でっかい目標を見つけた! 第二の人生行路

さぬきワインサポーターズ倶楽部 代表 中村 俊則さん

Interview

2012.02.16

第二の人生をどう生きるか・・・。晩年の身の処し方は難しい。難問を解くために退職2年前から、香川大学ビジネススクールで学んだ。地元さぬき市の特産ワインを、赤字に悩む第3セクター再生の起点にと、答えを出した。

がむしゃらで失敗をおそれない「よそ者」「若者」「馬鹿者」が地域活性の切り札というが、「さぬきワインサポーターズ倶楽部」代表の中村俊則さん(64)は、ちょっと違う。

地域の仕組みや情勢に順応しながら、しがらみの中で地元の課題に関わっていく。バンカーの経験と新しく学んだマネジメント理論で一歩ずつ前に進む。座右の銘は「従流志不変(じゅうりゅうしふへん)」(流れに従うも志は変わらず)だ。

大学院で学ぶ

志度町鴨庄生まれの中村さんは、中学は校区外の志度中学へ通い、高松一高、同志社大へ。勤務先の百十四銀行では転勤を繰り返した。

「子供の頃からこの年になるまで、ほとんど地元になじみが無かったんです。退職したら何かお役に立ちたいと思っていました」

誰でも過去の仕事に影響される。銀行員の履歴は、どうしても上から目線になると感じた。地元を見つめ直して理解し、親しみたいと、62歳で仕事をしながら香川大学ビジネススクール・地域マネジメント研究科に入学した。

時間・情熱・運+理論

ビジネススクールの理念は、地域リーダーの養成だ。授業は、実例をもとに教授と学生が議論しながら結論を出す。

「授業の結論に正解はありません。でも、創業や地域おこしに成功した講師の体験は、非常に参考になりました」

一朝一夕(いっちょういっせき)に目標は成就しない。「最低10年かかっています。成功要因は時間と情熱。そして運も必要でしょう」

利益を上げて高い給料を払えば人はついてくる。世間では当たり前のことだ。「もうけにならないことで、やる気をどうやって引っ張りだすか」という疑問に、八木陽一郎准教授の組織行動論で、内発的動機づけの理論が答えをくれた。これが、地域で活動するベースになると確信したという。

※内発的動機づけ
人が金銭や地位などの外発的な報酬に依存せず、仕事の中身そのものから得られる満足感によって仕事に動機づけられること。

研究論文は「さぬきワイン」

研究論文に、大串自然公園にある第3セクター「さぬきワイン株式会社」を取り上げた。

公園にはワイナリーやテニスコート、野外音楽広場、温泉、宿泊施設やオートキャンプ場もあるが、利用頻度が低く老朽化も進んでいる。野外音楽広場テアトロンは、「昨年利用たった1日」と報道された(四国新聞2010年6月25日)。

「温泉や、宿泊施設、レストランなどを運営する『さぬき市施設管理公社』そのものより、四国で唯一のワイナリーをテーマにした方が、成功すれば公園内施設全体に活性化の波及効果があると考えたんです」

うまいワイン

1988年に設立、翌年オープンしたさぬきワイナリーは、2006年度から赤字続きで、手掛けるワインに格別の特徴は無いし、期待もされていなかった。

06年、ワイナリーが香川大学農学部の望岡亮介教授と共同開発した「ソヴァジョーヌ サヴルーズ」(芳しき野生の乙女)が発売された。

新品種のブドウ「香大農R―1」は、ポリフェノールを普通の2~3倍多く含む。鮮やかで、濃いルビーレッドの「乙女」をワイン好きに飲んでもらったら、うまいという。渋みと酸味が少ないので魚料理にもあう。新酒(ヌーボー)で飲むのに適していると評価してくれた。

※ソヴァジョーヌ サヴルーズ
ハーフボトル1260円、フルボトル2100円。問い合わせは同ワイナリー(087-895-1133)。

経営戦略

香川県のワインの年間消費は、フルボトルで140万本ある(国税局の統計資料)。「さぬきワイナリーの販売数は、4万本から5万本ぐらいです。ブランド力を上げて販売方法を工夫すれば、仮に5%でも7万本は売れるはずです」

卸ルートの開拓。メイン商品の選別と育成。原料ブドウの生産予測。何をいつまでにやるかタイムスケジュールなど経営戦略を1年かけて研究した。 

「ワイナリー2階のレストラン(閉鎖中)も含めて、3年後に黒字になる再生計画です」。情報発信がなにより大事だ。そのための「さぬきワインサポーターズ倶楽部」設立も組み込んだ。

市に再生計画を説明

11年3月ビジネススクールを卒業した中村さんは、前年6月の退職直前に、さぬき市の監査委員を引き受けた。さぬきワイン株式会社は監査の対象会社だが、住民の立場で研究論文を、市長はじめ幹部やさぬきワイナリー関係者に説明した。

「市長から、論文のタイムスケジュールを基に実行したいという話はあったんですが、計画着手にはなりませんでした。外野席から背中をかいている感じでした」。中村さんは振り返る。

後継者と仲間の力

中村さんの研究論文を指導したマーケティング・マネジメントの西山良明教授の元に、後継者が現れた。元食品関係の営業マン、坂本孝司さん(40)だ。ゴルフと庭いじりで過ごそうと思っていた中村さんは、さぬきワインの販売戦略を研究したいという坂本さんの出現で、「論文のプレゼンだけで終わっていいのか。実行に移すべきではないか」と考え直した。

賛同してくれる仲間を集めた。中学校の後輩で、ワイン愛飲家の中前文男さん(62)、穴吹エンタープライズに勤めながら、香大経済学部でマーケティングのゼミに通って学んだ中村健治さん(37)、家族の希望で名前を出せない社長夫人。4人の仲間だ。

昨年9月、ワインの評判を広める「さぬきワインサポーターズ倶楽部」を設立した。最初の活動が11月17日、ボジョレーヌーボーの解禁日に、高松国際ホテルで開いた「さぬきワインヌーボーを楽しむ会」だった。

一つを動かせば全体が・・・

2回目は12月18日、さぬきワイナリーのレストランで、「き~まい!さぬきワイナリー ワインの集い」を開催した。「影響力を発揮するために、市長はもちろん、市議会議長、商工会や観光協会、ロータリーの会長など、地元の有力者を集めたんです」 

地元に人脈があまりない中村さんは、監査委員の肩書を大いに利用した。「飲んで食べて楽しかった、だけではだめで、繰り返しやらないと人は動きません」

まず、さぬきワイナリー事業を再生する。一つを動かせば大串半島の施設全体が動く。中村さんはでっかい目標を見つけた。

なじみの薄かった地元を、新しい生活の場として理解し親しむ中村さんは、やるべきことがあまりに多い。好きなゴルフや庭いじりを楽しむ余裕はそんなにない。

香川大学ビジネススクール

銀行の関連会社に勤めていた中村さんは、香川大学の事務局で60歳を超えても入学できるか尋ねて、その場で願書をもらったが、高校程度の数学知識が必要だと言われた。「高校、大学は文系を専攻したので、『中学1年の数学で微分・積分がわかる本』という本を買いました」。勤務先の、数学の得意な部下に教えてもらって、入学までにマスターした。

授業は夜6時20分から7時50分まで。「90分授業が日によって2回、9時半まで。土曜日は朝から授業がありましたが、ゴルフを優先して月曜日から金曜日までの講義を取りました」。無理せず、楽しみながら継続させた中村さんは笑う。

1年目の授業、ゲーム理論と統計分析の科目で、数学の猛勉強が役に立った。大学4年を卒業した学生が3分の1ほど。自治体職員と、大手企業の支店長クラスや、地元企業の経営者、それに現役を引退した人たち。定員は30人。年齢構成は、22歳から60過ぎまで。中村さんより年上が1人、中国の留学生が3人いた。

「世代や経歴を超えた交わりもできました」。中村さんはうれしそうに懐かしむ。

中村 俊則 | なかむら としのり

1947年 志度町鴨庄(現さぬき市)生まれ
1969年 同志社大学法学部卒業
1969年 百十四銀行入行
2001年 同行 営業支援部 部長
2002年 同行 リテール集中部 部長
2003年 百十四総合保証(株)へ出向
2005年 同社 取締役 審査部 部長(同行定年退職)
2007年 同社 常務取締役 審査部 部長
2009年 同社 専務取締役
2010年 同社 定年退職
2010年 さぬき市代表監査委員就任(現在)
2010年 11年 香川大学 経営修士(専門職)
写真
中村 俊則 | なかむら としのり

さぬきワインサポーターズ俱楽部/さぬきワイン株式会社

現在、会員は法人35社、個人95人。年会費個人会員5000円(法人1万円)を払って会員になると、年に数回、会員向けに開くイベント(ワインと食事など)に1回、無料で参加できる。その他にも特典がある。
問い合わせ先
さぬきワインサポーターズ倶楽部事務局
高松市鍛冶屋町6-11 AHビル7階
TEL:087-831-1540/FAX:087-825-0557
さぬきワイン株式会社 所在地
さぬき市小田2671-13(大串自然公園内)
TEL:087-895-1133/FAX:087-895-1134
info@sanuki-wine.jp
URL
http://www.sanuki-wine.jp
確認日
2018.01.04

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