品質とオリジナリティー 唯一無二の家具をつくる

日美 社長 白井 正人さん

Interview

2019.03.21

昨年6月にオープンしたカフェ「ROUGH&TOUGH COFFEE STAND」。 家具のギャラリーも兼ねる=高松市郷東町の日美株式会社

昨年6月にオープンしたカフェ「ROUGH&TOUGH COFFEE STAND」。
家具のギャラリーも兼ねる=高松市郷東町の日美株式会社

”質から量へ”方向転換

人気商品の「Hanna(ハンナ)」(奥)と「GUY(ガイ)」。 冬はコタツ、夏はテーブルに

人気商品の「Hanna(ハンナ)」(奥)と「GUY(ガイ)」。
冬はコタツ、夏はテーブルに

「万人に好まれなくていい。使ってくれるたった一人を満足させる商品をつくりたい」

木工家具を製造・販売し、全国発信する日美株式会社。社長の白井正人さん(52)が何よりも重視するのが「常識にとらわれないオリジナリティー」だ。

4年前に開発した人気ブランド「ROUGH&TOUGH」。白井さんは「完成形のない、進化し続けるブランド」と表現する。節や割れ目など素材の木が持つありのままの“表情”をデザインに組み込み、文字通り荒々しくて力強い、コタツやイス、ダイニングテーブルなどを生み出していく。「節や反りは欠点として嫌われてきた。でも、それこそ木の本来の姿で、生命力や生きざまがあふれている。表情豊かな素材に、私たちが持つ手仕事の技術を融合させて何を生み出していくか。いつもそればかり考えています」

日美の創業は1923年。機械工具の製造や時計製造などを経て、80年代に木工品製造へと舵を切った。だが、「当時は大量生産時代。デザインや質よりも、コスト重視で同じ規格のものをつくり、量販店に卸していました」

白井さんには違和感があった。いくらコストダウンしても海外の低価格品には勝てない。数でも大手にはかなわない。そして何より「同じものばかりつくっても面白くなかったんです」

2008年、42歳で社長になり、「これまでと真逆のことをしました」。大量生産をやめて品質にこだわり、注文を受けて一からつくるフルオーダーに方向転換。材料の選定から、設計、デザイン、木工、縫製、梱包まで全てを自社でやる体制を敷いた。「一貫生産することでスタッフ間のコミュニケーションも取りやすく、タイトなスケジュールにも対応できる。この業界の納期は3カ月程度が一般的だが、うちは1カ月で納品できるのが大きな強みです」

取引先は量販店から、インテリアショップや個人へと変わり、つくる量も減った。だが、白井さんはこう話す。「お客さんにはそれぞれに思いやニーズがある。それにマッチングしたもの、愛着を持って使ってもらえるものをタイムリーに届ける。大手の大きな波に揉まれながら必死で食らいついていくよりも、独自の戦略でチャレンジしながら突き進んでいきたい」

メジャーデビューを夢見て

素材と技術を融合させ木の“表情”を生かす

素材と技術を融合させ木の“表情”を生かす

型にとらわれないものづくり。それは、決して型通りではなかった白井さんの人生に重なる。

 庵治町生まれ。高松高専(当時)を卒業後、坂出市のプラント保全会社に就職したが、「ロックミュージシャンになりたかった。RCサクセションに憧れ、バンド活動に明け暮れていました」。1年で会社を辞め、メジャーデビューを夢見て上京した。だが、共同生活していたバンドメンバーと意見が合わずケンカ別れ。住むところがなくなり、一時はホームレスも経験した。

転機は1989年。新メンバーとバンド活動を続けていた頃、地元香川のライブイベントに呼ばれ帰郷した。「無事にライブを終え、さあ東京に帰ろうという日に母親が交通事故にあった。それで戻りづらくなって……」。そこで出合ったのが日美だった。「アルバイトとして入りました。もちろん東京に戻るつもりで、“お金を貯めるためのつなぎ”くらいにしか思っていませんでした」。

最初は商品を取引先に届ける配送の仕事。高松高専時代は旋盤加工や鋳造に夢中になるなど、元々ものをつくるのは大好きで、手先も器用だった。やがて自社製品の設計を手掛けるようになり、「気がつけば、工場長を任されていました」

この間にも3枚のアルバムを自主制作。決してミュージシャンをあきらめたわけではなかった。しかし、「ある時、お客さんから『こんな家具をつくってほしい』という相談を受け、設計から製作まで一連のプロセスを経験したんです。『つくるって、こういうことなんだ』と一気にこの仕事が楽しくなりました」

音楽と家具製作はよく似ていると白井さんは言う。「表現したいものを生み出し、音楽はライブで、家具は展示会で発表する。『人を喜ばせたい』という根っ子の部分は全く同じです」

無理だった「真面目な社長」

工場の様子

工場の様子

日美は創業家がずっと経営を担ってきた。だが4代目で初めて、同族以外で、しかもアルバイトで入った白井さんが社長になった。「先代には、何かを劇的に変えないと生き残れないという考えがあったんだと思います」

就任当初は「真面目な社長になろう」と慣れないスーツを着て、取引先では頭を下げ続けた。でも、「1週間しかもたなかった。私には、型通りの社長はやはり無理でした」と笑う。

自分には何ができるのか、どんな社長になれるのか。自問自答を繰り返し、たどり着いたのは「本性をさらけ出すこと」だった。「飾る必要なんてない。お客さんの要求や想像を超えるほど”自分らしい””日美らしい”商品をつくる。それが私の信念です」

ミュージシャンの夢は捨ててはいない。でも今は、それ以上の夢がある。

「日美の工場を、子どもたちがものづくりに触れられる“ワンダーランド”にしたい。子どもの頃に得る『つくる』という経験は、きっと人生のプラスになる。誰もが気軽に入れて楽しめる開放的な工場を、いつかつくりたいですね」

篠原 正樹

白井 正人|しらい まさと

略歴
1966年 庵治町生まれ
1987年 高松工業高等専門学校(当時) 卒業
1987年 菱化工業株式会社 入社
東京でのバンド活動などを経て
1991年 日美株式会社 入社(配送アルバイト)
生産管理、開発設計担当などを経て
2002年 開発部長
2005年 統括部長
2007年 取締役
2008年 取締役社長
2009年 代表取締役社長

日美株式会社

住所
香川県高松市高松市郷東町379-1
代表電話番号
087‐882‐7705
設立
1962年(創業1923年)
社員数
35人
事業内容
木製品の製造販売(コタツ、テーブル、チェア、住宅内装材他)
資本金
1600万円
地図
確認日
2019.03.18

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