「塩抜き」うどんを 駅弁屋が作った!

高松駅弁 社長 関 優一さん

Interview

2013.09.05

発端は2年前の新聞記事だった。7月18日、海の日に「昔懐かしい連絡船うどんが振る舞われた」と載った。悔しかった。

JR高松駅構内のうどん屋「連絡船うどん」は、宇高連絡船のうどんの味を売り物にしているのに、このイベントでは他の業者のうどんが使われていたのだ。

その記事に、糖尿病受療率が全国ワースト1位の香川県は、うどんで糖尿病の原因になる炭水化物や、高血圧に影響する塩分を取り過ぎるから、野菜を一緒に食べようと「サラダうどん」が推奨されていた。

高松駅弁社長の関優一さん(64)は、持病の関係で塩分を控えてきたこともあって、うどんから"悪者の塩"を抜こうと思いついた。

名物駅弁に代わる商品開発を

気軽にその土地の味覚を堪能できる駅弁は、手に取った時の重量感がコンビニ弁当とは違うようだ。

列車の中で、夏の暑さにも傷みにくいように、寒い時期でもおいしいように、大量生産には向かない伝統の調理法で手間をかけた重さがある。

しかしコンビニ弁当との価格競争は厳しい。高松駅で1日150食、列車でも70食ほどしか売れない。そのうえ賞味期間は製造日限りだから、列車の運休による廃棄も多い。

JR系列で一番規模が小さい駅弁会社の(株)高松駅弁は、鳥取駅の「かに寿司」や北海道・森駅の「いかめし」、富山駅の「ますのすし」のような名物駅弁がない。だから新しい製品開発に意欲的で、塩抜きのさぬきうどんもその一つだ。

塩抜きで「コシ」が作れるのか

「塩が入ってないから、出汁や具材の味がそのまま麺に染みこんで美味しいです。うどんというより団子のようで、『コシ』はありません」。関さんは子どものころに食べた、祖母が作る打込みうどんの食感を覚えている。香川県の農家では、小麦粉に塩を入れずに練ったうどんと、野菜や油揚げをみそ仕立てにした打込みうどんがよく食べられていた。

塩はコシを強くする作用があり、うどん作りでは欠かせない。「塩抜きで『コシ』のあるうどんを作ろう」と言い出したものの、成功は半信半疑だった。

「関流」塩と水の加減

「土用など夏期は1杯の塩に対して水を3杯、寒中は6杯の水、春と秋は・・・・・・」。口伝「土三寒六常五杯(どさんかんろくじょうごはい)」で継承してきた塩加減だ。

さぬきうどんの塩と水の比率は店ごとで違う。高松駅弁のうどんは、小麦粉100グラムに対して、塩水48ccで練る。塩水の塩分は13.5%だ。

「製造現場で、『関流』と社長の名前を付けた口伝です」。専務で製造事業部長の平田成正さん(48)は言う。

必要な水・ゆで時間・温度

「関流」をもとに、塩を入れない水で小麦粉を練った。グルテンの粘性が弱く生地の成熟に時間がかかり、ゆでても麺の表面がざらざらして中に白い粉のような芯が残った。

「水の量もグルテンの粘性に影響するので、塩分を差し引いた水の量でやってみましたがダメでした」

1年ほど試行錯誤して、水の量を普通のうどんより3%少なくすればいいことが分かった。

塩抜きうどんは、ゆで時間がデリケートだ。普通のうどんが10分だとしたら10分10秒なのか11分なのか、少し時間がかかる。

ゆでた麺を洗う水の温度も低くしなければいけない。普通のうどんは水道水で洗うが、4~7℃の微妙な違いで硬くなったり軟らかくなったりする。

製造工場と火力が違ううどん店や家庭では、ゆで時間の調整がもっと難しい。そこで、解凍すれば簡単にコシのあるモチモチした食感になる冷凍うどんにした。

塩分がゼロにならない

「真水で小麦粉を練っているのに、塩分がゼロにならないのです」。香川県産業試験センターで分析してもらったら、100グラムのうどんに0.01グラム検出される。

釜を丁寧に洗って、麺をゆがいても残る。塩入うどんの塩分は100グラムに0.7グラムだから、ゼロに近い量だが、小麦粉そのものなのか、水道水に含まれているのか、まだ原因が分からない。

塩抜きうどんの評判

「乾麺や半生の塩抜きうどんや、減塩うどんは他社でも開発されていますが、ほとんど塩が含まれていない冷凍うどんは他にないと思います」

社内で試食を繰り返して、普通の「さぬきうどん」に近い食感になった。取引先の試食会では、事前に知らせないと、ほとんど塩抜きだと気づかれなかった。

市場調査のため、与島プラザと香川大医学部附属病院の売店へ持ち込んだ。「香川大病院では初め200玉を、評判が良くて最終は1600玉になりました」

冷凍の塩抜きうどんは、解凍時間を調整すれば、噛む力が弱い高齢者にも食べられる。離乳食にも病院食にも使えて、サラダなど料理のバリエーションも増えるだろう。

次は販路の開拓だ!

試行錯誤の末、完成した「塩抜きうどん」

試行錯誤の末、完成した「塩抜きうどん」

「商品化にたどり着けても、ヒットするまでの道のりは遠いです」。営業部長の小原知久さん(57)は言う。

健康に良くても、どこまで消費者に受け入れられるのか。新商品の開発より、もっと難しいのは販路の開拓だ。

高松駅弁は、年間20件程度の新製品を考案し、うち5つほど試作する。だが、商品化できるのはせいぜい1つだ。手作業が伝統で、大型の機械設備がないから、供給能力に限界もある。それでもチャレンジは続ける。

「塩分ゼロ麺使用うどん新発売。 塩分ゼロでも驚きの食感!生醤油うどん500円、ぶっかけうどん520円、うどん冷麺750円、ぶっかけうどんセット1000円」

8月3日から高松駅2階の直営店「艶艶」に登場した新メニューのキャッチコピーだ。

◆写真撮影 フォトグラファー 太田 亮

関 優一 | せき ゆういち

1949年 三豊市生まれ
1968年 県立高瀬高校卒業
    日本国有鉄道入社
2000年 高松駅長
2004年 高松駅弁入社
    代表取締役社長に就任
写真
関 優一 | せき ゆういち

株式会社 高松駅弁

住所
香川県高松市浜ノ町8-12
代表電話番号
087-851-7711
設立
1943年
社員数
63人
事業内容
駅弁の製造・販売
資本金
4500万円
沿革
1943年 高松駅弁当株式会社 設立
1963年 株式会社高松駅観光デパート 設立
1985年 高松駅弁当株式会社と株式会社高松駅観光デパートが合併し、株式会社四国観光弘業を設立
1999年 新本社、工場新築落成
株式会社高松駅弁に改称
地図
URL
http://www.jr-shikoku.co.jp/ekiben/index.htm
確認日
2011.11.17

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