美味しければ 必ず生き残れる

堺屋醤油 社長 三谷 朋幹さん

Interview

2017.05.04

坂出市大屋冨町の堺屋醤油

坂出市大屋冨町の堺屋醤油

卵かけご飯用、冷やっこ用、刺身用・・・・・・。食卓の様々なシーンに合わせた「専用醤油」で注目を集めているのが坂出市の堺屋醤油だ。「地元坂出市の五色台にかけて、彩り豊かな5種類の紙パック醤油をつくりました。でも、『こんな醤油も欲しい』というお客さんの要望もあり、今では7種類に増えました」

1819年に醤油蔵として創業した堺屋醤油は1970年代に入り、協同組合から醤油の元になる生揚(きあげ)醤油を仕入れて加工する業態へと舵を切った。今は時代の変化に伴い、さらにその姿を変えつつあると三谷朋幹社長(47)は話す。

「醤油屋さんから、だしの素やドレッシングも作れる調味料屋さんへとシフトしているところです」

姿かたちは変わっても追い求める信念は変わらない。「お客さんに『美味しい』と言ってもらえれば、必ず生き残れると信じています」

三谷さんは地元食材を使ったユニークな調味料を次々に開発し、新たな味で食卓を彩っていく。

地域限定商品を

売れ筋ナンバーワンの「たまごかけしょうゆ」は、本醸造醤油にカツオやコンブのだしを利かせた卵かけご飯専用の醤油だ。「薄口醤油を使ってだしの風味を生かすことで卵の臭みを和らげています。醤油自体の色も明るくし、パッケージは卵の黄色にしました」

「讃岐白」シリーズは、醤油ではなく塩がベースのうどんつゆ、ドレッシング、ぽん酢の3本セット。それぞれ従来のものより白っぽく、瀬戸内の海水を煮詰める昔ながらの製法で作った塩を用いている。かがわ県産品コンクールで優秀賞も受賞した人気商品だ。「特に塩ベースのぽん酢はあまりないと思います。最初はネーミングを『塩シリーズ』にしようかと思いましたが、減塩ブームもあったので『白』にしました」

創業当時、堺屋醤油は自前の醤油蔵で醤油を作っていた。その後、人手やコスト面などの合理化から、生揚醤油を協同組合から仕入れて加工する現在のスタイルに変わっていった。「スーパーで特売の目玉商品として醤油がミネラルウォーターより安く売られることもある。そうなると、『ただ作って売るのではもう無理だ』となった経緯があります」

日本では1990年頃から醤油自体の消費量は年々減り続けている。「食生活の多様化などから、だし醤油やぽん酢など醤油加工品の消費が伸びています」。醤油を加工する技術を生かし、調味料へと守備範囲を広げることで可能性は十分あると三谷さんは話す。「地元の食材にこだわり、食事のシーンに合わせて使い分けてもらえる調味料が提供できれば、お客さんに受け入れられると思っています」

醤油はショウガ入りの冷やっこ用を作り、うどんつゆは釜揚げうどん用やイリコだしなど4種類を揃えた。三豊市の荘内半島で栽培される高級唐辛子・香川本鷹を使ったドレッシング風の特製だれは、「酒の肴をピリ辛で食べるのにぴったり」と男性に人気だ。「豊臣秀吉による朝鮮出兵の際に持ち帰ったと伝えられている香川本鷹は、生産量が少なく“幻の唐辛子”と呼ばれるほど。この地域でしか採れないものを使うことで、『ここにしかない味だね』と言ってもらえます」
「讃岐白」シリーズ(右)と、香川本鷹、 温州ミカンなどを使ったオリジナル商品 

「讃岐白」シリーズ(右)と、香川本鷹、
温州ミカンなどを使ったオリジナル商品 


今でこそ豊富なラインナップを揃えるが、失敗作も少なくない。「冷やっこ醤油は夏場向けなので、冬用に『湯どうふ醤油』を作りました。でも売れなかった。湯どうふは冷やっこほど頻繁に食卓に出ないので、『なべ醤油』にしておけばよかったと思っています」。オリーブ醤油にもチャレンジしたが、「オリーブの主張が強くて醤油と合わず、うまくいかなかった。そもそもオリーブオイルだけで十分美味しいですよね」と苦笑する。

父の遺志を継ぎたい

たまごかけ、さしみ、冷やっこなど 7種の「カラフル紙パック醤油」

たまごかけ、さしみ、冷やっこなど
7種の「カラフル紙パック醤油」

堺屋醤油は1819年、造り酒屋の一事業として「堺屋」の屋号で創業、1947年に独立した。

元々は三谷さんの親類が経営していたが、2008年に「買収されるという話が持ち上がりました。堺屋の醤油が大好きだった父が『譲るのは惜しい』と会社を引き受けたんです」

当時三谷さんは、ポリ袋やうちわなどを製造販売する実家の丸善工業を、創業者の父から引き継いだばかりだった。「丸善ではパッケージ印刷も手掛けているので、商品のデザインの相談などを父とよくしていました」

しかし、わずか3年後に父が他界した。「堺屋醤油を手放そうかという話にもなりました。でも、美味しい醤油を残そうとした父の遺志を継ぎたいと思ったんです」。丸善工業と堺屋醤油、2社の社長を兼務する覚悟を決めた。

「業界が全く違うので難しい面は多々あります。でも、食品業界はお客さんの反応がダイレクトに返ってくる。厳しいことも言われるが、応えれば喜んでもらえる。そのことに大きなやりがいを感じますね」

7種類の醤油は、赤や黄、緑など7色の紙パックも特徴の一つ。「カラフルで可愛らしい」と評判のパッケージをプロデュースしたのは丸善工業だ。

「三金時」挑戦

堺屋醤油はスーパーやうどん店などに商品を卸し、県内での売上が全体の7割を占める。ここ数年の和食の世界的なブームで、だしや醤油を買っていく外国人客が増えているそうだ。「和食と言えば、一汁三菜が基本とされていますが、私は味噌や醤油などの調味料が和食の肝だと思っています。外国の料理にも堺屋のだし醤油を入れただけで日本風の味になりますから」

三谷さんには、どうしても商品化させたい食材がある。金時イモ、金時ニンジン、金時ミカン。鮮やかな赤と甘みが特徴の地元坂出が誇る「三金時」だ。「醤油やドレッシングなど試行錯誤しながらやっていますが、なかなかうまくいきません。酸化して色が落ちてしまうので、金時の明るい赤を出すのが難しい。今もまだ開発の途中です」

ひとまず地元の温州ミカンを使い、果汁入りの「ミカン醤油」を商品化した。ほのかなミカンの香りが鍋や野菜のおひたし、卵料理などに合うと人気だが、「いつか三金時の調味料をセットにして販売したいですね」と語る。

商品を大量生産して売上を伸ばす。経営者なら誰もが掲げる目標だが、三谷さんは「大きな工場でど~んと作って、というのは私には向いていないと思う」と控えめに話す。「私はこの業界ではまだまだ素人で、考えが甘いのかもしれません。でも安価な商品を大量に並べても、この先、生き残れないと思うんです」

近所の主婦に「うちの子、卵かけご飯が大好きで、『たまごかけしょうゆ』を毎日使うんです」と言われたことがとてもうれしかった。味には人それぞれに違った好みがある。だからこそ、できる限り細かく丁寧にやっていきたいと繰り返す。

「食は人生の大きな楽しみです。楽しみが広がる食卓の選択肢の一つに堺屋の商品が選ばれれば、とてもうれしいですね」

編集長 篠原 正樹

三谷 朋幹 | みたに ともき

1970年 坂出市大屋冨町生まれ
1988年 県立坂出高校 卒業
1996年 丸善工業 入社
2007年 代表取締役社長
2011年 堺屋醤油 代表取締役社長
2013年 香川大学大学院
    工学研究科博士後期課程 修了
写真
三谷 朋幹 | みたに ともき

堺屋醤油株式会社

所在地
坂出市大屋冨町1799-1
TEL:0877-47-3151/FAX:0877-47-3154
創業
1819年(鎌田酒造「屋号 堺屋」)
設立
1947年9月
資本金
3500万円
従業員数
15人
事業内容
醤油、味噌、調味料の製造販売
地図
URL
http://www.sakaiya-soy.co.jp
確認日
2018.01.04

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