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VOL.238 2018年04月05日

タクシー業界に新風
ITで地域交通を支える

電脳交通 社長 近藤 洋祐さん 最高技術責任者 坂東 勇気さん

タクシー業界に新風 ITで地域交通を支える 電脳交通 社長 近藤 洋祐さん 最高技術責任者 坂東 勇気さん
電脳交通社長の近藤洋祐さん(左)と最高技術責任者の坂東勇気さん=徳島市川内町

ITで「人生が変わった」

大手をはじめ、全国のタクシー会社が熱い視線を送る小さなタクシー会社が四国・徳島にある。近藤洋祐さん(32)と坂東勇気さん(39)が3年前に立ち上げた電脳交通だ。「ドライバーの高齢化や人手不足、マーケットの縮小など地方のタクシー業界は危機的な状況にある。様々な課題をITの力で解消したい」と社長の近藤さんは力強く語る。

注目を集めているのはタクシーの配車業務を代行する「クラウド型タクシー配車システム」。同じエリアで営業する複数のタクシー会社の車両をクラウド上で一括管理することで、全ての会社の配車を一人のオペレーターで切り盛りできるというものだ。

コールセンターでは365日24時間体制(3交代制)でオペレーターがパソコンを操作しながら対応する
コールセンターでは365日24時間体制(3交代制)で
オペレーターがパソコンを操作しながら対応する

例えば、タクシーを呼ぼうと利用者がA社に電話をかける。すると電脳交通のコールセンターの電話が鳴り、オペレーターはA社の担当者として対応する。パソコン画面にはA社のタクシーとお客さんの位置が地図で表示され、最寄りのタクシーを配車する。さらに全てのタクシーにはタブレット端末が備えられていて、お客さんが待つ場所への最適なルートの他、「足が不自由なので乗降時にサポートが必要」といった細やかな利用者情報も送られる。「配車業務はどの会社も昔ながらのよく似たやり方で、電話が鳴るかどうかも分からないのに人が張りついていなければならない。あまりにも非効率で、特に小さな会社には大きな足かせです」

プログラミング担当の坂東さんと実証実験などを繰り返し、悪戦苦闘しながらシステムを開発。だが、本当の苦しみはその先にあった。タクシー会社にIT化を呼びかけても、「俺には俺のやり方がある」と拒絶する高齢ドライバーも多かった。「100年の歴史がある業界に最新のITを持ちかけるわけですから、もちろん摩擦は生じます」

そこで徹底したのは「相手に寄り添うこと」。会社ごとの複雑な配車ルールをシステムに反映させるなどして、粘り強く訴え続けた。「タブレットを見せながら『このボタンを押すとこういう動きをしますから』という説明を何百回も繰り返しました。まさに汗と涙の物語でしたね」

開発から3年で地元徳島の他、香川や埼玉など全国5地区の14社がシステムを導入。ある会社の80歳近い社長に、こう言われた。「これまでは夜通し配車室に張りついてウトウトしながら電話を待っていた。そんな私が家に帰ってご飯を食べられるようになった。近藤くんたちのおかげで人生が変わった」。2人の努力が報われた瞬間だった。

「絶対にいける」と確信

タクシーのニーズは今後高まってくる
タクシーのニーズは今後高まってくる

野球少年だった近藤さんは高校卒業後、アメリカの大学に進み、その後メジャーリーガーを目指していたというユニークな経歴の持ち主だ。しかし夢叶わず帰郷。その頃、祖父が地元徳島市で創業したタクシー会社、吉野川タクシーを畳もうとしているという話を聞いた。「継いでほしいと言われたわけではなかった。でも、私がやらないといけないと思いました」

2009年、24歳の時に入社。当時、会社には多額の借金もあった。何から手をつければいいのか分からず、「まずはタクシードライバーから始めました」

深夜、市内の繁華街で客を待っていた。2時間に1本あるかないかという仕事。ふと目をやると、同年代の若者が楽しそうに酒を飲んでいた。「私の人生はこれでいいのか・・・」と嘆いたこともあった。だが、「やるしかない」と迷いを振り切りハンドルを握り続けた。すると、「タクシー業界の改善すべき課題が少しずつ見えてきました」

地方の足にITで貢献したい
地方の足にITで貢献したい

一方、坂東さんは阿南工専を卒業後、東京のIT系企業に就職。結婚し子どもが生まれたのを機に「子育ては地元で」と11年にUターンした。スマホ用のゲームアプリを開発する仕事などをしていたところ近藤さんと出会い、電脳交通の立ち上げに誘われた。「非常に筋の良いビジネスだと思った。これなら絶対にいけると確信し、話に乗りました」

2人は「けっこう激しいけんかもしましたが・・・」と話しながらも、「本当にいい出会いだった」と笑顔で振り返る。

未来へのシナリオを描く

配車アプリの普及やAIによる乗客の需要予測など、ここ数年タクシー業界の動きが熱を帯びている。しかし坂東さんは「それは東京など都会の話で、私たちがやろうとしていることとは全く違う」。近藤さんも「地方の課題を解決するという私たちのスタンスは絶対に揺るがない」と冷静に話す。

電脳交通ではさらに新たな試みも始めている。タクシーの後部座席にモニターを設置し広告を流すという事業だ。「誰がタクシーに乗るのかを事前に把握できるのが私たちの最大の強みです」。クラウド型配車システムで蓄積した顧客データを活用し、「性別や年齢層に合わせた広告や、例えば病院への移動記録がある人には医療系の広告をピンポイントで流すこともできます」。現在、実証実験を進めているところだ。

地方では、採算の取れない鉄道やバスの路線が次々と廃止されていく。「高齢化も進み、今後は出発地と目的地を自由に設定できるタクシーのニーズが高まってくるのではないか」と近藤さんは見る。坂東さんも「交通インフラを担うプレッシャーは大きいが、地方の足を支えられるよう貢献していきたい」と力を込める。そして2人は、こう口をそろえる。「地方の交通をどう存続させていくか。今まさに、その分岐点に来ていると思う。まずは私たちがタクシー業界を舞台に、未来へと続くシナリオを描いていきたいと思っています」

篠原 正樹

近藤 洋祐 | こんどう ようすけ

1985年 徳島市生まれ
2003年 徳島県立城ノ内高校 卒業
2007年 米・インディアンヒルズコミュニティ カレッジ 卒業
2009年 吉野川タクシー有限会社 入社
2012年 代表取締役
2015年 株式会社電脳交通 代表取締役

坂東 勇気 | ばんどう ゆうき

1978年 阿波市生まれ
1999年 阿南工業高等専門学校 卒業
    東京、徳島のIT系企業を経て
2013年 株式会社GTラボ 設立
    代表取締役社長
2015年 株式会社電脳交通 最高技術責任者

株式会社電脳交通

住所徳島市川内町平石若宮8−6
TEL.088・665・2051
設立2015年12月17日
資本金1650万円
従業員数22人
事業内容タクシー配車コールセンターの運営、
交通系ソフトウェアの開発・販売 他
地図
URLhttp://www.cybertransporters.com/

プライムパーソンとは

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讃岐を歩く

上へ上へ

栗林公園近くの古い住宅地を歩く。細い路地を抜けると、三社神社の大楠が現れた。住宅の間を抜けるように、上へ上へと空高く伸びているように見えた。

Photo:T.Nakamura

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