陽子(ようし)線治療を 多くの人に知ってほしい

オフィスうえた 代表 植田康広さん

Interview

2020.09.17

新しいがん治療の一つとして注目されている「陽子線治療」。より多くの人に知ってもらいたいと植田康広さん(60)は、第二の人生の仕事として、2020年6月「オフィスうえた」を設立した。

現在、がん治療の主なものとして知られているのは、手術、抗がん剤、放射線療法。陽子線は放射線療法の一種だが、x線やガンマ線などの電磁波(光子線)を使う従来の療法に対して、水素原子イオンなどの粒子線を使う。光子線は“面”で照射するため、がん細胞周辺の正常な組織への影響があるが、陽子線はがん細胞に照射を集中させることができ、正常な組織への影響が小さい。痛みや熱を感じることも少ないといわれている。ただ、治療できる施設が全国に18カ所で普及はこれからだ。

先進的な治療法を多くの人に知ってもらうため、陽子線治療についてまとめた冊子やDVDを制作し、知人や企業に配布している。専門家を招いて企業向けのセミナーも開催するほか、陽子線治療施設の情報を提供している。がんと診断された人から要望があれば、複数の医師の意見を聞くセカンドオピニオンに同行することもある。

「もちろん、陽子線で治療できないケースもあります。それでも、多くの選択肢を知っていることが大切だと思います」
セミナーの様子

セミナーの様子

オフィス設立前は、保険会社に勤めていた。「若いころは、数字やノルマを追いかけてばかりでした」。しかし、仕事でさまざまながん患者さんと出会う中で、がんはどんな治療をするかでその後の人生に大きな違いがあることを知った。
「お客様に保険商品の説明をして契約できればそれでいいのか」。そんな時、会社が陽子線治療の啓発に力を入れるようになった。体への負担が少なく、社会復帰も早いという治療法に興味がわき、勉強を始めた。

58歳のとき狭心症で突然倒れたことも、気持ちの変化に大きく関係した。「また発作を起こしてここで人生が終わったとしたら、自分は何を残しただろうか。これでいいのだろうか」

退職後に活動を始めたオフィスの看板には、「助かる命を助けるために」という設立時の思いが書かれている。
配布している資料

配布している資料

陽子線の勉強を始めたころ、余命半年と宣告されたが抗がん剤治療がつらく、やりたくないという人に出会った。陽子線治療をして2年後に亡くなったが、娘さんから「おかげで母らしく最期を過ごせました」と感謝されたことが印象に残っている。

四国にはまだ陽子線治療の施設がない。そのため、ドクターから陽子線治療を選択肢の一つとして提示されることは少なく、一般の人にはまだまだ浸透していない。「治療には約300万円かかるが、最近一部が保険適用になったこと、早い段階でないと治療できないケースもあるので必ず健診を受けた方がいいこと……一つずつ丁寧に伝えていきたい」。今後は、オンラインでのセミナーもしていきたいと意気込む。

石川恭子

植田 康広 | うえた やすひろ

1959年 木田郡三木町生まれ
1984年 住友生命保険相互会社 入社
2019年 同上 定年退職
2020年 オフィスうえた設立
献血、献眼、献腎、骨髄バンク、ピンクリボン運動の普及に努める

オフィスうえた

住所
香川県高松市中央町5-19
代表電話番号
087-837-8496
設立
2020
事業内容
陽子線治療の普及啓発
確認日
2020.09.17

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