長期化や分散化など休日形態の変化」があり、海外旅行への需要増につながったとの見方も4社があげている。
旅行申込が「減った」と「やや減った」と回答(複数回答)した14社の減少要因は、「消費の冷え込み」(10社)と「東日本大震災後の自粛の継続」(10社)が同数トップだった。
長引くデフレで消費支出が冷え込んでおり、円高などのプラス材料はあっても需要の本格回復には至っていないことを映し出しているようだ。また、震災による消費自粛の反動が申込増につながった一方、震災後も相次いで発生した余震、収束メドのたたない原発問題で生じた不安感もマイナス要因に繋がっている。この他、減少要因では「燃料サーチャージの値上がり」もあった。燃料サーチャージは旅行代金に組み込まれることが多く、サーチャージの値上がりで低価格のプランを提供できず、中小代理店では顧客の取り込みに苦戦したようだ。
秋以降の申し込みの見通しは、50社のうち「横ばい」(17社)と「減少」(7社)の計24社(構成比48.0%)が約半数を占め、「増加」(14社.同28.0%)を大きく上回った。
アジアを中心とする近隣への旅行は堅調な推移が見込まれ、政情が安定してきた中近東への利用増も期待されている。その一方で、長引く景気低迷、収束にメドのたたない原発事故など国内事情への不安感は根強く、消費支出への足かせとなっており、中小規模を中心に旅行代理店では秋以降の厳しい見通しにつながっているようだ。

LCC(格安航空会社)取り扱いについては、50社のうち最も多かったのは「すでに扱っている」(15社・構成比30.0%)。次いで、「あまり扱いたくない」(14社・同28.0%)、「やや扱いたい」(10社・同20.0%)、「扱いたくない」(7社・同14.0%)、「是非扱いたい」(4社・同8.0%)の順。「すでに扱っている」15社を除く35社では、6割がLCCの扱いに消極的な姿勢を示している。
年商100億円以上の13社をみると「すでに扱っている」、「扱いたい」、「やや扱いたい」が10社(構成比76.9%)と大半を占めた。だが、年商100億円未満の37社(年商不明分を含む)では「すでに扱っている」、「扱いたい」、「やや扱いたい」との回答は19社(同51.3%)と半数にとどまった。
話題のLCCを顧客取り込みの好機と捉え、積極的に扱いたい大手代理店と、体力面で大手に劣り採算性も無視できない中小代理店では、LCCに対する取り組みに温度差があることがわかった。
LCCを「すでに扱っている」15社では、LCC利用が多い地域(複数回答)のトップは、「アジア」(10社)だった。次いで、「オセアニア」(9社)、「北米」(1社)の順で、現状は近隣のアジア諸国の取り扱いが過半数を占めている。また、利用者の反応では「好評」7社で半数を占め、次いで「その他」6社、「無回答」2社。「好評」の具体的な理由は、「通常料金より安く行けた人には好評」など、価格面が利用者の評価につながっているようだ。
「不評」の回答はなかったが、「その他」の具体的な理由では、「契約したばかり」、「空席のある日が少ない」など評価が難しいといった回答や、「LCCのサービスを事前に説明しているため特に好評・不評の反応なし」という回答が目立った。「不評」ではないが、さりとて「好評」とも言い難く、まだ評価しかねる様子もうかがえる。
「是非扱いたい」と「やや扱いたい」(複数回答)の回答理由では、「今後の需要に期待」が8社で最多。次いで、「顧客からの要望」7社、「低価格商品の開発・充実」5社の順。LCC市場への期待と同時に、顧客の選択肢が増えることで新たな需要掘り起こしの狙いも透けて見える。
一方、「あまり扱いたくない」と「扱いたくない」(複数回答)の理由としては、「利益にならない」が14社で最多。LCCのセールスポイントである「低価格」も、旅行会社にとっては採算性の悪化につながりかねず、扱いに慎重な姿勢もみえてくる。また、「定期運行・座席供給に疑問視」(11社)、「代替便への不安」(7社)のほか、「基本的に団体枠の押さえがきかない」、「現状ではサービスがよくない」、「乗り継ぎに不安」など、サービスや運用面での不安を回答した先もあった。低価格だが、各種補償やトラブルなどの対応への不安を払拭できていないようだ。LCCが日本に本格参入して以来、1年が経過しようとしているが、依然として旅行会社のLCCに対する信頼度は完璧とはいえないようだ。

「動向リサーチ」は、東京商工リサーチがまとめる詳細な情報データに基づき、株式会社東京商工リサーチ 四国地区本部長兼高松支社長・竹 茂和さんが香川の経済動向を鋭く分析します。


































