地域に溶け込み
笑顔で心を治療する

こころの医療センター 五色台 院長 佐藤 仁さん

Interview

2018.12.06

患者の就労訓練と地域交流の場になっているカフェ「プルミエ」=坂出市加茂町のこころの医療センター 五色台

患者の就労訓練と地域交流の場になっているカフェ「プルミエ」=坂出市加茂町のこころの医療センター 五色台

治療の先にある“希望”

佐藤仁さん(55)は、いつもニコニコ笑っている。「人ってうれしいと笑うじゃないですか。患者さんや家族が笑顔になるような治療をしたい。私が笑っていないと、患者さんを笑顔になんてできませんから」

坂出市の医療法人「こころの医療センター五色台」は、一日に約400人が診察やリハビリに通う西日本有数の精神科病院だ。うつなどの気分障害、統合失調症や子どもにも多く見られる発達障害など、症状や重度はさまざま。佐藤さんは、それぞれの患者に合った病院独自の治療プログラムを組み、「笑顔での社会復帰」を目指している。「障害を持った不幸な人生だと悲観するのではなく、自分も社会に参加できる、もっとステップアップできると、希望を持ってほしい。単に治すだけじゃなく、ここに来て本当に良かったと思ってもらえる病院にしたい」
ホースセラピーの様子。乗馬体験は一般市民も可能 =センター内J’sセラピーガーデン

ホースセラピーの様子。乗馬体験は一般市民も可能
=センター内J’sセラピーガーデン

院内では2頭のポニーを飼育している。乗馬したりエサをあげたり、馬と触れ合うことで心を癒やす。「ホースセラピーを取り入れている病院は他にもありますが、実際に馬を飼っているのはうちくらいじゃないですかね」と佐藤さんは頬をゆるめる。

リハビリを行うデイナイトケア施設にはカフェが併設されている。地域住民に開放し、患者や職員がスタッフとして働く。「患者さんは『周りの人に面倒をみてもらう』姿勢になりがちです。カフェでパンを焼き、馬の世話をする。責任を持って働き、自分の価値を実感することが社会復帰の第一歩になると思います」。カフェの名称「プルミエ」は、フランス語で「一番目、最初」という意味。患者に人生の一番の主役になってほしいという思いを込めた。

地域に開き、外部と繋がる

こころの医療センター 五色台は1978年、精神科医だった父が五色台病院として開業した。当時佐藤さんは中学生。自宅は病院施設の中にあり、「患者さんと一緒に暮らしているようなものだった。何かサポートしたい、人の心を深く知りたい、という思いが当たり前のように芽生えました」

20代後半の研修医時代、徳島県美波町の精神科病院に勤めていた頃の経験が、佐藤さんの根幹にある。「精神科病棟と言えば、高い塀に囲まれ、患者が外に出るのは退院する時くらい。でも、その病院は当時には珍しく開放病棟が多かった。地域にも根ざしていて、患者さんが町に買い物に行ったり地元の人とお祭りやキャンプをしたり。まさに精神科医療のパラダイスでした」
地元の子どもたちで賑わう夏祭り

地元の子どもたちで賑わう夏祭り

徳島での研修を終えて五色台病院に戻ると早速、それまでは患者と職員だけでやっていた施設の夏祭りに地元の子どもたちを招待した。子ども会の世話役が病院の関係者だったことも幸いし、40人程が来てくれた。最初は互いに緊張したのか仲間同士で固まっていたが、花火が始まると雰囲気は一変した。「患者さんと子どもたちが火をつけ合ったりじゃれたりして交流の輪ができた。『やって良かった~』と心の底から思えました」と当時を振り返る。

「精神科医療に対する偏見は存在し、患者さんは少なからず差別的な境遇にある。そんなことはないと言う人がもしいれば、それはおそらく目を閉じているんでしょう」と佐藤さんは話す。

外部と繋がることで社会の意識も変わり、患者の社会復帰の手助けになる。その思いで、病院を地域に開くことに邁進してきた。夏祭りは今では毎年1000人程が参加する地域の恒例行事になり、市民に開放しているカフェ「プルミエ」は連日客足が絶えない。小豆島のオリーブ生産加工会社と連携し、患者が農園を訪ねて収穫の手伝いもしている。一方で「患者さんがトラブルを起こさないかという心配は常にある。私も職員も細心の注意を払いながら、緊迫した中でやっている」とも打ち明ける。

「患者さんも含めて思うのは、『自分たちで偏見のもとをつくっていないか』ということ。周りに迷惑をかけても、障害があるからこれぐらい許してよ、というのは決して良くない。症状が重くて仕方ない場合はあるが、私たちも患者さんを守りたい一心で自立の道を削いでいないか、常に自問しています」

医師として、経営者として

誰もが社会に参加し、 ステップアップできる

誰もが社会に参加し、
ステップアップできる

2000年に37歳の若さで院長になり、07年には介護老人保健施設や就労支援施設などグループ内11の施設を束ねる医療法人社団五色会の理事長になった。「とにかくいろんなことを変えたいと思っていました」

入院患者を中心に診る父の方針を転換し、外来患者の受け入れを積極的に進めた。今年2月からは救急患者の受け入れも始めた。「忙しくなるだけなので変えなくていい」「若造が何をやっているんだ」・・・・・・古くからの職員の反発もあった。だが、一人でも多くの患者を診たいという医師の顔と、患者を増やして経営を安定させなければならないという経営者の顔、二つの顔で信念を貫いてきた。「怖がっているだけでは前に進めない。『やろう』と決めて実行する。それが経営者の苦しみであり喜びであり、責任感だと思っています」

佐藤さんに今後の抱負を聞くと「つぶれない病院にすること」という答えが返ってきた。「つぶれてしまったら、患者さんにサービスができなくなる。つぶれない努力をし続けるのが私の使命。しがみついてでも継続させ、一人でも多くの患者さんや家族、ここで働く職員たちを笑顔にしたいと思っています」

篠原 正樹

佐藤 仁 | さとう ひとし

1963年 徳島市出身
1982年 丸亀高校 卒業
1991年 兵庫医科大学医学部 卒業
    香川医科大学精神神経科 入局
1992年 医療法人冨田病院(徳島・美波町)勤務
1998年 香川医科大学大学院 修了
2000年 医療法人五色台病院(当時)院長
2007年 医療法人社団五色会 理事長

こころの医療センター 五色台

住所
香川県坂出市加茂町963番地
代表電話番号
0877-48-2700
開設
1978年9月
(2017年11月に「医療法人五色台病院」から「こころの医療センター 五色台」に名称変更)
病床数
280床
精神科、心療内科、内科、歯科
地図
URL
http://www.goshikidai.or.jp/03goshikidai/
確認日
2018.12.06

医療法人社団五色会

設立
1982年
社員数
472人
事業内容
五色台クリニック、坂出メンタルクリニック、
事業所内保育園オリーブガーデン、
中讃地域生活支援センター、
共同住居アビタチオーネ、
介護老人保健施設五色台 ほか
URL
http://www.goshikidai.or.jp/
確認日
2018.12.06

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