2011年11月17日更新
「散る桜、残る桜も散る桜」・・・1カ月の間に、父と夫を亡くした悲しみを、良寛の句が救ってくれた。愛する者の突然の死を乗り越えたとき、仕事の面白さに気付いた。
ドライバーやペンチ、物流機器、産業用ロボットなど工場設備の全般を扱う、機械工具販売の高松産業(株)。3代目社長河邊育子さんは、家族的な経営とデータ経営を融合させた。両極端の経営は父と夫の対立でもあった。
流通構造の変化は急ピッチで進んだ。メーカーによる系列化や、卸売業者などの中抜きで、生産と消費の距離は近くなった。
多くの業界であたりまえのこの変化が、機械工具販売の世界には及んでいない。メーカー、卸し、小売りへの流通経路は健在で、ダイレクトに消費者に直結するネット通販も脅威にはなっていない。
一握りの強者が勝ち残っただけでは、業界は衰退する。健全な競争と協調が、日本の製造業を支えているという河邊さんは、ネット通販にまだ無関心な業界に、警鐘を鳴らす。
2004年1月、創業者の父妹尾碧さんを、同じ年の2月、社長で夫の河邊健さんを亡くした。「女だけ残されて呆然としました。でも、母も一人になった。だから、生きていけたんです」
父と夫の後を継いだ。子供の時からの家業だし、結婚後も会社で働いていたので、戸惑いはなかった。何となく仕事をこなして毎日を過ごした。家庭画報を見ていた時、 「散る桜・・・」に出合った。心の底の、何かが、動いた。
「そうや、いつか私も死ぬんや。向こうの世界へ行ったら会えるんや。残された人生を一生懸命に生きた方がええんや」。仕事のことを考えた。吹っ切れてパワーが湧いてきた。
アナログ経営を父が教えてくれた。デジタル経営を夫が教えてくれた。
「父は社員をほめ、背中を見せて働きました。電話が鳴ったら一番にとる。やって見せるんです」。義理人情を大事にした。小さな会社ほど家族的な雰囲気が大事だと考えていた。
「主人は、自分がやらないで社員に命令しました。データで、経営する人でした」。会社の大小に関係なく、組織マネジメントは同じだと考えていた。
「二人の意見が対立したとき、主人に付きました。父に『電話をとったらいかん』と言いましたら、父は我慢をして、聞き入れてくれました」
河邊さんは、両極端の二人のいい所をもらったという。家族のようなチームワークで動く会社、思いやりを持ったデジタル経営を目指した。
そのために、利益も経費もすべて社員に開示した。「会社と社員が、同じ目的に向いて歩もうという私の方針です」。信頼関係がなければ、社員のやる気も能力も発揮されない。
訪問営業は、商品知識だけでなく、コミュニケーション能力や人間性が要求されるから、一人前になるのに5年も7年もかかる。
「経験を積んだ社員に辞められたら会社の損失です。一応、定年制はありますが、何歳になってもやる気があれば働いてもらっています」
最古参社員は76歳だ。河邊さんが小学校3年生の時から勤めている。
高松産業は、150社ほどのメーカーの機械工具を、約30社の問屋から仕入れて県内800社余りの工場に販売している。
香川県の組合、高松機械工具商組合の正会員は11社で、150億円余りの売り上げがある。扱い品目は、製造システムや工作機械、作業用工具、物流機器、産業用ロボット、CADシステムなど工場設備の全般だ。
製造ラインは、さまざまな機械の組み合わせだ。業種ごとに設備も違うし、技術改良のスピードは速い。「お客さんが、いい機械や道具を探すのは大変ですし、メーカーや問屋はお客様の要望が多すぎて、対応は不可能です」
販売店なら顧客の設備を熟知している。訪問営業で、顧客の知りたいことや、工場設備のプラスアルファの情報を提供する。ちょっとしたことが、工場に小さな改善をもたらす。その効果は小さくない。
人と人のつながりで改善が進み、信頼が生まれ、互いの利益の基盤となる。
※CADシステム
Computer Aided Designの略称。コンピューターで設計・製造するシステム
多くの業界で流通構造は変わったが、機械工具販売は変わらない。メーカーは問屋を、問屋は販売店を大事にするから、販売店はお客さんを大事に出来る。
「機械や工具には製造物責任があります。販売店がメーカーにクレームを言っても対応は遅いです。でも問屋さんを通すと早いです」。問屋は、メーカーに働きかけて素早いクレーム処理をさせる。販売店と問屋の役割分担で、顧客の信頼はさらに深くなる。
販売チャンネルは慣例が優先される。他社が扱うものを販売すると、業界から反発される。「うちだけ勝とうと思いません。それは業界の衰退につながります。競争相手も元気でないと活性化も、お客さんにきめ細かいサービスも出来ません。みんなの幸せが自分の幸せなんです」
競争しながら協調する。この矛盾が強みだと、高松機械工具商組合の会長でもある河邊さんは語る。現実に柔軟に順応する、女性らしいしなやかさも持ち合わせている。
※製造物責任
安全性を欠く製品で損害を被った場合に、その製造・販売に関与した者、とくに製造業者が負うべき特別の損害賠償責任。
機械工具業界は、運命共同体の、製造業の空洞化が心配だが、香川のメーカーは堅調なところが多い。
「うどん関連では、精麦、製粉、製麺機、冷凍食品が、手袋関係や製薬会社も、鉄、アルミ、紙、フィルム、水、電気関係などの業種も元気です」
ネット通販に対する組合員の関心は、まだ薄い。河邊さんは、心配している。「2社が、ここ10年で伸びています。製造、建築現場で使う商品の通販サイトと、もう1社は機械部品に強いです」
問屋のホームページでは、メーカーのカタログから注文も決済もできるが、メーカーが数百社もあるうえに、扱う問屋も違うので、使い勝手は良くない。
「販売店が中心になったサイトで、検索方法が違う各メーカーのカタログを、まとめて見られるようにしようと呼びかけていますが、まだ皆さん無関心です」
ネットなら24時間検索できて、仕様も価格も納期もわかるし、データや図面も引き出せる。販売店は24時間対応できないし、毎年変わるカタログに何百万円も経費がかかる。
良いことずくめだが、開発費がかかるし、販売店ごとの要望や、問題点を整理するのも大変だ。「でも、なんとか、目鼻をつけたいんです」。珍しく、力を込めた。
河邊さんは、香川の機械工具界の将来ビジョンを描く「なでしこ社長」だ。
7年前、経営を継いだとき、年上の社員に遠慮があった。2年後、「国家の品格」(数学者 藤原正彦 著)を全員に読ませたいと思った。
「感想文を出さなかったら、ボーナスなし」と言って、配った。締切日になっても出さない社員が2人いた。「社長の指示に、返事もしない関心も示さない理由を説明してくれ」と言って、黒板に「不思議なことに2人も、ボーナスをいらないという人がいる」と書いた。
「びっくりして飛んできて、明日の朝までに出すというので許しました」
社長になって3年目、気持ちが通じるようになった。遠慮も無くなった。
「社員も好きやし、お客さんも好きや。仕事が楽しいから、毎日がルンルンです」
ほがらかで、気さくだった。楽しく語った河邊さんは、取材が終わると一言。
「桜が好きやから、吉野の桜をよく見に行くけど、きれいやわ」・・・父と夫を思い出しているようだった。
- 1948年 高松市生まれ
- 1970年 甲南大学 卒業
高松産業 入社 - 2004年 高松産業 代表取締役 就任
公職
- 高松機械工具商組合 会長
| 所在地 | 高松市多賀町3丁目18番1号 TEL 087-833-4191/FAX 087-862-2677 URL:http://www.kougu.net/ |
|---|---|
| 設立 | 1951年 |
| 代表者 | 河邊 育子 |
| 資本金 | 1200万円 |
| 売り上げ | 15億1000万円(2010年12月期) |
| 経常利益 | 1200万円(同) |
| 社員数 | 25人 |
| 事業内容 |
工作機械並びに機械工具、伝導用品販売 作業用工具販売 工場用品全般販売 配管用資材並びに鋼材一般販売 |
沿革
- 1946年 高松市花園町において高松産業社を設立し、機械工具販売商を営む
- 1951年 株式会社に組織変更。社名を高松産業株式会社とし、資本金200万円とする
- 1965年 業務拡大に伴い、多賀町に新社屋を建設、移転する
- 1973年 資本金1200万円に増資
- 1975年 善通寺市に西部営業所を開設
- 1999年 インターネットショップ「工具ショップ」を開設
「プライムパーソン」は、香川の経済を牽引する企業や香川に拠点を置く企業のトップにスポットを当て、企業理念やその企業に息づく深い歴史、今後の事業展望、また企業のトップパーソン自身の信念なども交え、今をときめく企業の横顔を「人=トップ」を通してお伝えしていきます。



































