瀬戸内国際芸術祭への期待

日本銀行高松支店長 正木 一博

column

2019.04.04

3年に一度の瀬戸内国際芸術祭が、いよいよ今月下旬からスタートする。私のような転勤族にとって、高松赴任中に瀬戸芸が開催されることは、とても幸運だと感じている。

改めて瀬戸芸について調べてみると、その目的は「海の復権」だそうだ。総合ディレクターを務める北川フラム氏は、著書の中で「そもそも海は、太古から多くの人たちが移動する自由な交通路であり、海に囲まれた日本は海を介してさまざまな地域、国々とつながってきました。そして島は、旅人にとって安心できる止まり木的な存在でした」と記されている。現代では、「島国根性」などという言葉が示すように、島は閉鎖性の象徴とみられているが、歴史的には、むしろ海を通じた交流の結節点なのだと気付かされた。

ところで、ビジネスマンは、しばしば「国内派」と「国際派」に分類される。尊敬するある先輩は、真の国際派の条件として「外国人といても平常心を失わないこと」を指摘されていた。私自身は、勤務先から留学と国際機関への出向の機会を与えられたが、残念ながら、この条件にはなお遠い。

近年、瀬戸芸の認知度は、アジアはもとより欧米においても急速に高まっており、これまで以上に多くの外国人が香川を訪れるだろう。こうしたインバウンド客の増加は地元経済に大きなメリットをもたらすが、私が瀬戸芸に期待するのは、経済面の効果を越えたところにある。お年寄りを含めた島の人々が、その日常生活の中で、海を越えてやって来た人々と交流するというのは、国際交流の本来の姿と言えよう。さらに、小中高生を含めた県内の若者にとっても、地元に居ながらにして世界と触れ合うことの出来る貴重な機会である。3年に一度、こうしたチャンスに恵まれることは、瑞々しい感性を持つ若い世代の「内なる国際化」を促すに違いない。

古来、讃岐は瀬戸内海の交通の要衝として発展してきた。遣唐使も、この海を通って大陸を目指した。瀬戸内海は、いわば開かれた世界へのゲートウェイだったのである。瀬戸内国際芸術祭が、豊かな海に育まれた日本人が本来持っている国際性のDNAを呼び覚ますきっかけになることを強く期待している。

日本銀行高松支店長 正木 一博

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日本銀行高松支店長 正木 一博

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