敷居を低く、「役に立つ」存在に

四国弁護士会連合会 理事長 吉田 茂さん

Interview

2014.11.06

中学2年の時、生徒会長を務めた。3年でも続けてほしいと請われたが気が進まなかったので、会長選挙の立候補演説で「別の人を選んでください」と演説した。落選し、当時は「やらなくて良かった」とほっとしていた。しかし年月が経つに連れ、「あの時、せっかく自分を必要としてくれていたのに・・・・・・」。ずっと心に引っかかっていた。

「今では、やれと言われたらやるべきだという考えに変わりました」。今年4月、弁護士仲間に推され、吉田茂さん(61)は四国弁護士会連合会の理事長に就任した。

裁判は時間がかかる。弁護士は近寄り難い・・・・・・。「裁判や弁護士に対するそんなイメージは都市伝説にすぎません」。その一方で、「でも、こちらももっと敷居を低くする努力をしていかなければならないと思っています」

身近なことでも気軽に弁護士を頼ってほしい。吉田さんは、こう力を込める。「弁護士はとても役に立つんです」

記憶に残る冤罪事件

忘れられない裁判がある。1946年、現琴平町で起きた榎井村(えないむら)事件だ。

当時43歳の男性が拳銃で射殺され、少年2人が逮捕された。実行犯とされた18歳の少年は無実を訴えていたが、最高裁で懲役15年が確定した。冤罪だとして後に40人からなる弁護団が結成され再審を請求。まだ駆け出しだった吉田さんもメンバーに名を連ねていた。「共犯とされた人物の供述の検討を担当しました。その人柄から、供述は信頼できると感じました」。その証言内容が決め手となり再審開始。事件から約半世紀後の94年、高松高裁で無罪が言い渡された。

「みんなが協力し情熱を傾けて成果を出す。全国的にも注目された裁判で、貴重な経験になりました」。そして、こう加える。「無実を訴えている人がそこにいる。事実と向き合い合理的だと思われたら、誰かが何とかしなければならない。それがまさに弁護士の役割だと思うんです」

弁護士になって30年。常に心掛けてきたのが、その「事実と向き合うこと」だ。

「弁護士の仕事は、誰かに言われたからこうしなければならないということがありません。事実の前に謙虚でさえあれば、誰に気兼ねすることもないんです」。気持ちを曲げられない性格の自分には、会社勤めではなく、弁護士がぴったり合っていたと吉田さんは振り返る。

距離を縮めるために

地域の弁護士や法曹界を取り巻く状況は今、決して穏やかではない。

今年5月、四国唯一の法科大学院、四国ロースクール(香川大・愛媛大連合法務研究科)の廃止が決まった。地域住民を支える法律の専門家は地域で育てようと2004年に開校したが、司法試験の合格率の伸び悩みや志願者数の減少が続いていた。講座の開講、教員派遣など四国弁護士会連合会でも協力体制を敷いていたが、吉田さんは「残念です。法律家を目指す地元の若者の志を断つようなことにはなってほしくない」と唇をかむ。

四国弁連が直面する課題もある。訴訟件数や弁護士への相談件数が年々減っている。09年の全国の民事第一審訴訟23万5000件に対し、12年は16万1000件だった。この傾向は四国、香川でもそのまま当てはまる。

「社会全体が幸せになったんでしょうか。それとも、弁護士が頼りにされていないのでしょうか。とても心配しています」

四国弁連の理事長として、吉田さんは「弁護士は役に立ちます」というキャッチフレーズを掲げた。

知人などから紹介され、吉田さんの事務所を訪れた人の中には、「どこへ相談に行けばいいのか分からず、とりあえず市役所や法務局へ行った」「弁護士が相談に乗ってくれるとは思ってもみなかった」などという人もいる。「相談料をいくら取られるか分からない」というマイナスなイメージがあることも分かっている。札幌の弁護士会では昨年10月から全国初となる相談料の全面無料化を始めた。「四国や香川で無料化の合意が得られるかどうかは微妙なところですが、市民の身近な存在になるようもっと努力していかなければなりません。困りごとが出来た時、とにかく弁護士のところに行けば何か手がかりはありますよと呼び掛けていきたいと思っています」

四国弁連の定期大会が今月14日、高松市で開かれる。四国4県の弁護士会会員が参加し、市民にも開放する四国弁連恒例の一大イベントで、市民との距離を縮める絶好の機会だ。

大会のメーンとなるシンポジウムのテーマは「死刑」。賛成派、反対派の弁護士などが徹底討論する。

裁判員裁判で一般市民にも死刑判決を下す可能性がある。死刑について一緒に考えてほしいと吉田さんは訴える。「死刑はいつ、どうやって行われるのか、死刑囚にはどれほどの苦しみがあるのか・・・・・・命を奪うというのは究極の人権侵害であるにも関わらず、情報があまりにも少ないのが実態です。存続、廃止、様々な意見があると思いますが、死刑制度がこのままでいいのかというのは、国民の考えを抜きにしては決められません」

今後も勉強会や講演会、無料の法律相談など、市民が法や弁護士と触れ合える機会を一つでも多く作っていきたいと吉田さんは考えている。

きっかけは「瀬戸内少年野球団」

出身は群馬県高崎市。香川にゆかりは無かった。司法試験を受けた帰り道、「瀬戸内少年野球団」の映画を見た。主人公の女性教師が夫をこんぴらさんに訪ねて行くシーンで、眼下に広がる讃岐平野やお椀を伏せたような讃岐富士が目に焼き付いた。「群馬の山と全然違う、こんなところが世の中にあるんだなあ」

司法修習生は実務修習を受ける際、行きたい修習地の希望が8カ所まで出せる。大阪、金沢、東京、横浜、函館・・・・・・高松も加えた。そして、修習先の高松で奥さんと出会った。「来て良かったと思っています。中学や高校の同級生など、みんな地元に置いてきましたが、こちらでも新しい仲間が出来ましたし、もう高松の人になったつもりでいます」

少年事件、損害賠償、交通事故、医療過誤・・・・・・常に30件ほどの案件を抱えている。すべてがほぼ同時進行しているが、「パソコンでいくつもウィンドウを開いているのと同じです。画面を開いて閉じて、きちんと切り替えてやっています」と事も無げに話す。

「もっと早く訪ねて来てくれていたら、もっと早く楽になれていたのに、と思うことはよくあります。市民との距離を近くして、この先もずっと香川で頑張っていこうと思っています」

◆写真撮影 フォトグラファー 太田 亮

吉田 茂 | よしだ しげる

1953年10月11日 群馬県高崎市生まれ
        東京大学法学部卒業
1987年 第2東京弁護士会登録
    大手電鉄、百貨店等の株主総会などの業務を担当
    義父・佐野孝次氏の香川県弁護士会会長就任などに伴い、
1989年 香川県弁護士会に登録替え
2004年 香川県弁護士会副会長
2008年 香川県弁護士会会長
2014年 四国弁護士会連合会理事長
佐野・吉田茂法律事務所所属
取扱業務 民事、商事、家事、刑事など全般
写真
吉田 茂 | よしだ しげる

四国弁護士会連合会

住所
高松市丸の内2-22 香川県弁護士会内
TEL:087-822-3693
地図
URL
http://www.shiben.org/
確認日
2018.06.07

佐野・吉田茂法律事務所

住所


高松市錦町2丁目9番27号
TEL:087-821-7847
FAX:087-851-9268
確認日
2018.01.04

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