2011年12月15日更新
東かがわ市から貼り薬の効用を世界へ発信する帝國製薬は、消炎鎮痛パップ剤の生産量世界一だ。ペリー提督が黒船に乗って日本にやってくる6年前、1848年に創業した。
創業163年、江戸末期の薬舖から明治、大正の行商売薬、そして現在の医薬品製造まで、誠意と熱意、努力と創意工夫で、明治維新も第二次世界大戦後の混乱も、歴史の激動を乗り越えた薬業一筋の老舗だ。
今年3月、創業家の現社主の長女、藤岡実佐子さん(56)が6代目の社長に就任 した。日銀からスカウトされた前社長の村山昇作さんから9年ぶり。満を持しての登場だ。使命は、創業200年を目指して会社を引き継ぐことだ。藤岡さんには、脈々と受け継がれた「創業者のスピリット」が生きている。
※パップ剤
貼り薬の一種で、薬効成分が配合された泥状の膏体を布に展延したもの。俗にシップ薬ともいう。
※ペリー提督
マシュー・ペリーの通称。黒船を率いて日本の浦賀に来航、日米和親条約を締結し、日本の鎖国を解いた。
東京事務所がある日本橋では、帝國製薬はまだまだひよこだという。「三越さんや、にんべんさんは、創業300年以上です。日本橋で163年ですと言いますと、『あら、そうなの』という感じです」。藤岡さんは笑う。
同所に本店を構える三越は1673年、鰹節のにんべんは1699年の創業だ。近辺には、江戸から続く大企業から個人経営まで、老舗は珍しくない。菓子屋、はんこ屋、漆器店などの木の看板が、のれんの古さを控えめに誇っている。
「ずっと同じことをやっているように見えても、何かが変わり続けて、いつの時代も新しいんです。それが老舗の証です」という。
「今の弊社は貼り薬が中心ですが、歴史はまだ40年ぐらいです。次にどんな製品が会社を支えるのかまだわかりませんが、時代の要請に合わせて変化しないと存続できないことに、今も昔も変わりはありません」
変えてはいけない基本を守り、何をどう変えるのか。それを決断するのが藤岡さんだ。
「弊社には、創業家の利益よりもっと大事な使命があります」。藤岡さんはいった。初心を忘れず、信用を重んじ、人を愛し、仕事を愛し、社会の発展に貢献する、と社是にある。
どの会社も理念を掲げるが、時間の経過に負けて、色あせる。大手企業で、たて続けに巨額の損失隠しと借り入れ問題が発覚した。「サラリーマン役員の無責任と保身、同族経営の甘さ」(引用:天声人語・11月9日)、故(ゆえ)の失態だ。
「その経営者は、損失の理由を『どこも財テクに走った時代でございます』とおっしゃいました。でも、老舗と言われる企業は、堅実に本業を大事にしてきたという強みを持っています」。藤岡さんは、謙虚な口調ながら、力を込めた。
「メガ・ファーマのように、リスクをかけた新薬開発が、今はできないのが弱みかもしれません」。冷静だ。
企業の寿命は人より長いものだ。身の丈に合わない規模の、利益の追求は、「時間」に潜む想定外のリスクにもろい。創業200年を目指す藤岡さんは、目先の利益より価値のあるものを見据えている。
※メガ・ファーマ
世界的に通用する医薬品を数多く有するとともに、世界市場で一定の地位を獲得する総合的な新薬開発企業。
企業の利益は、経営力や人材、それに顧客や地域社会の信頼が寄せられて、はじめてもたらされる。売薬から始まって、163年かけて育まれ培われてきた帝國製薬の競争力の源泉だ。
創業家が2代目から社長を務めてきた。「大正時代に株式会社を発足させた曾祖父が2代目社長になり、祖父、父と継いで、村山さんが同族以外の二人目の社長です。ですから私の代で、会社をつぶして使命を捨てるわけにはいかないんです」。藤岡さんは大きな声で明るく笑う。
入社して23年目の社長就任、ウォーミングアップは十分だ。「事業領域は変わっていくかもしれませんが、200周年を目指します」
藤岡さんは、まだ姿が見えない市場で、新しい競争相手に勝つという重い任務を担っている。
藤岡さんは、前社長が創出した長期戦略を継承する。「経皮(けいひ)吸収技術の応用」を目標に、日本の医療の伝統技術「貼り薬」を、世界の最先端医薬品に応用する戦略だ。
「最近は、癌性疼痛(とうつう)や狭心症、喘息(ぜんそく)の貼り薬もできました。新薬を開発する大手さんと組んで、飲み薬や注射薬ではなく、患者さんがより使いやすい経皮吸収型製剤を開発します」
飲み薬は胃に負担がかかるし、飲み込むのが困難な高齢者も多い。注射薬は、薬物が一度に血液に入る。貼ることで皮膚からゆっくりコンスタントに吸収させると、副作用やマイナス要素が少ない。介護の現場では、投薬の確認もしやすくなる。昔から使われてきた貼り薬の応用だ。
※経皮吸収
皮膚から薬を吸収させること。
※癌性疼痛
癌に関連した痛み。
製品開発と人材育成は、会社の存続、発展に不可欠だ。医薬品の開発は長い年月が必要だが、社員の成長はもっと時間がかかる。
「弊社はスペシャリストが多いので、各自の得意分野に視点が集中しがちです。思い込みや常識の殻を破って、多角的に問題を捉えられる人材を育てたいんです」
広い視野を持つ社員を育成できれば、会社は強くなる。藤岡さんの発案で、去年の夏から半年かけたブレーンストーミングで、「将来ビジネスのアイデア」を提案させた。
ワニ園という奇抜なアイデアも出た。飼育したワニの料理を出すレストランや、肉から医薬品を抽出する多角事業の提案だった。
「学歴も専門分野も違う社員たちが、バラバラのアイデアを収束させる作業です。事業化の可能性より、その過程を通じて、異なった考え方を知る効果がありました」
お互いの異質さに触発されて、発想が飛躍する。多様な視点から物事を見ることで、既成概念の殻が破れる。
※ブレーンストーミング
小グループの参加メンバーが自由にアイデアを出し合い、発想の違いを利用して、多数のアイデアを生み出す集団思考法・発想法。
社員の誰とでも分け隔てなく話かけてアイデアも聞き出す、父で社主の赤澤庄三さん(83)の、気さくな人柄に藤岡さんは敵わない。
「怖いけど憎めない。ピシャッと言うけど、やんちゃ坊主のような可愛さがあるんです」。そんな社主から、時たまトップダウンが下りてくる。
「村山さんのスカウトも、日銀の高松支店長時代の経営センスを見込んで即決です。直観力と言うんでしょうか」
藤岡さんと社主は性格が違うという。「私はじっくり考えるタイプです。しかし苦しい時はこれからも必ずありますし、即断が必要な時があります。帝王学といったらおかしいですが、父から決断力を学んでいきます」
「君臨すれども統治せず」。藤岡さんが社主から聞かされてきた経営の心構えだ。「細かいことを指図せず全体を統括するという意味で、未熟な私はまだまだです」
声が大きくなった。「実績でなった社長ではありません。社員の皆さんにいかにして自律的に働いてもらえるか、今は、その組織づくりが仕事です」
創業200年へ、藤岡さんはさらに強固な仕組みを目指す。
藤岡さんは26歳で結婚して、広告関連の会社に就職した。「女性も仕事をすべきだと、母に教えられて育ちましたし、『人生はお互いのもの』という公務員の夫の理解がありました」
男女雇用機会均等法が出来たばかりの頃で、出産後も働き続ける予定だった。当時社長だった父に、「手伝ってほしい」といわれて、出産直後に退職。1年後、子供を保育園に預けて、東京事務所に勤めた。
「アルバイトみたいな形で入りました。今そんな扱いはあり得ませんが、非常勤の取締役として、決算役員会にも出ました」
自宅が東京の藤岡さんは、社長になって東かがわ市の本社にいる時間が長くなった。「月に10日ほど家を空けます。夫は単身赴任した時、家事が出来るようになりましたので、助かっています」
週末は家に帰るし、日帰りもあるので、家庭生活は普通の共働き夫婦と同じだという。
公職
- 兵庫県生まれ
- 1979年 東京大学法学部 卒業
- 1989年 帝國製薬株式会社 入社
帝國製薬株式会社 取締役 就任 - 1999年 帝國製薬株式会社 代表取締役 就任
- 2011年 帝國製薬株式会社 代表取締役社長 就任(現職)
| 所在地 |
〈本社〉 東かがわ市三本松567番地 TEL 0879-25-2221/FAX 0879-24-1555 URL:http://www.teikoku.co.jp/ 〈東京事務所〉 東京都中央区日本橋二丁目2番5号 TEL 03-3510-3331/FAX 03-3510-3330 |
|---|---|
| 資本金 | 1億円 |
| 売上高 | 226億2200万円(2010年12月) |
| 社主 | 赤澤庄三 |
| 代表者 | 代表取締役社長 藤岡 実佐子 |
| 社員数 | 680人 |
| 営業品目 | パップ剤、テープ剤、漢方製剤、その他医薬品、医薬部外品、化粧品 |
会社沿革
- 1848年 五代目当主 赤澤庄蔵、売薬買株一つを譲り受けて開業する
- 1918年 帝國製薬株式会社設立。資本金100万円
- 1938年 パップ剤の発端となるホルキスを発売
- 1943年 香川県下212の企業を合併し、統制会社の香川県製薬株式会社設立
赤澤忠太郎が初代社長に就任 - 1953年 大阪市淀川区に大阪工場設置
- 1957年 大阪工場を分離。「扶桑化学工業株式会社」として発足し、赤澤庄三が社長に就任
- 1974年 パップ剤の医家向け許認可を受け、主力製品となる
- 1985年 帝國漢方製薬株式会社設立
- 1988年 医療用インドメタシンパップ剤「カトレップ」の承認取得、製造開始
- 1992年 医家向け営業部門を独立させ、テイコクメディックス株式会社設立
- 1993年 医療用フェルビナクパップ剤「セルタッチ」の承認取得、製造開始
- 1995年 薬専(OTC)部門を独立させ、テイコクファルマケア株式会社設立
- 1997年 米国現地法人「Teikoku Pharma USA,Inc.」設立
- 1999年 米国で帯状疱疹後神経痛治療貼付剤「Lidoderm」新薬承認、発売開始
- 2000年 乾癬治療剤「ドボネックス軟膏」(レオ社から導入)新薬承認、発売開始
- 2001年 英国現地法人「Teikoku Pharma UK Ltd.」設立
硫酸モルヒネ徐放性製剤「MSツワイスロンカプセル」の承認取得、製造開始 - 2003年 帝國製薬、扶桑化学工業、青島扶桑精製加工有限公司の3社合弁会社
「扶桑帝薬(青島)有限公司」設立 - 2008年 創業160周年、会社設立90周年を迎える
テイコクメディックス株式会社を売却
「プライムパーソン」は、香川の経済を牽引する企業や香川に拠点を置く企業のトップにスポットを当て、企業理念やその企業に息づく深い歴史、今後の事業展望、また企業のトップパーソン自身の信念なども交え、今をときめく企業の横顔を「人=トップ」を通してお伝えしていきます。




































