ロボットに命吹き込む “細・軽・強”ケーブル

吉野川電線 社長 木村 浩さん

Interview

2017.06.01

吉野川電線本社工場=高松市小村町

吉野川電線本社工場=高松市小村町

自動車やスマートフォンを組み立てる産業用ロボット向けケーブル製造で、全国有数のシェアを誇るのが高松市小村町の吉野川電線だ。

「ロボットにとってのケーブルは人間にとっての血管や神経。切れるとロボットが死んでしまう。今後の日本や世界の産業を支える大切な使命を担っていると自負しています」

木村浩さん(55)は、吉野川電線の親会社、三井金属鉱業からの出向で3年前に社長になった。「産業用ロボットの世界は、まだまだ伸びしろのある成長性の高い市場だと思います」

かつては液晶ディスプレイを作る薄膜材料の技術者だった。電卓パネルや薄型テレビなど急成長した市場を知る木村さんが、細く軽く強いケーブルでロボットに新たな命を吹き込んでいく。

年々2割増の成長産業

吉野川電線は5万種類以上の電線や通信線を年間約360トン製造・出荷。売上の7割以上を産業用ロボット向けケーブルが占める。

産業用ロボットとは、工場の製造ラインで人間に代わって部品の組み立てや溶接、着色などを行う機械装置や、電子部品実装装置の総称だ。ここ数年ではスマートフォンを組み立てるロボットが増えている。「自動車製造用と違ってロボット自体が小さく、配線のスペースも狭いので、軽くて細いケーブルが必要になる。ロボットメーカーが求めてくる、細くて軽くて強いケーブルが私たちの最大のテーマです」


ロボット用ケーブル「モビロンタフケーブル®」は、その「細さ」「軽さ」「強さ」が最大のウリだ。ケーブルは何百本もの銅線を撚り合わせて作るが、その銅線1本1本をより細くし、ケーブルの太さは同じまま銅線の本数を大幅に増やすことに成功。本数増によりケーブルがさらに丈夫になった。「産業用ロボットは俊敏に動くものもあれば、ひねったりする激しい動きのものもある。求められるのは、動いても絶対に切れないケーブルです」
高性能ロボットケーブル 「モビロンタフケーブル®」 

高性能ロボットケーブル
「モビロンタフケーブル®」 

吉野川電線は、四国電力に電力用ケーブルを供給することを目的に1948年、徳島で創業した。61年に非鉄金属の大手、三井金属鉱業が資本参加、80年に本社工場を高松に移し、電線一筋に事業を展開してきた。

「すぐに切れて困る扇風機の首振り部分のコードを何とかしようと、頑丈なケーブルの開発に乗り出したのがきっかけだと聞いています」。86年、ロボットケーブル分野に進出すると、当時は耐久性の高い電線を手掛ける企業が少なかったこともあり、強い電線を求めるロボットメーカーから次々と声が掛かるようになった。

「インダストリー4.0(※1)やIoT(※2)、自動化へのニーズなどにより、一昨年くらいから産業用ロボット市場は活況です。成長軌道に乗っているという実感もある。30年前、業界のパイオニアとしてロボットケーブルに舵を切ってくれた先輩方には本当に感謝しています」

ロボットケーブルの売上は年々2割ずつ増えており、今後は販路を中国や台湾、韓国など海外にも広げていきたいと木村さんは力を込める。

※1〈インダストリー4.0〉2011年にドイツが提唱した製造業の長期ビジョン。生産工程のデジタル化・自動化を高め、コスト削減を目指す「第四次産業革命」。
※2〈IoT〉「InternetofThings」(モノのインターネット)。パソコンやスマホなどの情報通信機器に限らず、身の回りのあらゆる「モノ」がインターネットにつながる仕組み。生活やビジネスが大きく変わるとされる。

「液晶から「ロボット」へ」

大学は電子工学科に進んだが、3年生の時に入ったゼミで「材料」の魅力を知り、方向転換した。「分子や元素を扱う材料の分野は目に見えない小さな世界ですが、きっとこんな風に層が積み重なったり、こういう反応が起きたりしているんだろうなと想像するのがとても楽しかったんです」

1984年に三井金属鉱業に入り、液晶パネルに使われる電気を通す特殊な薄い膜の材料、酸化インジウムスズの研究開発に没頭した。「今でこそテレビは液晶が当たり前ですが、私が入社した頃はようやく電卓の画面に使われ始めた程度でした」

電卓パネルからパソコンのモニター、何十インチもの大型テレビ。加速度的に進化する液晶とともに木村さんはキャリアを重ねた。「世の中は軽薄短小へと突き進んでいた時代でしたが、私たちだけは少しでも大きいものを作ろうと躍起になっていた。液晶のビジネスがどんどん大きくなっていったことも体感しました。一番の成長期を必死になって生きてきたなあという気がしますね」と振り返る。

液晶用材料の事業に20年以上携わり、機能材料事業本部の企画部長だった2014年、グループ会社の吉野川電線の社長を命じられた。「まさか社長をやることになるとは思ってもみなかった。社長の仕事とは何なのかも分からず、最初は戸惑いました」。しかし、こう続ける。「液晶という成長分野をずっと見てきて、再びロボット産業という成長市場に関わることになった。不思議な縁を感じますね」。成長期にどうやって運営していくか、自分だからこそできる何かがあるのかもしれない、と木村さんは話す。

社員の意見で新商品開発

ロボットケーブルの 耐久性試験の様子

ロボットケーブルの
耐久性試験の様子

四国、香川にゆかりはなかった。社長になり、最初に社員全員と面接し、感じたことがあった。「県民性なのかもしれませんが、基本的にみんな真面目で、変化を好まないんだなあと」

木村さんには信念がある。「仕事=業務+改善」。尊敬する先輩にかつて教えられたことだ。「仕事というのは業務だけじゃない。改善や改革がないと仕事とは言わない。常に変化していないと埋もれてしまいます」

吉野川電線は1000社以上ある取引先からの、長さ、太さ、重さや形状など多種多様なケーブルの発注にカスタムメイドで応えるスタイルで売上を伸ばしてきた。きめ細かな対応で顧客の信頼獲得につなげてきたが、「お客さんがついている仕事を優先する受け身の姿勢でした。それだけではなく、私たちの側から新しい商品を提案していくこともこれからは必要です」

社員たちから意見を募ると、「もっと細くて軽くて強いケーブルを作りたい」という声があがった。商品化を目指して開発を進め、昨年、モビロンタフケーブルの最新版「スリムシリーズ」を完成させた。従来品よりも30%細く、40%軽量化した小型ロボット向けケーブルだ。「国内だけにとどまらず海外からも反響があり、一つの武器になりつつある。社員たちが自ら取り組んだ吉野川電線発の新商品は、私としてもとてもうれしかったです」

親会社からの出向で社長になったが、今年1月に55歳になったのを機に、吉野川電線に籍を移した。この地に全てを捧げる覚悟を決めた。「目指しているのは、社員が『自分の子どもを入れたい』と思えるような会社です。人がきちんと成長できるような会社にしていきたいですね」

編集長 篠原 正樹

木村 浩 | きむら ひろし

1962年 東京生まれ
1984年 日本大学理工学部電子工学科 卒業
    三井金属鉱業 入社
2004年 機能材料事業本部 薄膜材料事業部
    技術部長
2007年 機能材料事業本部 薄膜材料事業部
    企画室長
2011年 日本結晶光学 出向
2013年 三井金属鉱業 機能材料事業本部
    企画部長
2014年 吉野川電線 代表取締役社長
写真
木村 浩 | きむら ひろし

吉野川電線株式会社

住所
高松市小村町331
代表電話番号
087-847-5161
事業内容
各種電線の製造・販売
設立
1948年7月31日
資本金
4億442万6150円
地図
URL
http://www.yoshinogawa-densen.jp
確認日
2021.11.04

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