ボトムアップで新しいものを生み出していく

琴平バス/代表取締役 楠木 泰二朗さん

Interview

2021.09.16

オンラインバスツアーを再現。 参加者はコトバスオリジナルの「シートベルト」を締める。 画面に映るのは、ツアーの発案者である山本紗希さん

オンラインバスツアーを再現。
参加者はコトバスオリジナルの「シートベルト」を締める。
画面に映るのは、ツアーの発案者である山本紗希さん

旅行ではなく「バスツアー」を再現

オンラインバスツアーでは、現地のガイドともつなぐ

オンラインバスツアーでは、現地のガイドともつなぐ

運輸と旅行を手掛ける琴平バス(コトバス)は「something new」を掲げ、コロナ禍においても歩みを止めなかった。2020年5月、Web会議システムを使った「オンラインバスツアー」の提供を開始。社内の企画会議で提案があってから、約2週間後のことだった。

代表取締役・楠木泰二朗さん(43)は「このスピード感は、中小企業の当社だからできたこと。コトバスツアーの常連客の皆さんに会える場として考えていたのですが、全国の方に楽しんでいただけているのは予想外です」と話す。商品化から1年で多くのメディアに取り上げられ、ツアー参加者は全国に広がった。

特徴はオンライン「バスツアー」であること。参加者には対面と同様に、コトバスツアーの楽しさを感じてもらう。実施日までに「旅のしおり」と「シートベルト」、旅先のお菓子や食事など特産品を届け、当日はWeb会議システムにログイン。コトバス添乗員との会話や事前に撮影した車窓からの映像を楽しみつつ、現地に「到着」。現地ガイドともオンラインでつながり、旅先を案内してもらう。ツアー時間は約90分だ。

一般客向けに、島根の石見神楽鑑賞、徳島の祖谷絶景旅、琴平の町歩き&中野うどん学校体験入学など週2~3本のオンラインバスツアーを提供。研修旅行や社員旅行など、学校・企業から個別に実施してほしいという要望もある。海外を目的地にしたものも開催しており、9~10月にはロシアへのオンラインバスツアーも予定している。

引き継がれる創業時の「DNA」

貸し切りやツアーに使われるバス

貸し切りやツアーに使われるバス

コトバスは、楠木さんの祖父が戦後に創業した。観光客でにぎわう琴平町でお客さんの移動手段として、タクシー会社からスタート。バスも扱うようになった。父が、旅行に特化した新日本ツーリストを設立。2社は2002年にグループ会社となり、現在、新日本ツーリストの業務はコトバスの旅行部門として引き継がれている。タクシー・高速バス・貸し切りバスの運行、バスツアーの実施やお遍路旅行の手配が、コトバスの事業だ。

楠木さんは、00年に新日本ツーリストに入社。営業や企画、添乗員を務めてきた。02年以降は、いかにバス利用の需要を喚起するかに心を砕いた。冬場に利用が減る貸し切りバスをスキーバスとして運行したり、05年の愛知万博の際は香川―愛知間に毎日バスを走らせたりした。11年から地元向けにコトバスツアーを開始。セールスポイントは「ツアープランナーのキャラクター」。お客さんとのコミュニケーションを大切にし、コトバスのファンになってもらう。コロナ禍以前は、ツアーの一つとして「感謝祭」を実施。ホテルで、プランナーがお客さんに向けてクイズを出題したり、演劇を披露したり。常連客に人気のイベントだったという。

「祖父は金色に塗装したバスや、車内に応接間があるバスを走らせるなど業界の中でも変わったことをしていました。誰もやっていないことを1番にやる。創業時のDNAは、今も引き継がれていると思います」。2000年代はじめの讃岐うどんブームでは、うどん店へ行くためにタクシーがよく使われた。数多くあるタクシー会社の中から選ばれるように、車の天井にうどんの器を載せ、運転手がガイドを務める「うどんタクシー」を走らせた。単なる移動手段では差別化が図れないと考えたからだ。

13年にコトバスの社長に就任した楠木さん。「オンラインバスツアーもうどんタクシーも、社員からの提案です。自分の力は小さいので、ボトムアップでいろんなアイデアを出してもらう。時代の要請に応えつつ、みんなで『何か新しいもの』に挑戦し続けたい」

観光はこれからも成長産業

うどんタクシードライバーの多田純さん

うどんタクシードライバーの多田純さん

コトバスのコアバリューとして掲げているのが「something new」に加え、「スマイル&ホスピタリティー」。楠木さんは、琴平町の役に立てることが他にもあると考え、「アーティスト&クリエイター・イン・レジデンス」というプロジェクトを経営者や地域の仲間と進めている。町内のビルを改装し、アーティストの居住空間やアトリエ、イベントスペースを設ける。琴平で生まれた作品を、琴平のお店で売りたいと考えている。

「香川県民にとって琴平は、初詣や県外からお客さんが来た時に行くところ。『今週末、琴平へ遊びに行こう』とはならない。やはり地元の人に愛されてこそ、県外や海外の人にも愛される場所になると思います」

昨年、YouTubeに「うどんタクシーチャンネル」を開設。ドライバーの多田純さんが、動画で県内のうどん店と観光地を紹介している。コロナ禍が終息した際には、県内外の人に香川で遊びたいと思ってもらえるように、情報を発信している。「観光が成長産業であることは、これからも変わらないと思います。今は頑張り時。新しいことを考えたり挑戦したりする時間ができたと思っています」

鎌田 佳子

楠木 泰二朗|くすのき たいじろう

略歴
1977年 坂出市生まれ
1996年 坂出商業高校 卒業
2000年 四国学院大学 卒業
     新日本ツーリスト株式会社 入社
2005年 四国巡拝センター株式会社 設立、取締役就任
2007年 新日本ツーリスト 代表取締役
2011年 琴平バス株式会社 取締役
2013年 琴平バス 代表取締役

琴平バス株式会社

住所
香川県仲多度郡琴平町1228-1
代表電話番号
0877・73・3331
設立
1956年(琴平タクシーとして)
事業内容
運輸(高速バス、路線バス、貸切バス、タクシー)、旅行
【高松営業所】
高松市朝日町5-4-18-1F
TEL.087・823・5678
【徳島営業所】
徳島県鳴門市撫養町木津字原見谷1456-12
TEL.088・678・4311
【グループ会社】
四国巡拝センター株式会社
地図
URL
https://www.kotobus.com/
確認日
2021.09.16

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