人手不足の行く末

日本銀行高松支店長 小牧義弘

column

2020.01.03

「時給2,000円」。商店街で目に飛び込んできた金額は、ドラッグストアの新規開店に向けたアルバイト募集の貼り紙だった。時給2,000円というのは時間帯も期間も限定なのだろうが、一昔前では考えられない相場であり、最近の人手不足を端的に象徴しているように思う。

事業継続や地域経済維持のため、労働環境の改善、業務プロセス効率化、省人化投資など、様々な形で人手不足に対応していくことが必要不可欠なことは言うまでもない。もっとも、向こう数十年単位で考えると、国内人口が大幅に減少することは確実であり、香川県でも2045年までに生産年齢人口(15~64歳)が3割近く減少すると見込まれている。これほど大きな構造変化のもとでは、従来の延長線上の施策では十分に対応できない可能性が高い。給料を引き上げるにしても、それを払えるだけの製品・サービスの高付加価値化などビジネスモデルの見直しは不可避だし、自社の人手が集まったとしても周辺企業(例えば、製品を運ぶ企業)が人手不足で機能しなければ、結局自社の企業活動も止まってしまう。この間、各地域では人材の呼び込み競争が起こるだろうが、日本全体の人口が減少していく中ではマイナスサムゲームであり、すべての地域が勝ち組になることはあり得ない。また、東京への一極集中が問題との指摘もあるが、その東京でさえ、2045年までに生産年齢人口が1割減少する一方で、高齢者人口が4割近くも増加する見込みであり、働き手が十分にいるわけではない。既に、東京23区内でも、運転手不足から路線バスの本数を減らさざるを得ないといった事態も起きている。

こうした環境認識を踏まえると、技術革新などによる人手不足克服の努力を続けつつ、長い目でみて、人口が減少しても持続可能な地域経済やコミュニティーを作るという視点が重要だと思う。その際には、産業のあり方から人々の暮らし方まで根本的に見直すことが求められるかもしれないが、逆に言えば、そこにビジネスの商機があると言えるし、我々の暮らしにも新たな豊かさを見出す機会としたい。私自身も、自分が後期高齢者になる頃の社会を思い描きながら、当地にどのような貢献ができるか考えていきたい。

小牧 義弘|こまき よしひろ

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小牧 義弘|こまき よしひろ

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