世界を動かした名演説

著:池上 彰、パトリック・ハーラン/筑摩書房

column

2024.01.04

話す力、話術で世界を変える可能性はあるでしょうか。この本はその可能性を探る一冊ですと著者の一人パトリック・ハーランことパックンは言います。著者のお二人、池上彰もパックンもテレビなどでおなじみですから知らない人はいないでしょう。本書は歴史上の名演説をただ集めただけのものではなく、池上彰がその演説の背景を、パックンがそのテクニックを解説していきます。池上彰はニュース解説の専門家ですし、パックンは知らない人もいるかと思いますが、大学で教鞭をとるコミュニケーション学や修辞学の専門家でもあります。

有名な演説といいますと、まず頭に浮かぶのはリンカーンのゲティスバーグ演説でしょうか。「人民の、人民による、人民のための政治……」、その他ケネディやオバマなどアメリカ合衆国の大統領の演説はよく見たり聞いたりするので強く印象に残ってしまいます。この本ではリンカーンとオバマ元大統領は取り上げられていませんが、他にイギリスのチャーチル、ドイツの「過去に目を閉ざす者は現在にも目をつぶることになる」のヴァイツゼッカー、昭和天皇、メルケルやゼレンスキー大統領も紹介されています。

演説は継承されます。本書で高く評価されているチャーチルを引き継いだゼレンスキー大統領の演説はイギリス人の心に深く届きました。演説の伝統があまりない日本人も、アメリカの連邦議会で行った安倍元首相の演説もテクニックの面では評価されています。キャロル・キングの「君の友だち」のエピソードはいただけません。この本に掲載された各演説は、心を動かす話術と歴史を動かすインパクトの両方の面から選ばれ、演説の分析は実生活にも活かせ、コミュニケーションのコツを学ぶには話術の結晶である名演説が最高の教材だと著者は言います。個人的にはドイツのメルケル元首相の演説が同時代のものでもあり心に沁みました。

名演説はスピーチライターの力が大きいと言いますし、これからの演説はAIを含めたあらゆるものを動員して、計算し作られ私たちに訴えてくるでしょう。それを聞き高揚した気分の時、あらぬ方向へ連れていかれぬよう気を付けたいとも思います。

宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん

坂出市出身。約40年書籍の販売に携わってきた、
宮脇書店グループの中で誰よりも本を知るカリスマ店長が
珠玉の一冊をご紹介します。
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宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん

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