「笑顔戦略」で シェア競争に勝つ

日進堂 社長 喜久山 知哉さん

Interview

2013.08.01

家を建てるのは一生の一大事だ。自動車ディーラーの営業マンから転身した若者が、顧客満足を追及するCS活動を導入して香川県の住宅業界に新風を吹き込んだ。新設の支店を任され成果を上げ、ピンチの資金繰りを立て直した。

「経営を任せた以上は口を出さない」。社長になった喜久山知哉さん(38)に、前社長の千田善博さん(64)は言った。

日進堂は市場が収縮する香川県で、若年層の需要に応える自由設計の注文住宅でシェアを伸ばし、積水ハウスと大和ハウス工業に次ぐ第3位の年間120棟を建てる会社になった。

第3位の年間120棟
2011年4月~12年3月の着工戸数。【2013年度版都道府県別住宅着工数ランキング:日経ホームビルダー】

アルバイトで知った「笑顔の力」

母子家庭の4人兄弟の長男で、学費を自分で稼いで大学を卒業した。夜は居酒屋でアルバイトをした。つらくても疲れていても笑顔を絶やさない店長を見習った。

店長に「さわやかな笑顔がいい」と信頼された。在庫状況に応じた仕入れの計算、原価と売価の関係、経費と売り上げなど、商売と笑顔が人を引き寄せる接客の面白さを知った。

なじみ客の自動車ディーラーの社員の縁で、その会社に就職した。3年目、リコール隠しが発覚、「喜久山さんは信頼できても、会社は信用できない」と車のユーザーに言われた。

つらかった。辞めようと思った。知り合いに千田社長を紹介されて、「自分が納得できるものを売りたい」と想いを訴え転職した。

作り手が欲しがる家を

日進堂に入って1年目、昼は建築現場で職人に話を聞いた。夜は2時3時まで勉強して、2年目に宅地建物取引主任者の資格を、4年目に2級建築士や1級土木施工管理技士の資格を取った。営業部に配属され、3人組のユニットを任された。

当時の住宅業界でクレームは当り前だった。35年もローンを組んで買う家は、アフターフォローが大事なのに、成約すると次のお客さんを追いかけるから、社内でも業界でもその意識はなかった。

「途中入社の素人が勝手なことをして」。社内から異論や反発があったが、「目先の利益より、何十年先も仕事を続けられる会社でありたい。そのために売りたい家より作り手が欲しがる家を建てよう」と協力業者の一人ひとりに訴えた。

自動車ディーラーで得た営業活動

何度もぶつかったが、コミュニケーションを大事にしながら「クレームのない家づくり」をしようと真剣に訴えた。

「香川県でナンバーワンになる。年間必ず100棟以上建てる会社にする」と約束した。やれるだろうと思った。気持ちを奮い立たせた。

現状を打破するのはデータや理屈ではない、情熱だ。笑顔が人を惹きつけた。協力業者と同志になった。工事費の値下げも可能になった。

入社3年目、新設された高松東支店を任され、総勢5人で5億円の売り上げを目標に、自動車ディーラーで経験したCS活動を導入した。

「建てていただいたお客様を定期的に訪問、クレームのフォローや、何でも相談してもらえる存在を目指しました」。開設3年で、売り上げ10億円を達成できた。

社員に土下座

高松東支店の功績で常務になったが、しばらくして資金繰りが苦しくなった。売り上げ数字ばかりを追い求めて、それで経営者になったつもりだった。キャッシュフローや決算書など、経営者としての仕事に目を向けていなかったことに気づいた。

当時は売り上げの8割以上が分譲住宅だった。次々宅地を開発して売り上げが増えるほど、在庫物件も増えていた。

責任を痛感した。社員に土下座して謝った。「金が足りない。倒産するかもしれない。なんとしても不良在庫物件を売ってくれ。未収の金を集金してくれ」と訴えた。社員の気持ちが一つになった。全員ががむしゃらに営業して、約2カ月で、3億円あまりを現金化して危機を乗り越えた。

「これがきっかけで、会社も社員も強くなりました」

【建築棟数推移】
年度

香川県
着工戸数

日進堂
契約戸数

2006 7712棟 79棟
2007 6730棟 74棟
2008 7492棟 97棟
2009 5680棟 115棟
2010 5455棟 109棟
2011 5418棟 137棟

*香川県着工戸数の基礎資料は
 国土交通省「建築統計年報」による
*日進堂契約戸数は決算期ベース
 (12月~翌年11月)をもとに自社で集計

注文住宅でシェアを伸ばす

住宅業界は生き残り競争だ。2006年から11年までの6年間で、香川県の住宅着工件数は30%ほど減少している。

09年、社長になって、会社の体制を改革し、商品の品ぞろえを見直し、週1回の勉強会で専門知識や営業力の向上を図った。

「不動産の日進堂から、住宅の日進堂へ」。分譲住宅から注文住宅へとシフトした。注文住宅は施主の注文を受けて建築するから、分譲住宅に比べ投資金額が少ないので自己資金でまかなえる。また銀行からの借入額にとらわれることなく売り上げを伸ばせる。

注文住宅の営業は難しいが、土地付きで約2000万円から2500万円ほどの値ごろ感のある価格設定や、CS活動による知名度の向上でシェアを伸ばした。

転職して13年、いつも目標を達成してきた。前だけ見て走り続けてきた。ふと振り返ると、取り残されたり、辞めたりした社員がいた。

「悲しいというより悔しいです」。社員あっての会社だ。クレームのない家づくりのように、みんなを満足させる手法はないものか。あの居酒屋の店長に見習ったように、目標にする経営者との出会いはこれからかもしれない。

前社長に「任せる」と言われた責任は重い。5年後の目標は、大手ハウスメーカーと肩を並べる年間200棟だ。

営業とは・・・・・・。

ショールーム「住まいの図書館 高松」のキッチンコーナーとバスコーナー  ◆写真撮影 フォトグラファー 太田 亮

ショールーム「住まいの図書館 高松」のキッチンコーナーとバスコーナー

◆写真撮影 フォトグラファー 太田 亮

「いま営業の主力になっているのは、他業種から入った人たちです」。辞めた社員は、住宅業界の経験者が多い。

営業の最終目標は、車でも家でも同じだ。

「お客さんの笑顔です。お客さんの満足だと思います。家づくりに対する姿勢と、顧客満足に応える『営業努力』ではないでしょうか」

経験のない中途採用者でも、笑顔とやる気があれば2、3年で住宅業界の営業マンになれると自信を見せる。

喜久山 知哉 | きくやま ともや

1975年 兵庫県伊丹市生まれ
1993年 兵庫県立伊丹西高校 卒業
1997年 香川大学法学部 卒業
    香川三菱自動車販売(株)入社
2001年 (株)日進堂 入社
2003年 高松東支店 支店長
2006年 常務取締役
2009年 代表取締役
写真
喜久山 知哉 | きくやま ともや

株式会社 日進堂

所在地
高松市伏石町2037-18
TEL:087-866-6100
FAX:087-866-6139
設立
1968年
資本金
2000万円
代表者
喜久山知哉
売上高
30億6800万円(2011年度:契約ベース)
従業員数
68名(2013年7月現在)
事業内容
注文住宅、分譲住宅、増改築リフォーム工事、その他不動産総合業務建設業、設計事務所
登録/免許
宅地建物取引業者免許 香川県知事(13)第1015号
建設業許可 香川県知事(般-25)第6692号
一級建築士事務所 香川県知事登録 第2298号
確認日
2018.01.04

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