商工奨励館

桜製作所 社長 永見 宏介

column

2015.10.15

広島の平和公園にある原爆ドームは、もともとは1915年、今からちょうど100年前にチェコ人の建築家によって設計され建てられた。産業奨励館と呼ばれ、日本で初めてバウムクーヘンが展示されたことなどが記録されている。1945年の終戦から70年を経た今年、世界平和を訴える象徴的モニュメントとなって我々に反戦の勇気を与え続けている。本来の産業振興の目的からは変わってしまったけれど、歴史の遺産だ。

ところで香川にもそんな産業振興の建物がある。1899年、栗林公園内に香川県博物館として建てられた現在の商工奨励館だ。商工奨励館の隣にある讃岐民芸館は、明治期の建物を生かして1960年代にオープン。奇才のアーティスト・和田邦坊の協力により様々なジャンルの民芸品を収集展示したもので、当時の産業を振興すべく民芸品に加え瓦工芸、家具の展示もした。商工奨励館は時を経て老朽化したので、耐震補強の対策工事を終え今年8月にリニューアルオープンしたばかりだ。

話は飛ぶが、1964年来日したアメリカ日系2世の木工家ジョージナカシマが、イギリスで出合ったオークの巨木を使って製作した二つの巨大なテーブルの一つを、日本での初個展開催のために出品した。そのテーブルは、今は無くなった知事公邸の来客用として香川県が購入し使われていた。その後随分と長い間仕舞われていたものが、今回、商工奨励館2階の休憩室に展示されることになったのだ。もう一つがアメリカのナカシマ工房に大切に所蔵されているので、歴史の上でも大変に貴重な作品である。

また、香川県民が東京で宿泊する施設として大江宏が設計し、麻布十番で長い年月営業してきた東京讃岐会館(東京さぬき倶楽部)には、多くのナカシマの作品が使われてきた。こちらの施設は再来年には閉館されることが決まっている。四十数年使われていたロビーの家具を補修して設置した。

一般に公開される場所に常設されたことで、産業振興はもとより香川県の芸術振興の一躍を担えることだと喜んでいる。

猪熊弦一郎、イサムノグチ、ジョージナカシマというアメリカと日本を舞台に世界で活躍した稀有な芸術家の足跡を、県内で大切に次世代へと受け継いでいくことは他県との差別化に役立つと期待している。広島で平和を象徴する建物として残された産業奨励館。香川の商工奨励館は芸術や工芸を振興する建物として、もっと活用されればと祈っている。

桜製作所 社長 永見 宏介

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桜製作所 社長 永見 宏介

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