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2015年5月21日更新

菓子木型の可能性に賭ける 菓子木型職人 市原 吉博さん

花びら一枚一枚を、魚の鱗一枚一枚を丁寧に彫っていく。彫り上がった木型に和三盆を詰めて型から外すと、まるで芸術作品のような和菓子が出来上がる。「手に取る人が感動する。そういったものを作りたいんです」

江戸時代から続く伝統工芸の菓子木型。かつて冠婚葬祭で欠かせなかった和菓子も、洋菓子人気や生活スタイルの変化で事情は変わった。現在、菓子木型職人を名乗るのは全国でも数人、四国では市原吉博さん(69)ただ一人だ。

しかし、市原さんの元には次々と注文が入ってくる。昨年は観光庁から「免税品をPRするポスターに使いたいので木型を彫ってほしい」という依頼があった。

和菓子だけに留まらない菓子木型の可能性を、市原さんはこの道40年の卓越した技で切り拓き続ける。

新免税制度のポスターに登場

「私も絶滅危惧種の一人です」

市原さんはこう語るが、決して細々と職人を続けているわけではない。1年365日、ほとんど休むこと無く、1日13時間以上も彫刻刀を握る。「どんな依頼が来ても断らずに全て受けます。頼まれるというのは試されているということ。来る者は拒まずにきちんと要望に応えていく。そうすると、いろんな人がまた頼みに来ます」

和菓子屋さんから注文を受け、木型を作り、納品するのが菓子木型職人だ。しかし、市原さんの活躍の場は「和菓子屋さん向け」だけに留まらない。

昨年、観光庁が外国人観光客にもっと日本で買い物をしてもらおうと、化粧品、衣料品、食品などを免税対象品目に加えた。この新しい免税制度をPRするポスターに使われたのが、市原さんの木型で作った和菓子だ。口紅、コート、バッグ、桃やリンゴを落雁で作り、外国人観光客に「Happy Shopping!」と呼びかけている。「大変な仕事が舞い込んできたなあと思いました。日本の文化や美意識を世界にアピール出来たのであればうれしいですね」

東京・三越の日本橋本店と銀座店では毎年正月の時期に、市原さんの木型を元にしたプラスチック製の松竹梅、石膏で作った鯛やガラス製の金魚がウィンドーディスプレーされてきた。銀座店では現在、木型そのものが展示されている。

栗林公園の物産館・栗林庵にもある。今年3月、栗林公園と姉妹庭園提携を結んだアメリカの名園・ハンティントン財団庭園の責任者が栗林庵を訪れた際、飾られている木型に目が留まり、「ビューティフル、ビューティフル」と叫んで5つほど買って帰ったそうだ。

ここ数年、装飾品やアート作品として注目されるようになった。コレクションで木型を買っていく個人のお客さんも増えている。「今の状況になったのにはいくつかのターニングポイントがあった」と市原さんは振り返る。

営業力が無いと生き残れない

2009年、娘の上原あゆみさんが工房近くで和三盆体験ルーム「豆花」をオープンさせた。木型を使った和菓子作りが体験出来るというもので、親子連れなどで賑わっている。家庭でも気軽に和菓子を作ってもらおうと木型やヘラをセットにした「和三盆キット」(1万6000円)も売り出した。口コミで人気が広がり、11年のかがわ県産品コンクールで最優秀賞を受賞した。「お菓子作り体験に来た人が木型が欲しいと買っていく。そういう流れも出来ました。父親がやっていることを娘がバックアップして花開かせてくれました」

市原さんはPRにも力を注ぐ。デパートの伝統工芸展に出展したり、イベントへの誘いがあれば積極的に参加し、木型職人としての講演と和菓子作り体験をセットにしたプログラムを提案したりしている。

仕事の合間を縫ってブログも頻繁に更新する。「先日、『愛読しています』という女性が奈良県から訪ねて来てくれました。ブログを続けるのは大変ですが、木型に興味がある人と交流も出来る。何でも取り入れていかないと、と思ってやっています」。ブログの訪問者数は現在8万5000人を超える。

「職人と言えば無口で頑固。でもそれは昔の話です。私の持論は営業力を持たない職人は生き残れない。今の時代、パソコンのキーボードを叩いたら熱が出る、というのではダメです」

明るく元気に前向きに

工房には大きな糸のこぎりや太さの違う50種類の彫刻刀がずらりと並ぶ。花や魚の模様を描いた木の板をくるくると回転させ、360度あらゆる方向からまるで精密機械のように彫り進めていく。「やり始めたら納得いくまでのめり込んでしまいます。しつこい性格だと思いますよ」

この道に進んだのは22歳の時。父親が木型や金型の卸業を営んでいた。最初は営業回りをしていたが、お客さんから「木型が少し欠けたから直してくれ」と頼まれ修理しているうちに自分で作ってみたくなった。仕入れ先の職人さんに教えてもらいながら始めたが、「まるで地獄に居るような苦しみでした」

木型は長持ちするよう樹齢100年を超えた堅い山桜を使う。「最初は全然彫れませんでした。5分経ったら腕が痛くなり、10分経ったら体がくたくたになる。こんな残酷な仕事があるのかと思いました」

卸営業をしていた頃、取引先の菓子屋さんから「型屋(木型職人)に何回彫り直しをさせても思うようなものが全く出来てこない」といったクレームをよく聞かされていた。満足してもらえる木型が自分に彫れるのだろうか・・・・・・ずっと恐怖心が消えなかったという。「お客さんに『ここを直してくれ』と突き返される。何度も悔しい思いをしました。でも継続は力なり。自分はこの道しかないと信じて続けて来ました」

毎朝合計100回の腕立て伏せが日課だ。寝ている時も無意識に歯を食いしばるため、就寝時のマウスピースは今も欠かせない。

「木型が好き、和三盆が好きという人はたくさんいます。そういった人たちの期待に応えたい。何時間彫っても疲れないよう体力も維持して、まだまだ技も磨いていかなければなりません」

小学校から頼まれて子どもたちに木型作りを教える機会も増えた。結局最後は市原さんが仕上げをするが、子どもたちは「僕が彫った」「私にも出来た」ととても喜ぶそうだ。

「この世界は後継者不足と言われます。でも、夢のある仕事だというレールを敷けたら放っておいてでも後継者はやって来る。需要が無い、食べていけないと嘆くのではなく、明るく元気に前向きに、一日でも長く彫り続けたいと思っています」

◆写真撮影 フォトグラファー 太田 亮

いちはら よしひろ

  • 1946年 高松市生まれ
  • 1968年 家業の型物卸業に従事
  • 1973年 菓子木型職人として彫り始める
  • 1999年 香川県伝統工芸士「菓子木型」認定
  • 2004年 厚生労働省「現代の名工」表彰
  • 2006年 黄綬褒章 受章
  • 2011年 「菓子木型和三盆キット」かがわ県産品コンクール最優秀賞受賞

有限会社 市原

住所
高松市花園町1丁目7番30号
TEL:087-831-3712
FAX:087-831-2727

和三盆体験ルーム 豆花

住所
高松市花園町1丁目9番13号

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讃岐を歩く

燕帰る

春、日本にやって来て、秋、南方へ去るツバメ。暦の上ではもう秋を迎えたが、残暑はまだまだ厳しい。ツバメはそろそろ帰り支度を始めているのだろうか。昼下がりの丸亀市・本島にて。

Photo:T.Nakamura

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