希少糖は未来をひらく 世界初の価値ある事業

レアスウィート 社長 近藤 浩二さん

Interview

2013.01.03

自然界にごくわずかしか存在しない希少糖の研究開発と事業化モデルの確立は、文部科学省の知的クラスター創成事業に採択されて4年目の2006年、事業化できる見通しがないと厳しい評価を受けた。

総額25億円の産官学連携プロジェクトの本部長は香川県知事で、副本部長を研究機関の代表である香川大学長として務め、03年に学長を退任した後も継続していた。

「研究開発だけでなく、事業化を成功させることにも、多額の補助金を受けたプロジェクトのトップとして責任があると思いました」。(株)レアスウィート社長の近藤浩二さん(72)は役目を果たそうと、大学発ベンチャー「希少糖生産技術研究所」を設立した。

希少糖は夢の甘味料だ。メタボを防ぎ老化を遅らせるアンチエイジング効果もある。人生の最終段階で、ドラマのような世界初の希少糖事業の成功に一役買う面白さ。

イズモリングは戦略図

▲商品になった希少糖シロップのボトル(右)と特定保健用食品に申請中のD-プシコース結晶粉末(左)=レアスウィート提供

▲商品になった希少糖シロップのボトル(右)と特定保健用食品に申請中のD-プシコース結晶粉末(左)=レアスウィート提供

夢を紡ぐ主役がもう1人いる。香川大学農学部の何森(いずもり)健教授(当時)だ。何森さんは1991年、蜂蜜や果物に含まれる果糖を、希少糖の一つ、D-プシコースに変える新しい酵素を世界で初めて発見した。

これがきっかけとなり香川大学希少糖研究センターを中心に研究開発が進む。これまでに糖の最小単位である単糖の、それぞれが酵素反応で環状につながることが何森教授によって発表された。

「イズモリング」と名付けられた環状の構造が、一つひとつの単糖を生産する戦略図になって、希少糖の大量生産への道が拓(ひら)かれた。

ベンチャー作り挑戦

ニーズがあり市場ができるか、採算ベースに乗せられるか、事業化には大きな不安があった。実験室レベルの製造装置を工場生産プラントの規模に拡大するためには、多額の設備費用が要る。産官学連携プロジェクトに参画した企業も事業化に踏み切るのは容易でなかった。

「とにかく事業化にチャレンジできるベンチャーを作ろう」と関係者に呼びかけた。社員全員が出資義務を負い、利益分配や議決権を、出資割合と切り離して自由に決められる合同会社の希少糖生産技術研究所を06年に設立、代表社員に就いた。

資本金800万円は、プロジェクトに関与していた松谷化学工業(株)と(株)伏見製薬所が担ったほか、関係者が個人出資した。

6年後の12年8月、総工費約20億円、世界初の希少糖含有甘味料を年間1万2000トン製造する、松谷化学工業番の州工場の着工につながった。

量産技術確立、販売へ

▲希少糖の分子構造模型を前に何森 健さん(左)と談笑する近藤浩二さん =香川大学希少糖研究センターで、同センター提供

▲希少糖の分子構造模型を前に何森 健さん(左)と談笑する近藤浩二さん
=香川大学希少糖研究センターで、同センター提供

これまでの研究で、約50種類ある希少糖のうちD-プシコースには、血糖値上昇や内臓脂肪蓄積の抑制効果とアンチエイジング効果が認められた。D-アロースには、血圧上昇抑制効果や抗酸化作用があることが分かった。

10年、希少糖生産技術研究所と松谷化学工業は、D-プシコースなどを含む希少糖含有シロップの量産技術を世界で初めて確立した。

価格は24キロリットル入り一斗缶が9600円、販売を担当するのがレアスウィートで、これを甘味料として使った商品が香川県内の34社から売りだされている。

レアスウィートは10年3月末、松谷化学工業、希少糖入り食品を開発する合同会社希少糖食品、希少糖生産技術研究所が資本金1000万円を出資して設立された。兼任で社長に就任した。

希少糖生産技術研究所は、11年6月に資本金を10倍に増資して株式会社にした。去年6月、後任社長には何森さんが就任した。何森さんは08年に香川大学教授を定年退職したあとも希少糖プロジェクトのため特任教授として残り、同研究所で研究開発の日々を過ごしていた。

カギ握る知財管理

D-プシコースの甘みは、砂糖の7割程度だが、清涼感がある。希少糖生産技術研究所は、希少糖含有シロップからD-プシコースを抽出する技術を開発し、さらに、松谷化学工業などは安全な酵素を発見し、食品としてのD-プシコースを大量生産する技術を確立した。

香川県は「さぬき新糖」の愛称で和三盆に続く特産品を目指す。合同会社希少糖食品は、血糖値を抑えるサプリメントとして、消費者庁に特定保健用食品の申請をしている。

各種の希少糖商品の販売とともに、レアスウィートのもう一つの仕事は知的財産の管理だ。産官学が連携した事業は、大学と企業が共同や単独で特許を取得している。希少糖に関係する特許は、出願中のものを含め40~50件ある。安全性や機能性などについて調べた臨床試験データも多い。

研究が進むと、知財はますます増えて広範囲に分散する。これらを集中管理することで事業化は進展する。

夢の場所は校舎跡

▲研修センター入口のズイナの鉢植え。Dープシコースの正確な含有量が3%と分かったズイナの若葉は、かつては食用にされていた ▲希少糖研究開発の場所は廃校になった三木町の小蓑小中学校校舎跡  ◆写真撮影 フォトグラファー太田 亮

▲研修センター入口のズイナの鉢植え。Dープシコースの正確な含有量が3%と分かったズイナの若葉は、かつては食用にされていた
▲希少糖研究開発の場所は廃校になった三木町の小蓑小中学校校舎跡

◆写真撮影 フォトグラファー太田 亮

レアスウィートも希少糖生産技術研究所も、三木町小蓑(こみの)に建つ三木町希少糖研究研修センターに本社や研究所がある。廃校になった小蓑小中学校の校舎跡を利用している。

「何森教授が探し求めていた場所です。息の長い独創的な研究をするための、自然に囲まれた、静かな、夢の場所がここなのです」

研修センターの入口に、鉢植えのズイナが10鉢ほど並んでいる。別名嫁菜(よめな)の木。初夏に白色の花を咲かせる。若葉は昔、食用にされていた。

ズイナに、他の植物には存在しないD-プシコースが3%含まれていることが分かった。希少糖生産技術研究所と香川大学は共同して、謎の解明とD-プシコースを抽出する技術開発に取り組んでいる。

肥満の原因といわれている砂糖、ぶどう糖、果糖。今、代替できる甘味料が求められている。D-アロースは医薬品や化粧品などへの応用研究が進むが、商品化はこれからだ。約50種類ある希少糖から、どんな画期的効能が見つかるか、まだ分からない。

面白き夢は始まったばかりだ。

近藤 浩二 | こんどう こうじ

1940年 まんのう町生まれ
1962年 京都大学理学部物理学科卒業
1967年 京都大学大学院理学研究科(修士課程)修了
    香川大学教育学部助手に採用
1993年 教育学部長就任
1997年 香川大学長就任(2003年任期満了退職)
2004年 国立大学法人愛媛大学監事就任(07年辞任)
2006年 合同会社希少糖生産技術研究所設立
2007年 同研究所代表社員に(12年辞任)
2010年 株式会社レアスウィートを設立し代表取締役に就任
写真
近藤 浩二 | こんどう こうじ

株式会社レアスウィート

高松事務所
高松市番町1-1-5 ニッセイ高松ビル7階
TEL:087-823-1689
FAX:087-823-1691
本社
木町小蓑1351-2
確認日
2018.01.04

記事一覧

おすすめ記事

メールマガジン登録
メールマガジン登録
ビジネス香川Facebookページ