焦らず、滞らず進む

香川高等専門学校 校長 安蘇 芳雄さん

Interview

2019.02.07

子どもの頃から機械いじりが好きだったが、大学では化学を専攻した。「壊れた時計などを分解すると、何となく原理は分かるんです。でも化学は、理屈はよく分からないけれど目の前で液体の色が変わったり物質が固まったり・・・・・・なんて不思議なんだとワクワクしました」

不思議を追究しようと中学で化学クラブに所属。大学では有機化学を研究した。ある性質をもつ物質をつくる、という目的に向かって物質を合成していく。結果を予測しながら進めるが、8割以上は思い通りにいかない。だから、化合物がうまく合成できた時は充実感があったという。
第29回プログラミングコンテスト「自由部門」で 最優秀賞と優秀賞を受賞

第29回プログラミングコンテスト「自由部門」で
最優秀賞と優秀賞を受賞

大学院卒業後は、大学で教鞭をとり研究機関にも在籍。研究の世界でキャリアを重ね2018年4月、香川高等専門学校の校長に就任した。「ロボットコンテストなどのイベントで見せる学生たちのはつらつとした姿や、技術の高さに刺激を受けました」。ものづくりに熱中する高専生たちの姿は、化学の不思議を探求していた自身の姿と重なる。

地域の課題を掘り起こし、考える

受け身で授業を聞くだけではなく、自ら課題を発見してそれを解決する力を養う「課題解決型の学習(Project Based Learning 以下PBL)」が注目されている。香川高専でもPBLを取り入れたカリキュラムを18年から試行実施している。

地域の人や企業に話を聞きに行き、さまざまな課題を掘り起こす。その中の一つとして、塩江で昔走っていたガソリンカーを復活させ地域おこしにつなげるプロジェクトが進んでいる。担当の先生を中心に1~3年生がチームになり、昔の設計図をもとにガソリンカーの復刻に挑戦している。どういう結果を目指すのか、そのために何をどういう方法で進めるか、正解が一つではない課題に対して模索する。「自分の専門以外のことでも『この原理や技術を利用すればできるんじゃないか』と気づける感性、別の専門家と協力しながらチームとして成し遂げられるコミュニケーション力も磨いてほしいと思います」

19年度から実施する新カリキュラムは、専攻する学科の基礎的な力をつけた上で、専門以外の知識や技術も横断的に学べるよう設定されている。また、学内で発明コンテストやデザインコンペを開催し、自分のアイデアが社会でどう役立つのか提案できる力を養うほか、知的財産権について学ぶ機会もつくっている。

「自分が開発した製品が社会のニーズにマッチしているか、販売するには――といったことも考えられる“起業マインド”を身に付けた学生たちの中から、地域の課題を解決するベンチャーを立ち上げる事例が出てくると嬉しいですね」

人間的な成長を

共同研究をしていたインド・コルカタの研究所で

共同研究をしていたインド・コルカタの研究所で

高専に入学した時は中学を卒業したばかりの学生が卒業時には20歳。心身ともにめざましく成長する時期だ。「私もその時期は、化学に夢中になった一方でバスケットボール部に入ったりアルバイトもしたり、いろんな経験をするよう心がけてきました」。学生たちもいろいろな経験をして、世の中の見方などを学んでほしいという。

これまでのキャリアの中で、さまざまなタイプの研究者と出会ってきた。周りの注目を集める人、地味だがしっかり根をはって実績を上げる人・・・・・・考え方もやり方もスピードも違う。学生たちも自分の個性を大事にしてほしいと考えている。「違うと思ったら進路を変えてもいいと思います。焦らず、滞らず、自分が納得できる人生を送ってもらいたいですね」

石川 恭子

安蘇 芳雄 | あそ よしお

略歴卯
1953年 福岡県生まれ
1971年 岩手県立盛岡第一高校 卒業
1977年 大阪大学理学部化学科 卒業
1979年 大阪大学大学院理学研究科
     有機化学専攻前期(修士)課程 修了
1981年 名古屋大学 教務職員
     (化学測定機器センター)
1983年 広島大学 助手(工学部第三類応用化学講座)
1992年 米国 ネバダ大学・ボストンカレッジ
     博士研究員
1994年 広島大学 助教授
     (工学部第三類応用化学講座)
1998年 九州大学 助教授
     (有機化学基礎研究センター)
2001年 広島大学 助教授
     (大学院工学研究科物質化学システム専攻)
2003年 大阪大学 教授(産業科学研究所)
2018年 香川高等専門学校 校長

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