母親の力が生んだ 学生服のリユースビジネス

サンクラッド 社長 馬場 加奈子さん

Interview

2013.09.19

「商売として成り立たないだろう」とみんなに反対された。開業3年目の今春、学生服のおさがりを買い取って売る小さな店「さくらや」は、お母さんやおばあちゃん、おじいちゃんであふれた。みんなが必要としていたのだ。

アイデアは、子どもを抱えたお母さんを支援するビジネスモデルとして注目されている。多店舗化も始まる。

「必要は発明の母」を、そのままビジネスで実現させた(株)サンクラッド社長の馬場加奈子さん(41)は、仕事に夢中だ。しかし一番大切にしているのは、子どもたちと過ごすお母さんの時間だ。

「おさがり」が無い!

「子ども3人のシングルマザーで、長女はハンディを持って生まれてきました。会社勤めのままでは子どもたちの世話は無理です」。子育てしながらやれることを何か考えなければいけないと思った。

そのための勉強も兼ね人脈をつくろうと、企業経営者向け保険を扱う生命保険の営業職員になった。中小企業経営者の勉強会にも参加した。その最中に気付いた。

「塾や習い事など教育費は毎年増えるし、成長期の子どもは、すぐ服のサイズが合わなくなります。学生服やセーラー服の買い替えで1万数千円もの出費は悩みです」

働いているから、学校行事に参加できない。転勤者が多いから、隣にだれが住んでいるかも分からない。おさがりを譲ったりもらったりする、親しいお母さんたちがいない。

子どもの頃あった「おさがり」のネットワークが無いことに気付いた。ヒントは足元にあったのだ。

商売にならない!

保険の営業で知り合った社長さんに紹介してもらい、大手中古衣料店の経営者に会えた。「アイデアには興味を持ってくれましたが、2年待っても取り扱ってもらえませんでした」。声をかけた人たちみんなに「学生服では無理だろう」、「商売にはならない」と言われた。

長女の養護学校入学が近づいた。これ以上延ばしても、子どもを抱えてやれる仕事は見つかりそうにない。

父の亡き後、弟が継ぐまで中古車販売店を経営していた母の馬場友子さん(64)に相談したら、子どもの時から決めたことはやり通してきた加奈子さんの背中を押してくれた。

東京の古着ショップや新古書店の最大手ブックオフなどを回って、商品買い取りの仕組みを調べた。貯金は300万円あった。半年でダメだったらやめると決めて踏み切った。

半年後に反響があった

中古衣料の販売は県公安委員会の許可が必要だ。「申請手続きを行政書士さんに頼むお金がもったいなくて、警察に何回も通って書類の書き方から教わりました」

名刺に「学生制服買い取ります」と書いて近所のお母さんたちに配ったが、無店舗では信用が得られないのか、反応はなかった。

2011年1月、高松市上之町に店を借りて、「さくらや」を開店した。狭い店に、ままごとのように50着の学生服やセーラー服を並べた。ホームページとして使える無料ブログで、店のPRを始めた。チラシを校区のマンションや住宅の郵便受けに入れたら反響があった。

「びっくりしました。チラシを持ってお母さんたちが次々店に来ました」。開店半年で、「おさがり」のネットワークを求めるお母さんたちとつながり始めたのだ。

さくらや
住所:高松市上之町3-10-22
TEL&FAX:087-887-6646
営業:月・火・木・金の10~15時(1~3月は日曜も営業)

株式会社を設立

ブログを見て「店の仕組みを教えて」と県内外から電話が二十数件あった。頭の中には素人が試行錯誤した工夫がいっぱい入っていたが、まだノウハウに出来なかった。

古着の臭いが嫌だった。経費はかかるが買い取った品はすべてクリーニングに出した。学生服は白洋舎に、体操服やシャツ類は就労支援施設「やったーまん」に頼んだ。

店のやり方が広がれば、子育て中のお母さんの独立支援になる。地域交流も盛んになり情報発信も増える。家計応援にもエコ活動にもなるし、障害者施設の支援事業にもなる。

フランチャイズ展開(FC化)に備え、今年3月、株式会社サンクラッドを設立した。

お母さんのためのビジネスモデル

帽子やネクタイなども扱う

帽子やネクタイなども扱う

さくらやの商品管理は、すべて手作業だから手間がかかった。一人では店を運営できない。FC化のために、買い取りの査定ルールを作ることにした。買い取った商品を本店で一括管理して、他店から取り寄せて対応する在庫管理システムをも整備する。

「服のしみや保存状態に応じて、ボタン一つで買い取り額が査定出来るようにすれば、バーコードの情報が、そのまま値札や通信販売のカタログにも使えます」

アイデア商法は、子どもを抱えたお母さんが一人で店を経営できる仕組みに成長し、独創的なビジネスプランを表彰する、かがわ産業支援財団の「かがわビジネスモデル・チャレンジコンペ2012最優秀賞」を受賞した。

日本政策金融公庫で融資を受けたのは母の勧めだった。担当者の元に何度も足を運び、事業計画の書き方などを聞いたことが事業を前進させる基本になった。

FC展開は、来年3月末までに香川県内で3店舗を、その後中四国や首都圏など全国で30店以上を目標に店舗網を拡大する計画だ。

一番大事な母親の時間

保険会社に勤めていた時、地域のささいな情報に敏感な経営者に会うことが楽しかった。「学生服のリユース」のアイデアを具体化するために飛び回るのも楽しかった。

「夢中で働いて、子どもが置き去りになりました。もっと頑張れば売り上げは上がりますが、子どもと過ごす時間が大事です」。だから、さくらやの営業は10~15時の5時間だ。

子どもを抱えたお母さんのためのビジネスモデルは、かつて学校の前に文房具店や駄菓子屋があったように、小さな市場の小さな商いだ。大企業では成り立ちそうにない。

「多店舗展開でネットワークが広がったら、子どもに関連した商品開発に取り組みます」

年齢を聞いたら一瞬言葉が途切れた。

「…仕事が面白くて忘れてた……」。豪快に笑った。

◆写真撮影 フォトグラファー 太田 亮

馬場 加奈子 | ばば かなこ

1971年 高松市生まれ
1990年 明善高校(現英明高校)卒業
1994年 東京女子体育大学卒業
    日動火災海上保険株式会社(現東京海上日動火災保険)入社
2006年 大同生命保険株式会社入社
2011年 さくらや開店
2013年 株式会社サンクラッド設立
写真
馬場 加奈子 | ばば かなこ

株式会社 サンクラッド

店名
学生服専門リユースショップ さくらや
営業所
高松市上之町3-10-22
TEL:087-887-6646
オフィス
高松市林町2217-15 香川産業頭脳化センタービル320号室
設立
2013年
資本金
50万円
代表者
代表取締役 馬場 加奈子
従業員
2名
事業内容
リユース学生服、体操服類の買い取りと販売等
上記業務のFC展開
認可
香川県公安委員会許可第811080001519号
確認日
2018.01.04

記事一覧

おすすめ記事

メールマガジン登録
メールマガジン登録
ビジネス香川Facebookページ