2013年7月4日更新
1960年に製作され日本で大ヒットしたルネ・クレマン監督、アラン・ドロン主演の映画「太陽がいっぱい」は、海に遊ぶヨットの魅力があふれている。しかし、ゆっくりのんびり海の情緒を楽しむ文化は、まだ日本には馴染みが薄い。
18人乗りヨットで備讃瀬戸をクルーズする会社を9人の仲間が立ち上げた。香川の島を活性化するために、瀬戸内の多島美や島の文化を、そして何よりも風任せで過ごすスローな時間をリゾート資源にしようというわけだ。
7月20日から瀬戸内国際芸術祭の夏の会期が始まる。(株)風向(ふうこう)の堀尾春代さんとキャプテンの中山昌延さん(56)は、追い風に帆を上げた。

風向は、中小企業基盤整備機構四国支部が運営している「四国サイコーダイガク」の活動の1つ、「島めぐり」ゼミナールを修了した有志らで、2010年11月に設立した。
創業メンバー9人、株主6人で資本金2290万円。フィリピンのセブ島から中古の18人乗りフランス製の双胴船、カタマランヨットを買って11年の夏から運航を開始した。
ヨットクルーズの事業化は、ゆっくりのんびりを楽しませるノウハウがないと難しいし、少ない固定費で運航しないと採算は取れない。
大学時代に、京都の苔寺と竜安寺で外国人観光客の英語ガイドを経験した堀尾さんは、第1回の瀬戸内国際芸術祭で、島のアートを案内するボランティアサポーター「こえび隊」ガイド事務局のリーダーを務め、今年の第2回も担当している。
創業メンバーで女性は堀尾さんだけだ。クルーズの企画や島のガイドを受け持ち、きめ細かな配慮や接客ぶりを発揮した。
男性メンバーから「おもてなし」の能力を評価されて、設立2年目にネットコンサルティングの会社を経営する初代の森田桂治さん(40)から代表取締役を引き継いだ。
カタマランヨットは新艇なら5、6千万円する。その中古を半値ほどで購入した。海外のリゾート地では1日のチャーター料が10万円以上するそうだが、島の活性化に役立つことが目的だから、利用しやすい料金を設定した。
半日3万6千円、1日6万円。定員はキャプテンとクルーの2人を含む18人。子どもは2人で1人分。これに保険料が1人350円必要だ。
2つ船体を持つカタマランヨットは安定性が高いから、初心者でもあまり船酔いしない。昨年5月のゴールデンウイークに、ヨットは初めての高松市立太田南小学校区の子どもたちを乗せて豊島までクルーズした。島の歴史を聞いたり美術館を訪問、ヨットの上ではロープの結び方や帆走を体験して、子どもたちは大喜びだった。

「真っ赤な太陽が島々の間に沈んでいく美しさは言葉で言い表せません」。堀尾さんは、サンセットクルーズに乗るたびに夕日のパワーに圧倒される。
瀬戸内の多島美の素晴らしさは、モーターボートや水上バイク、大型フェリーや遊覧船よりも、風任せのヨットが一番楽しめるという。
ヨットの速度は遅い。自転車ほどのスピードで時速約9キロ、風の強い時でも15~16キロほどだ。「1日かけて2島、1週間あればアートと12の島々を巡る素晴らしいクルーズが堪能できます」。ヨットに魅せられて35年の中山キャプテンは、もうすぐ始まる瀬戸内国際芸術祭の夏の会期に期待している。
島それぞれに食べる楽しみがある。「男木島では、朝どりの魚介類を使ったランチが海を眺めながら贅沢な気分で味わえます。小豆島では、島宿やイタリアンレストランで地元の食材が楽しめます」。堀尾さんが企画する女性向けのクルーズプランだ。
ヨットクルーズは3月から始まる。昨年、まだ肌寒い時期に、ある会社が支店長会議に利用した。風任せの会議は、オフィスとは気分も違って、これまでにない良いアイデアも生まれた。
4月は桜クルーズだ。弁当を食べながら女木島を1周する海からの花見や、小豆島の桜の見えるレストランでランチを食べる往復6時間のクルーズを企画した。毎年5月3日に小豆島・土庄町で上演される、国指定有形民俗文化財の「肥土山農村歌舞伎」を鑑賞する片道2時間のクルーズを、昨年に続いて今年も実施した。
カタマランヨットは沖縄ではダイビングツアー用に使われている。訪れる島々に楽しみがないと、ヨットで島と陸を結び地域共同体として支えあうビジネスモデルは成り立たない。瀬戸内でも、もっと多くの島々で魅力を掘り起こすと共に、「おもてなし」のソフトとハードのノウハウを持つパートナーが必要だ。
観光業者の問い合わせや、地元企業の接待や同窓会、誕生日会などの利用が増えてきたが、まだ採算は取れない。
スローだからこそ楽しめるヨットクルーズは、海と島、それに陸(おか)で、仲間の追い風を待っている。
◆写真撮影 フォトグラファー 太田 亮
所在地 |
高松市兵庫町3-10 TEL:087-813-1001 FAX:087-813-1002 |
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設立 | 2010年11月25日 |
資本金 | 2290万円 |
代表者 | 堀尾 春代 |
創業メンバー |
森田 桂治(株式会社ゴーフィールド代表) 三井 文博(NPO法人アーキペラゴ理事長) 中山 昌延(有限会社画楽デザインオフィス代表) 三宅 邦夫(塩飽本島ボランティアガイド) 浜崎 直哉(株式会社浜崎) 人見 訓嘉(有限会社CONERI代表) 内田 一成(フリーランスプランナー) 野崎 勝二(個人) 堀尾 春代(エポックイングリッシュスクール学院長) |
海外進出、ニッチトップ、地域に根ざす100年企業・・・
香川には数多くの魅力的な企業があり、その舵を取るリーダーたちもまた、たくさんの魅力にあふれています。
企業、団体、伝統文化など様々な分野の最前線で活躍する人たちの本音に迫ります。