「伝えたい」という思いが原動力

NHK高松放送局長 相川恵祐さん

Interview

2021.10.07

大学ではジャーナリズム論などを学び、記者を志した。卒業論文は「客観報道と主観報道」。中立性、信頼性のために記者の主観を交えない客観報道こそジャーナリズムという議論が当時あったが、「何を報道するか選ぶ時点ですでに主観が入っている。客観性は保ちつつも『これを伝えたい』という思いが報道の原動力であるべきだ、というような内容でした」

しかし、入社後に配属された福井放送局では、取材しても1分程度のニュースの中に“思い”を入れることができなかった。毎回3分近い交通事故の原稿を書いてデスクに削られた。その後、そんなに伝えたいことがあるならという上司の計らいで、夕方の情報番組で交通事故防止をテーマにした週1回のコーナーを担当することになった。

伝えたいのは、悲惨な事故をなくしたい。そのためにどうすればいいか。時間をかけて目撃者や遺族に話を聞き、専門家から見た現場の問題点なども紹介した。半年間続ける中で視聴者から手紙が届き、現場に信号機が設置されるなど、反響もあった。「情報を伝えるだけではなく、報道をきっかけに社会がほんの少しでもよくなったと思うと達成感がありました」

忘れられない出会い

ニュース情報番組「ゆう6かがわ」の五味哲太アナウンサー(右)と

ニュース情報番組「ゆう6かがわ」の五味哲太アナウンサー(右)と

伝えたいという思いを持ち続けることで、“思い”をもった人との縁もつながる。10年前に一度、高松に赴任した際に出会ったのが、香川短期大学名誉学長だった故・北川博敏さんだ。人口あたりの糖尿病患者数全国ワースト1、子どもたちにも糖尿病予備軍が増えている中で、北川さんは全市町で子どもたち対象の血液検査を実施するよう県などに働きかけていた。精力的な姿に刺激を受け、夕方の情報番組でこの問題を取り上げた。

さらに、糖尿病以外にも香川には不名誉な記録があることを知り、「香川のワーストをなくせ」というコーナーを立ち上げた。人口あたりの交通死亡事故数、野菜摂取量など様々なテーマを取り上げ、先進県の取り組みも取材し、解決策も提示した。

「2年続いたコーナーを通して、香川の課題に向き合えた。きっかけをくださった北川さんには感謝しています。北川さんのほかにも、香川をよくしたいと思う人と一緒に仕事ができたことは財産です」

地域に必要とされる放送局へ

かがわ絵顔プロジェクトの展示

かがわ絵顔プロジェクトの展示

今回は、二度目の高松赴任。局長として、旗振り役として香川に貢献したいと考えている。8月まで実施した「かがわ絵顔(えがお)プロジェクト」では、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館などと協力し、「いま描きたい顔」をテーマに絵を募集したところ、2000点近い作品が寄せられた。コロナ禍で会うことができない家族や自分の心の顔を描いたものなどで、作品の展示から放送、イベントにいたるまで5か月間、局を挙げて様々な取り組みを展開した。

暮らしに閉塞感が広がる中、絵を描くことで心を落ち着かせたり、絵を見ることで大切な人への思いを巡らせたりしてもらうのが狙いだったが、「多くの県民の皆さんに参加していただきました。これからも地域に寄り添いながら、今地域に何が一番必要かを職員、スタッフとともに考え、行動していきたいと思います」

石川恭子

相川 恵祐 | あいかわ けいすけ

略歴
1965年 愛知県出身
1984年 愛知県立千種高校 卒業
1988年 上智大学文学部新聞学科 卒業
    日本放送協会 入局
    福井放送局放送部
1998年 報道局制作センター(ニュース7)
2005年 京都放送局放送部副部長
2011年 高松放送局放送部副部長
2013年 同 放送部長
2018年 広島放送局企画総務部長
2020年 広島拠点放送局副局長
2021年 高松放送局長

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