「うまい」「安い」「早い」･･･失敗から学んだ経営戦略

めりけんや　代表取締役社長　諏訪　輝生さん

Interview

2009.03.05

うどん

経営戦略

飲食業

市場開拓

1990年11月、発足間もないJR四国が、ベンチャーで贈答や土産、業務用さぬきうどんの製造販売会社を設立した。1998年6月、諏訪輝生さんが2代目社長になった時、（株）めりけんやは設備の過剰が災いして厳しい経営を強いられていた。
諏訪さんは、就任前から決まっていた事業、フルサービスのうどん店を倉敷市茶屋町に開店したが、失敗して15カ月後に閉店した。
「赤字の会社が、さらに大欠損を被りました」。会社がつぶれるかもしれない。危機感を持った諏訪さんは、セルフ方式のうどん店でもう一度やり直そうと考えた。

失敗から学んだ経営戦略

「うまい・安い・早い」をシステム化したセルフうどんの多店舗展開で、製麺工場の稼働率を上げ、事業の拡大を図る。それが茶屋町店の失敗から学んだ経営戦略だ。東京や大阪に100店舗を展開しようという事業計画を親会社に提出したが、事業規模が大きすぎると心配された。　「『よしやれ』と。この一言で決心しました」。諏訪さんは、梅原利之社長（現JR四国相談役）に直接相談した時のことが忘れられない。

2000年3月親会社に「うどん店フランチャイズチェーン事業計画」が承認されたが、人も資金も余裕はない。オオタプロデュース（株）にＦＣ事業を委託してスタートした。さぬきうどんブームはまだ遠かった。

リベンジだ！

2001年6月、岡山駅への出店誘致が（株）ジェイアールサービスネット岡山（JR西日本グループ）から来た。店舗は15坪で、真ん中に太い柱があった。賃料が高い。日商15万円以上でないと利益が出ない。
「東京、大阪へ進出するパイロット店を作ろう」。茶屋町店の失敗で泣いた元店長や岡山店を任される社員たちが、必死になって動いた。
「成功するしかないんです。2回目の失敗は許されませんから」。導入する厨房機器のサイズや処理能力を決め、どう配置すれば日商15万円以上、つまり1日350人以上のお客さんに入ってもらえるか。「機器と同じサイズの段ボール箱を何度も置き換えて、従業員とお客さんの動きを研究しました」

一杯190円

セルフ方式。値段は小190円、中290円、大390円。トッピングは100円前後で客単価は500円。2001年10月19日岡山駅店開店。直後、千人以上のお客さんが入ってパニック状態になった。

さぬきうどんブームが諏訪さんを追いかけてきた。不安視していた親会社も人材と資金を投入した。岡山駅店をモデルに、次は東京進出へ。
「190円は安すぎる」。業務提携先の（株）日本レストランエンタプライズ（JR東日本グループ）が反対した。「価格は譲れません」。2時間以上議論した。100円、200円、300円で同業者のH社が、同じ渋谷区内に出店するからと、説得した。

「讃岐のつゆ」上京

そば文化の東京で、讃岐のつゆの味が受け入れられるかが一番不安だった。2002年8月25日、東京の1号店恵比寿店が開店した。「洗い場に、空のどんぶりが戻ってきたので、『やったー』とみんな歓声を上げました」
11日後の9月5日、渋谷区役所前にH社も出店した。連日テレビや新聞に取り上げられ、さぬきうどんブームが諏訪さんに追いついた。社長就任のとき3億7千万円の売り上げだった会社は、いま9億8千万円（2008年度見込み）になろうとしている。
梅原さんは、諏訪さんの著書「さぬきうどんや奮戦記」の「推薦のことば」に、こう書いた。「なんと、東京のど真ん中の恵比寿にさぬきうどん店をオープンしました。まさに諏訪君の執念が実った瞬間でした」

有難有楽(うなんうらく)

国鉄時代の労使関係がとことん対立した時期、諏訪さんは30代のほとんどを経営側の担当者として、ストライキ対策や団体交渉の最前線にいた。
同僚や上司の何人かが倒れた。諏訪さんも胃潰瘍（かいよう）で血を吐いた。「精神的にやられるか、体がつぶれるか。心身ともに極限の状態でした」。ただ困難に背を向けて逃げたとだけは言われたくない。すこしでも早く退院して職場に戻ろうと思った。
「仕事人生の最下点でした。めりけんやでなんとかやれたのは、あの厳しい試練があったお陰です」

座右の銘は「有難有楽」。諏訪さん自身の言葉だ。「ありがとうは『有難う』と書くでしょう。めったにないことをしてもらったり、困難を乗り越えたりしたところに、喜びや楽しみ、それに感謝があると思っていましたので、それを表現しただけなんです」