人、モノ、文化……地域を繋ぐ“シンボル”へ

本州四国連絡高速道路 社長 酒井 孝志さん

Interview

2019.11.07

海上175㍍の高さから瀬戸内海の360度大パノラマを望む=坂出市・北備讃瀬戸大橋

海上175㍍の高さから瀬戸内海の360度大パノラマを望む=坂出市・北備讃瀬戸大橋

7年連続で過去最高

瀬戸大橋など、四国と本州を結ぶ3ルート17の橋を維持管理する本州四国連絡高速道路(本四高速)。昨年度、本四3ルートの通行台数は4334万台を超え、7年連続で過去最高を記録した。「2009年に期限付きで実施された“1000円高速”などで高速道路が身近になった。ここ数年はインバウンド増などによる観光利用も活発です」。昨年6月に社長に就いた酒井孝志さん(67)は通行量が増えた要因を分析しながらも、「毎年伸びていくのが当然だと考えていてはいけない。人口減もあり、このままではいつか頭打ちになる時は来る。動向を注視しながら、新たなことにも取り組んでいかなければならない」と口元を引き締める。

いま力を入れているのは、瀬戸大橋の「観光資源」としての活用だ。「東京のレインボーブリッジ、サンフランシスコのゴールデン・ゲート・ブリッジ、ニューヨークのブルックリン橋……橋は、道としての機能はもちろん、人を惹きつける“まちのシンボル”でもあります」

申し込みが殺到している「瀬戸大橋スカイツアー」。今年の秋は、開催日を大幅に増やした。橋を支える土台部分から内部へと入っていく行程はまるで“秘境探検”。JR瀬戸大橋線の車両が真横を走る管理用通路を10分ほど歩き、作業用エレベーターで高さ175㍍の塔頂へ。この日、ヘルメットをかぶって案内してくれた酒井さんは「高所恐怖症ですが……」と苦笑しながらも、「普段なかなか見ることができないので、非常に価値があると思います」。眼下に広がる瀬戸内海の絶景に目を細める。

「ライトアップの日数も増やせないかと検討しています」。瀬戸内海国立公園内に位置する瀬戸大橋。鳥類や天体観測など自然環境への影響を鑑み、ライトアップは年間80日、計300時間に抑えるよう定められている。「インバウンド増など社会も変化している。もちろん自然に悪影響のない範囲で、もう一度考えてみる機会じゃないかと思うんです」。今年7月、交通政策や都市景観が専門の大学教授や、環境省の担当者らをメンバーに「瀬戸大橋橋梁照明在り方検討委員会」を設置。観光や地域振興により生かせるライトアップについて、ヒアリング調査やワークショップを重ねている。

「豊かな瀬戸内海に抱かれ、観光資源としての潜在能力は高いと思う。でも、まだまだ生かしきれていないのではないか。瀬戸大橋を地域のために最大限役立てていく。それが私たちの大きな使命です」

ガスと高速道路の共通点

点検状況を視察する酒井さん=坂出市・北備讃瀬戸大橋

点検状況を視察する酒井さん=坂出市・北備讃瀬戸大橋

生まれは京都市。エネルギー分野に興味があり、京都大大学院を出たのち、1977年、大阪ガスに入社。ガスの製造、供給、営業をはじめ、技術開発、情報通信、広報など幅広く携わった。

ガスから高速道路へ。全く畑が違うように思えるが、似ている部分は多い、と酒井さんは話す。「最大の共通点は、社会のインフラを支えていること。ガス管が壊れてガスが漏れると一大事で、維持管理をコツコツ続けることが重要なのも、高速道路と同じだと思う」。そして、こう続ける。「インフラ事業というのは、設備ができてしまえば“日銭”が入ってくる。『明日も同じことをやっていれば、まぁええやん』となりがちなところも似ているかもしれません」

いまが良くても、10年後、20年後が保証されているわけではない。続けることも大事だが、「社員たちにはどんどんチャレンジしてほしい。何より、“昨日も今日も明日も同じ”って面白くないですよね」と笑顔で話す。

「架ける技術」次の世代へ

海外での技術指導の様子=コンゴ民主共和国

海外での技術指導の様子=コンゴ民主共和国

「莫大なお金と時間と人々の努力でできた橋を200年以上もたせる。それが大目標です」

瀬戸大橋では、損傷のもとになる錆やひび割れを防ぐため、赤外線による最新の点検手法などを駆使した、実に20年がかりのメンテナンスが続けられている。

その一方、現在架橋工事が進む、愛媛・上島町の2つの島を結ぶ「岩城(いわぎ)橋」など西日本の各地、さらには、韓国、トルコ、エジプト、コンゴ民主共和国など世界各地の長大橋の建設現場で、本四高速の技術が活躍している。「技術力を維持・発展させるには、新しい橋の建設に関わっていかなければなりません。世界最高峰と言われた『橋を架ける技術』をしっかりと次の世代へ継承していくのも私たちの大切な責務です」

大学時代、所属していたバドミントン部の合宿で初めて四国・高松を訪れた際は、宇高連絡船に乗ってきた。社会に出て、坂出への出張で初めて瀬戸大橋を渡った時、「海の上に橋が架かっていることに衝撃を受けた。渡るのがとても楽しかったという記憶はいまでもあります」

酒井さんは、自身のやるべきことは「繋ぐこと」だと繰り返す。「物理的な橋渡しだけではなくい。人、モノ、文化、行政や民間……瀬戸内沿岸をいろいろな面で繋いでいきたい」。先月には与島パーキングエリアで、「バイクフェスタ」を初開催。音楽ライブやトークショーの他、バイク関連企業のブース出展などで会場は大にぎわいだった。「瀬戸内海クルーズも面白そう。やりたいことがいろいろあるんです。瀬戸内全体の活性化をベースにして、地域から期待され、それに応えられる会社を目指していきたいですね」
「貴重な観光資源 潜在能力をもっと引き出す」=神戸市中央区の本四高速本社

「貴重な観光資源 潜在能力をもっと引き出す」=神戸市中央区の本四高速本社

篠原 正樹

酒井 孝志|さかい たかし

略歴
1952年 京都市出身
1971年 洛星高校 卒業
1977年 京都大学大学院(衛生工学)修了
     大阪ガス株式会社 入社
2005年 取締役広報部長
2007年 常務取締役ガス製造・発電事業部長
2010年 代表取締役副社長
2013年 株式会社ガスアンドパワー 取締役会長
2018年 本州四国連絡高速道路株式会社 代表取締役社長

本州四国連絡高速道路株式会社

住所
本社 兵庫県神戸市中央区小野柄通4-1-22
    アーバンエース三宮ビル
    TEL.078・291・1000(代表)
坂出管理センター 坂出市川津町下川津4388-1
    TEL.0877・45・5511(代表)
設立
2005年10月1日
資本金
40億円
従業員数
388人(2019年7月現在)
事業内容
本州と四国を連絡する自動車専用道路の維持・修繕・料金収受、サービスエリア等の休憩施設(SA・PA)の運営、他
地図
URL
http://www.jb-honshi.co.jp/
確認日
2019.11.02

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