自ら「土地ルール」 新しいまちづくり

丸亀町商店街振興組合 理事長 古川 康造さん

Interview

2013.02.21

地権者が自らやる―多くの再開発事業の失敗例から学んだ答えは明快だ。古川康造さん(56)が理事長を務める丸亀町商店街振興組合は、行政やデベロッパー、流通大手に頼らず、自分たちの土地のルールすなわち「所有権と利用権の分離」と「オーナー変動地代家賃制」で、まちの再開発を軌道に乗せた。

日に9500人だった平均通行量は、2万8000人になった。その画期的な手法は再開発事業の模範として内外で高い評価を得た。昨年だけで海外を含め1万3000人が視察に訪れた。

「10年で丸亀町は全滅する。再生計画を作れ」。1988年、将来を見通した鹿庭幸男元理事長(故人)の言葉で始まった新しいまちづくりは、7街区のうち4街区が完成した。法律の壁と行政の前例主義を乗り越えるのは容易でなかった。

失敗の構造見えた

鹿庭理事長(当時)の指示で、全国の再開発事業の失敗例を調べたら、共通の構造が見えてきた。

行政が第3セクターを作り、衰退した市街地を地上げしてビルを建てて核になるテナントを誘致する。それを請け負うデベロッパーは、ビルを竣工してテナントを誘致したら役目は終わる。誘致された大型店は、満足な収益が出ないと数年で撤退する。穴埋めに市の施設を入れたり公費で補てんしたりしながら、空きビル対策の悪循環が続く。

第3セクターは51%以上の株式を行政が持っているケースが多い。議会の合意に手間取り、意思決定が遅れがちになる。行政主導の再開発の限界だ。

所有権と利用権を分離

再開発事業が、国の認定事業として認可されるために準備を始めたが、都市計画法、都市再開発法、建築法、建築基準法、道路法、道路交通法、会社法、証券法、出資法などの法律が、新しいまちづくりを阻害する大きな要因になった。

1990年、様々な問題を解決するために、東京委員会と呼ばれた高松丸亀町タウンマネジメント委員会を設立、大学教授やコンサルタントなど都市計画の専門家から、定期借地制度を利用した土地の所有権と利用権の分離などの先進的な提案を受けた。

丸亀町はAからGまで7つの街区があるが、商店街全体のまちづくりと街区ごとの方針を合意して、各街区がそれぞれ独自に再開発することにした。

A街区の範囲は50メートルほどで地権者が27人いる。土地の評価額は130億円、これに70億円のビルを建てると総事業費は200億円かかる。地方都市では収支が成り立たない事業が、東京委員会の提案で可能になった。

第3セクターも地権者主導

98年に、A街区の27人の地権者などによる共同出資会社、壱番街株式会社を設立した。地権者の土地を借り上げる定期借地権の契約を結び、60年間の使用権を取得して、商業ビルを建設、テナントとして再入居する商店の配置や、キーテナントの誘致を通じて街並みを再構築することを計画した。

しかしながら、地権者に商業ビルの運営能力はない。そこで運営会社として高松丸亀町まちづくり株式会社を設立し、施設管理、テナントを誘致するテナントリーシング、販売促進などの専門家を公募で採用した。出資比率は高松市が5%、A街区の地権者と丸亀町商店街振興組合が95%で、行政主導の失敗の轍(てつ)を踏まない第3セクターだ。

地代は後回し

まちづくり会社は、テナント賃料収入から、銀行への返済、ビル管理費、会社運営費を差し引いた金額を地代として地権者に支払う。行政主導の再開発事業では、テナント賃料が下がっても地代を優先したために、運営会社のほうが破たんした。

「まちづくり会社がつぶれたら、商店街の再生はありえない。個人の権利を主張するか、全体の利益をシェアするか、損得の分かる地権者なら、まずこの会社を守ります」

地代を後回しにする「オーナー変動地代家賃制」は、再開発の大事な仕組みだ。地権者も組合も共同出資会社もまちづくり会社も、運命共同体になる。

成功の連鎖反応

▲丸亀町ドームは21世紀の豊かな空間を演出する

▲丸亀町ドームは21世紀の豊かな空間を演出する

A街区のシンボル、丸亀町ドームに向き合う東館と西館の、2階と3階を結ぶ通路を計画した。道路を挟んだ二つのビルに回遊性が生まれる。エスカレーターやエレベーターを半減できる。

しかし商店街は市道だから、道路の上をまたぐ通路は認められなかった。再開発特区を申請して、通路の必要性を説いて、認可が下りるのに3年かかった。

A街区は構想が固まるまで16年かかった。地権者全員の同意に4年を費やし、12年間は法律と前例の壁との戦いだった。

「計画立ち上げ当初の高松市役所は抵抗勢力でした。計画をいくら説明しても、ホラ話でしかありませんでした」

2006年にA街区の再開発ビルがオープン。翌年、丸亀町ドームが完成して、ホラ話が現実になった。B街区は4年、C街区は2年でまとまった。

この成功は、他の街区の地権者にも行政にも連鎖反応を起こした。G街区で、同じ構造の通路がある丸亀町グリーンが昨年4月にオープンした。あと5年もすればすべての再開発が完成する。

土地問題の解決にこそ

▲昨春オープンしたばかりの丸亀町グリーン ◆写真撮影 フォトグラファー 太田 亮

▲昨春オープンしたばかりの丸亀町グリーン
◆写真撮影 フォトグラファー 太田 亮

まちづくりは突き詰めると土地問題の解決だった。所有権と利用権の分離が、土地は個人のものという意識を、「まちの自治」のためのものへと変えた。

A街区は08年にMIPIM Asia審査員特別賞を、BとC街区は10年に、MIPIMの総合大賞を、それぞれの開発計画が受賞した。

「60年後はどうするのかって、いま答えられなくても問題の先送りにはならないでしょう」

MIPIM
リードミデム(本社・パリ)が主催する世界最大級の国際不動産見本市会議

MIPIM Asia
アジア版国際不動産見本市会議

古川 康造 | ふるかわ こうぞう

1957年 高松市丸亀町生まれ
1977年 立命館大学経営学部 入学
1981年 立命館大学経営学部 卒業
1983年 家業の野田屋電気に入り、四国で最初のパソコン専門店を開設しアップルコンピューターなどを扱う
1997年 高松丸亀町商店街振興組合に入る
2006年 高松丸亀町商店街振興組合理事長に就任
経歴
丸亀町不動産株式会社 専務取締役
香川大学 非常勤講師
2007年度(社)日本都市計画学会石川賞受賞
写真
古川 康造 | ふるかわ こうぞう

高松丸亀町商店街振興組合

所在地
高松市丸亀町13番地2
TEL:087-821-1651
FAX:087-823-0730
設立
1963年
理事長
古川康造
出資金総額
106万円(1口1万円)
組合員数
104(大企業数3)
組合員の定款上の資格業種
1)組合の地区内において小売業を営む者
2)組合の地区内においてサービス業を営む者
3)組合の地区内において前2号以外に事業を営む者
組合員の定款上の地区
高松市丸亀町1番地1より15番地6
組合の共同事業
町営駐車場3カ所、共同アーケード、カラー舗装、カード事業、共同イベント(春・夏・秋・冬)、ポケットパーク、イベントホール(1カ所)、カルチャー館(1カ所)
関連事業
丸亀町不動産株式会社
高松丸亀町壱番街株式会社
高松丸亀町まちづくり株式会社
確認日
2018.01.04

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