大学と企業を繋ぐ 懸け橋に

四国TLO 社長 兼平 重和さん

Interview

2016.09.15

技術移転部アソシエイトら四国LTOのスタッフ。中央が兼平さん=高松市林町の香川大学工学部キャンパス

技術移転部アソシエイトら四国LTOのスタッフ。中央が兼平さん=高松市林町の香川大学工学部キャンパス

花粉症やアトピー性皮膚炎などアレルギー症状を抑える効果が期待されるヨーグルトが昨年、四国のコンビニやスーパーで発売された。抗アレルギー性物質について研究していた愛媛大学と、新たな機能性食品の製品化を目指していた乳製品メーカーがタッグを組んだ。両者の橋渡しをしたのが四国TLOだ。

「大学が持つ技術で産業界はまだまだ活性化できると思います」

四国TLOは大学の技術を社会に生かそうと2001年に設立された。アソシエイトと呼ばれるスタッフが四国4県に散らばり、大学の研究の特許化、企業への技術紹介や製品化をサポートしている。

創業時から携わり、今年6月に社長になった兼平重和さん(64)は、「大学からビジネスが生まれれば、学生にとっても励みになる。四国発の技術で全国へ、世界へ挑んでいきたい」と産学連携への思いを熱く語る。

技術で”ウィンウィン”を築く

香川大学工学部の石丸伊知郎教授は、光のドップラー効果を使った最先端の研究を長年続けてきた。ボールの回転数や振動数を検出することで、軌道を3次元で予測するというものだ。この研究にゴルフボールを開発しているヨーロッパのメーカーが注目した。

兼平さんと、長年コアスタッフとして会社を引っ張ってきたマネージャーの辻本和敬さんは、こう話す。「最初は日本の企業に紹介していました。でも上手くまとまらず、『先生、ダメですね・・・・・・』とあきらめかけていたところ、海外の企業が噂を聞きつけてきてくれたんです」
香川大学の技術を基にしたテニスボールの回転計測の様子

香川大学の技術を基にしたテニスボールの回転計測の様子

四国TLOがこの技術の特許使用に関するライセンス契約に導いた。「ボールの回転を周波数で分析することで、どんな風に飛んでいくのかを予測することもできる。この技術をゴルフではなく、テニスの試合や練習で使いたいということでした」

これまでだと大学内部で完結していた研究が市場のニーズに合わせてブラッシュアップされ、早速海外のテニスの大会で新技術が使われたそうだ。

「商品がヒットすれば企業は潤い、大学も入ってきたライセンス料などを研究費に充てられる。共同研究で成果が出れば国の助成制度を活用することもできる。大学と企業との間でウィンウィンの関係が築けます」

「来るな」と怒鳴られても

TLOとは、Technology Licensing Organization(技術移転機関)の略称だ。大学が持つ技術の活用を目的とした「大学等技術移転促進法」が1998年に施行されると、株式会社や公益法人として全国各地の大学でTLOが次々と誕生した。

兼平さんは元々、四国電力の技術者だった。四国でもTLOを作ろうという動きの中で声が掛かり、設立時から主要スタッフとして携わった。「当時は不況で、これを打破するには大学の技術が必要だという産業界の強い思いがありました」。しかし、産学連携への気運が全国的に高まっても「大学にも企業にも、なかなか必要性を理解してもらえませんでした」

大学側の関心事は「論文」だった。研究を生かした新商品で利益を出すよりも、「先生にとっては、その研究で論文を何本書いたかということの方が重要なんです」。四国TLOの活動には香川大学や四国学院大学など四国内20の大学や高等専門学校が参加している。理系の研究者は総勢約2000人いるが、産学連携に積極的に協力してくれるのはこのうちの2割程度。「研究内容が外に漏れたら困るとか、なぜ産業界のために研究しなければならないのか、と考える先生も多いわけです」

一方、企業側も「最も必要とするのは、現状のビジネスの一歩先の技術です」。だが、大学の研究は数百メートルも先を行く最先端技術だ。将来、業界は本当にその方向へ向かっていくのか、この先、別の低コストな技術が出てくるのではないか・・・・・・。「共同研究には費用も労力も掛かる。最新の技術に関心があっても、ある程度先が見えないと企業は怖くて一歩目を踏み出せないのだと思います」

四国TLOの収入は、基本的には特許技術の利用に伴う企業から大学へのロイヤリティの一部を成功報酬として受け取る形だ。しかし、事業はなかなか軌道に乗らず、設立当初から産業界からの支援で何とか運営を続けてきた。

厳しい状況を打開するため、「大学の先生が研究内容を私たちに話してくれるかどうか。どこまで先生や企業の懐に入っていけるか。そこに重点を置きました」

教授らからうっとうしく思われても、「もう来るな」と怒鳴られても、粘り強く通い続け、研究の詳細を聞き取り、産学連携の必要性を説いた。企業に対しても、困っていることはないか、壁にぶち当たっていないか、それが新たな技術で解決できないか・・・・・・。今年3月に退任した前社長が徹底した営業活動を社員に課したこともあり、業績は除々に改善していった。
技術移転部マネージャーの辻本和敬さん

技術移転部マネージャーの辻本和敬さん

辻本さんは「現在、スタッフは大学に常駐して大学内を走り回っています。先生の方から『今こんな研究をやっているよ』と声を掛けてもらえた時、やっと懐に入れたんだと本当にうれしく思います」と目を細める。

「大学の技術がどこにあって、産業界はどこへ向かっているのか。ポイントを見極めて提案するのが私たちの使命です」と兼平さんは話す。一つのマッチングを成立させるのに数年掛かることもある。「何万もの案件に取り組んでも上手くいくのは数件です。それだけに、“縁談”がまとまった時の喜びは何物にも代えがたいですね」

一つの技術を多方面に活用

愛媛大学とらくれん(明治乳業)が共同研究で誕生した「N+ドリンクヨーグルト」

愛媛大学とらくれん(明治乳業)が共同研究で誕生した「N+ドリンクヨーグルト」

ここ数年、シンガポールやマレーシアなど海外の展示会に、大学と連携して積極的に出展している。「四国の大学と企業の技術レベルは非常に高い。今後はもっと海外に技術を売り込んでいこうと思っています」
愛媛大学とらくれん(四国乳業)との共同研究で誕生した「N+ドリンクヨーグルト」愛媛大学とらくれん(四国乳業)との
共同研究で誕生した
「N+ドリンクヨーグルト」  
更に力を入れていることがある。昨年、愛媛大学農学部と乳製品メーカーとの共同研究で、機能性食品「N (エヌプラス)ドリンクヨーグルト」が誕生した。基になったのは、柑橘類の果皮成分と牛乳のタンパク質の成分を一緒に摂取することで、花粉症などのアレルギー症状が緩和されるという発見だった。ヨーグルトだけにとどまらず、その後、別のメーカー2社との共同研究も始まり、みかん果皮が入ったゼリーとサプリメント錠剤の製品化にこぎつけた。「一つの商品を作って終わりではなく、一つの技術を多方面に活用してどんどん広げていく。そこまでやらないと産業界は盛り上がりません」
四国大学短期大学部が開発した「100%米粉パン」は地元のベーカリーショップが製造販売し、植物の光合成を解析する愛媛大学の技術は大手農機具メーカーが採用して「植物生育診断装置」という商品になった。

四国TLOでは現在、年間約100件の産学連携プロジェクトを手掛け、次々と大学から新たなビジネスの種を生み出している。「大学と企業が繋がることで、学生の学べる場も増えていきます」。それがこの会社の本当の目的かもしれないと兼平さんは話す。

「いつか学生たちのインターンシップをやりたい。自分たちが情熱を注ぐ研究や技術で産業界がどのように動いていくのか。そんな世界を学生たちにぜひとも感じてもらいたいですね」

編集長 篠原 正樹

兼平 重和 | かねひら しげかず

1952年 まんのう町生まれ
1979年 岩手大学工学部電気工学科 卒業
    四国電力 入社
    海外電力調査会研究員、四国産業・技術振興センター部長などを経て
2001年 四国電力から四国TLOに出向
2012年 四国電力 退職
    徳島大学特任教授
2016年 四国TLO 代表取締役社長
写真
兼平 重和 | かねひら しげかず

四国TLO(株式会社テクノネットワーク四国)

所在地


高松市林町2217-20
香川大学 社会連携・知的財産センター内
TEL:087-813-5672/FAX:087-813-5673
設立
2001年2月15日
資本金
2650万円
スタッフ
10人
参加大学・高専
香川大、徳島大、愛媛大
高知大、香川高専 等
四国内の15大学・5高専
地図
URL
http://www.s-tlo.co.jp
確認日
2018.01.04

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