ピンチにチャンスをつかむ・・・しんどいけど、農業は面白い

やさい畑 取締役社長 近藤 隆さん

Interview

2009.05.08

食糧の自給率が40%を切った。去年は穀物が高騰した。高齢化で農業の後継者がいない。農地の流動化も進まない。農業を守れといいながら、工業製品を輸出して農産物を輸入する産業構造は変わらない。日本の農業がつぶれてもいいのか・・・・・・。言いたくもなる。
耕地面積が全国平均の半分以下で零細農家の多い香川に、農業のチャンスがあるという。就農希望者を受け入れ、外国人研修生を活用して、四つの農業法人を束ねる近藤 隆さん(59)だ。
44歳のとき交通事故に遭い、片足が不自由になるだろうと医者に言われた。もし、足が治ってもう一度農業がやれたら・・・・・・。近藤さんは病床で天井を眺めながら、10年先の農業経営を構想した。そして実践した。

※(食糧の自給率)
カロリーベースの食糧自給率39%、2006年度。

農業は面白い

農業はジグソーパズルのようだ。どうやって利益の出る農作物を途切れなく作り続けるか。人手をどう確保するか。パートか常用雇用か外国人か。仕事の相手は自然だ。まず計算どおりに進まない。いろんな条件を組み合わせ当てはめる。試行錯誤の繰り返しだ。
「台風で立ち直れないときもあります。価格が暴騰して思わぬ利益をあげるときもあります。思うようにはいきませんから5年ぐらいのスパンで収支を考えます」

農地は「借り手市場」

農地の流動化が進まない。宅地や大規模店用地に高く売れると考える「農外転用期待」が壁だといわれている。ところが香川は逆だ。 農業の主力は65歳以上だ。機械化で米や麦を作っていた団塊の世代がこれからリタイアする。ますます農家戸数は減って農地は余る。
「ひと昔前まで『1反米1俵』が香川県の相場だったのに、タダでいいという畑が多い。固定資産税も水利費も負担するから、農地を耕してという人さえいます」。宅地化しやすい農地は資産だ。相続税が安い農地のまま置いておきたい、からだ。

新規就農者に農業経営を任せる

1975年から農業関係の学校や海外からの研修生を受け入れてきた。94年から本格的な受け入れと、就農支援を始めた。いま日本人8人、外国人研修生15人を受け入れている。
「1週間程度の体験研修に、多いときは年に30人くらい、東京からも来ます」。いままでに10人あまりが後継者として自立した。
「香川でも農業で自立できるんです。百年に1度の不況は人材確保のチャンスです」。就農希望者には、農業技術のほかに、簿記やマーケティングなども1年間研修する。 新規就農者は若い頭脳と丈夫な体だけが元手だ。資金も畑もコネクションもない。近藤さんが設立した農業法人が自立を支援する。
「1年間研修した後、個人経営を目指す就農希望者には会社を任せます。利益を出せるようになればもう大丈夫です。その利益は自立のために機械設備を買う資金でもあるんです」。農地や運営資金の借り入れの連帯保証人になるなど、近藤さんは自分の息子のように面倒をみる。

法人化とグループ化で信頼を得る

法人化してグループ化する。価値観を共有する仲間がお互いを活かしあう。「一人ではロットが少ないし、残留農薬の心配もあって栽培契約の受注が難しくなります」
四つの会社の栽培面積は60ha。軟弱野菜を中心に冬場はレタス、一年中を通してねぎを栽培、米も作る。「レタスで年に3作、小松菜だと年に7作以上回転できます。北海道や長野は、冬は作れませんから2作が限界です」
手間のかかる軟弱野菜は、耕地面積の小さい香川県に適している。人口密度が高いし、労働力も販売先も確保しやすい。

※(ロット)
品物の取引や製造を行う単位のこと。目的に応じて発注ロット、製造ロット、運搬ロット、販売ロットなどという。

他業種並みの収入を確保する

就農者1人当たりの農産物の売り上げは、全国平均で500万円ほどだ。「諸経費を引いた4割から5割ほど、200万から250万が年収の限界です」。人を雇わないと年収は増えない。
繁忙期だけパートを使うか、常用で雇用するか・・・・・・。常用雇用で利益を出すのは難しい。「多くの人はここで立ち止まります。でもパートと外国人研修生を組み合わせると、他業種並みの年収が可能です」
外国人研修生は、香川県で72の農業経営体が200人ほど受け入れている。「大切な労働力です。農業は労働基準法が適用外ですが、外国人には適用されるので日本人より処遇が良くなる場合もあります」

※(農業経営体)
一定規模以上の農林業生産活動を行う者。組織の場合は代表者。

ピンチにチャンスをつかむ

1994年、交通事故で、股関節を脱臼骨折して6カ月入院生活を余儀なくされた。8割がた右足は動かなくなると診断された。
「もし、もう一度農業ができるのなら後継者を育てて就農を支援しよう。外国人の研修生を受け入れよう」。毎日病床で右足を治療器に引っ張られながら天井をみて考えた。
「農業は、介護と同じでこれから労働力が極端に減ります。新規就農者を育て、働き手を海外から連れてこなければ農業の自給率は上がりません」

2006年からタイの山間部で、野菜つくりを応援するNGO活動も始めた。「国に戻った研修生が自立して仲間を増やせば、その人たちを日本に出してもらうこともできます」。仲間を増やして助け合う。そして日本の農業を支える。

農業の基本は土づくりだ。客土や水回りの改良で農地を作る。人づくりも同じだ。意欲のある就農希望者を受け入れて、自立を支援する。
近藤さんは、ジグソーパズルのような試行錯誤でピンチにチャンスをつかむ。農業はしんどい。だけど面白い。

※(客土)
性質の異なる土を混入して土壌改良すること。
近藤さんは専業農家の長男だ。タマネギとニンニクを栽培していた父の義弘さんから27歳で農業経営を引き継いだ。
1972年に大学を卒業後、2年間の米国研修と台湾でタマネギづくりを見てきた。「台湾の南、高雄の気候は温暖で、当時の台湾はタダみたいな労賃でした。アメリカでは、向こうが見えないくらい広い畑を機械でタマネギを収穫していました」
日本のタマネギ栽培は手作業だ。台湾も同じだが労働力が安い。アメリカは広大な畑を機械でやる。世界から輸入できるタマネギに将来はないと思った。
「おやじに、軟弱野菜で勝負するといって、小松菜やホウレンソウやレタスを始めました」。優秀な人ほど農業以外の業種に就職するので、競争相手が少なかった。狙いが当たって土地も買い、蓄えも出来た。「順風満帆の時に交通事故に遭って、死んだと思いました。もういちど農業がやれるのなら、金もうけより他のことをやろうと思いました」

近藤 隆 | こんどう たかし

略歴
1950年 善通寺生まれ
1972年 日本大学農獣医学部卒業
1973年 アメリカで農業研修(派米農業研修)
1977年 専業農家を継ぐ
2000年 (有)やさい畑 設立
2005年 (有)めぐみ 設立
2006年 (株)まっ赤なトマト工房 設立
2008年 (株)近藤農園 設立


公職及び褒章

2003年 第1回かがわ21世紀大賞受賞

株式会社 近藤農園

住所
香川県善通寺市与北町3082
代表電話番号
0877-62-1297
設立
2008年
社員数
15人
事業内容
青ネギ、レタス類、キャベツ、コマツナの生産・販売
地図
確認日
2009.05.07

有限会社やさい畑

住所
香川県善通寺市与北町3082
代表電話番号
0877-62-1297
設立
2000年
社員数
7人
事業内容
水稲・青ネギ・レタスの生産、販売
地図
確認日
2009.05.07

有限会社めぐみ

住所
香川県善通寺市与北町3085
代表電話番号
0877-62-1297
設立
2005年
社員数
6人
事業内容
水稲・青ネギ・レタスの生産、販売
地図
確認日
2009.05.07

株式会社まっ赤なトマト工房

住所
香川県さぬき市寒川町石田東甲698
代表電話番号
0879-23-2151
設立
2006年
社員数
10人(パート4人を含む)
事業内容
ミディトマトの生産・販売
地図
確認日
2009.05.07

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