デジタル社会の地図の読み方 作り方

著:若林 芳樹/筑摩書房

column

2022.03.03

地図はというと、おそらく大方の人にとってはとても地味な印象でしょうし、紹介してみたものの皆さんに果たしてどれだけ手に取ってもらえるか心配になりました。個人的には地図を読むのは大好きで(見るではありません)普通の本を読むように、つい時間を忘れてしまうことがあります。

著者によれば地図とは地球表面の全体または一部を縮小し、記号や文字を用い平面に表現することで可視化したもので、これまで人類が蓄積してきた空間的知識を記録し保存する貯蔵庫であり、それを伝えるためのメディアの役割も担ってきました。私は知りませんでしたが17世紀の画家フェルメールの「地理学者」という作品を著者が紹介しています。そこには地球儀や様々な地図に囲まれた仕事場で、窓越しの世界を思い描く17世紀当時の地理学者が描かれています。その時代から300年以上たった現在、地理や地図の世界は大きな転換点を迎えています。

実際カーナビの普及で紙の道路地図は書店の店頭でも売上が激減したように、デジタル化で地図の作り方から使い方というものが大きく変わってしまいました。ネットワーク環境で利用されるウェブ地図では、利用者が好みに応じて地図を作り替えたり、地図づくりにも参加できるようになって、作成者と利用者の境界が曖昧になってきているということです。すっかり身近になったグーグルマップやハザードマップ、それからグルメマップなどもありますが、地図の世界はずいぶんと広くなりました。

本書では、グーグルマップで誰もが自由に世界中の地図を閲覧出来るようになったが、それによって私たちは世界について視野や関心を拡大できたでしょうかと問いかけます。実際は見たいものだけしか見なくなり、検索で出てきたごく狭い範囲しか興味を示さず、全体を見渡す習慣が失われてしまうと指摘します。まだ発展途上でもあるので、いい方向へ行くことを願っています。もっとも、それにAIが加わった車の自動運転の世界ではその地図さえ必要がないということです。机の上に広げられた大きな一枚の地図を見たのも、遠い昔のことになるのでしょうか。

山下 郁夫

宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん

坂出市出身。約40年書籍の販売に携わってきた、
宮脇書店グループの中で誰よりも本を知るカリスマ店長が
珠玉の一冊をご紹介します。
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宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん

宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん

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