自動走行システムを活かした地域の将来 小豆島住民が議論

内閣府戦略的イノベーション創造プログラム

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2018.12.06

 自動運転等の実用化によって、私たちの生活はどう変わるのか、期待する地域の未来像に向けて自動走行システムをどう活かすことができるか―。そうした身近な将来像について住民同士が直接話し合うイベントが12月4日(火)、小豆島中央高等学校で開かれた。

 主催の内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)自動走行システムでは、自動運転に対する理解と関心を高めるために、2年前から「市民ダイアログ」を開催しており、地方で行なうのは今回が初めてとなる。市民パネリストとして、島内の企業経営者のほか、地元の高校生や婦人会、老人クラブの会長など多彩な顔ぶれの16名が参加。県外からの移住者や子育て世代も含まれており、「日本の未来図 小豆島 ~地域で創るモビリティサービス~」をテーマに、それぞれの立場から様々な意見が交わされた。

小豆島が抱える移動・交通の課題

 2チームに分かれてのダイアログは、まず「小豆島が抱える移動・交通の課題」を共有することからスタートした。

 生活面では「バス停までの数キロが不便、買い物帰りだと荷物が増えて特につらい」「送迎に時間がとられることで習い事を諦めることもあり、子供の芽を摘んでいる思いがある」との意見のほか、特に高齢者等については「免許証がないと、どこに行くのも面倒なので返納したくない」「免許を返納すると、自身の生活で周りの手助けが必要になる」「バスに乗れない高齢者や障がい者も多く、送迎は家族でしなければならない」といった声も聞こえた。

 小豆島の地理的条件によるものとしては「島内は坂道が多く、自転車通学がしんどい」「船を下りてからバス発車までの待ち時間が長く不便」「夜間は孤島になってしまい、救急医療対応が必要な際に申し訳ない」「災害があった場合、島外に商品を運ぶことができなくなる」などの意見が出された。

 また、観光客が増加している小豆島では「近年は観光客の利用が増え、ビジネス利用者にしわ寄せがいっている」(タクシー事業者)、「冬期はバスが走らなくなり、個人観光客だと登り口まで来てもらう手段がなく、観光に来てくれているのに観光できていない」(ロープウェイ事業者)、「シーズンによっては通学で利用するバスが観光客で混雑して困ることがある」(高校生)など、生活者と観光客との移動手段共有における課題もあげられた。

より良い小豆島の姿とは。どのような移動があると良いか。

 続いて、「期待するモビリティサービス」について意見を交換。「乗り換え不要」「乗降の様子を見える化」「施設へのチェックインに合わせた送迎」「移動販売・娯楽」など、生活時間の有効活用・利便性につながるアイデアが多く出される中、現状では個別の企業や業界がもつ多様なデータや情報を共有し、サービスを連携させていくことが必要との意見も述べられた。

 印象的だったのは、この議題とセットで出された「より良い小豆島の姿」について話し合う場面。初めは、主テーマであるモビリティに関する意見が交わされていたが、そのうち「人と人とが助け合うことができている」「若い人がかえって来てくれる」「自動化が進んでも島の心を忘れないよう、子供たちに島の良さを伝えていくことが大切」「色んな企業や大学と連携した商品開発や実験の場として、もっと島を利用してもらいたい」といった大切に守りたい地元の魅力や将来像に言及、参加者の熱い思いがこちらにも伝わってきた。

自動運転は人の可能性を広げる

 最後の議題は「これからの移動・交通のあり方」について。まずは、危険予測の精度等の車両自体の安全性や従来車との併存時期の走行スタイル、無人運行車内での犯罪対応といった不安が口々に挙げられた。

 一方で、これら不安を解消するためにも、追い抜きする際には挨拶したり、人が前に現れたら道を譲ったりする「共感を持つAI」の必要性も語られた。また、ドライバーの役割として、運転者としては自動化によって軽減される反面、事故があった際に人を助ける保安員としての役目は自動化できない領域であることから、いま以上に多様な人がそれらの役割を果たせるようになる点が指摘された。

新しい時代にどんなコミュニティをつくるかは、住民みんなの課題

大学生によるグラフィックレコーディングが 議事内容をリアルタイムに可視化

大学生によるグラフィックレコーディングが
議事内容をリアルタイムに可視化

 ダイアログを終え、チームのファシリテーターを務めた2人は「自動運転という未知のものを自分たちに活かすとなれば、機械的な冷たいものにはしたくない。話し合いを通じて、最終的には“人を中心とした社会”であることを共有できた」「小豆島の良さを活かして、ここにしかない形で新しいものをつくっていくことが大事。今後も是非、実証実験の場として島と関わって欲しい」と感想を語った。

 今回のダイアログには、モビリティや都市デザインに関わる研究をしている東京の大学生10名が運営スタッフとして参加しており、「中央では出ない発想、出なかった意見を聞くことができた。こうした動きを横でつなぐには若い人の参画が必要で、継続的に来て欲しいとの意見が高校生からあったことは嬉しい」とイベントの成功を喜んだ。

 SIP自動走行システム・サブプログラムディレクターの有本建男氏は「今日のダイアログ自体が実験」と評し、「今日の内容を是非それぞれの地域に持ち帰って、関心を広めてほしい」と期待を込めた。SIP自動走行システム推進委員会構成員で国際自動車ジャーナリストの清水和夫氏は「2020年から2025年の間に、今までできなかったことが出てくる。新しい時代にどんなコミュニティをつくるかは、みんなの課題。移動は手段であって、その先に何があるかを考えることが大切」と述べた上で、こう締めくくった。

「モビリティが多様化すればコミュニティも多様化する」
Aチームの議事内容

Aチームの議事内容

Bチームの議事内容

Bチームの議事内容

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