オールドウイスキーが 教えてくれた!

サイレンスバー 代表 丸岡 俊文さん

Interview

2013.12.19

時は流れる。5年10年30年と樽の中で静かに眠って、ウイスキーは味わいを増す。

年代物のスコッチなど、主にモルトウイスキーの古いボトルを1千本あまり骨董品のコレクターのように集めている丸岡俊文さん(64)が、モルトバーを開いて25年になる。

作家の伊集院静さんが、2009年11月号の文芸春秋のグラビア記事で「こんなところにある」と紹介した「サイレンスバー」は、丸亀港のはずれにある。

時の流れを閉じ込めたオールドウイスキーは、追憶を呼び起こす。人生最後の一杯と思って飲んだウイスキーが、生きる力を与えてくれた話も聞く。その古いウイスキーを求めて、愛飲家が各地から訪れる。

スコッチ
英国スコットランドで製造されるウイスキー。

モルトウイスキー
麦芽を発酵させ、単式蒸留器で2回蒸留、オーク樽で熟成。原料は大麦 麦芽のみ。少量生産に適し、大量生産や品質の安定が難しい。

モルトバー
モルトウイスキーの品揃えが充実したバー。

店はオールドウイスキーの収蔵庫

丸岡俊文さんは、生産中止のものや入手が困難なウイスキーを、閉店するバーから譲りうけたり、オークションで落札して収集している。

数十年も前にボトリングされたオールドウイスキーは貴重だ。希少価値のある有名銘柄なら、発売当時の数十倍の値を付けることもあるという。

店の棚に並べているのは、スコッチがほとんどだが、五大ウイスキーのアイリッシュやアメリカン、カナディアンに日本のウイスキー、それ以外のニュージーランド、台湾、インド、ドイツのウイスキーもある。

店に収まりきらないボトルは、倉庫で保管しているが、毎年の棚卸しは大変だ。

レア物は売りたくない

「お客様が飲みたいというボトルや、試飲してみたい新製品で手が届くものを、仕入れています」

オールドウイスキーは、1本10万円ほどのボトルを多く揃えているが、手ごろなものは、スコッチの12年クラスで3500円から4000円ほどだ。

50年物のマッカランを120万円で買ったことがある。「アルコール度数の割には、柔らかく飲みやすい超熟成感がありました」

「香りの芸術品」と呼ばれるモルトウイスキーは、「南国のフルーツの香り」とか、「スモークや皮の臭い」といったワインと同じ表現をする。

お気に入りのウイスキーは売りたくないが、そうはいかない。レア物が手に入ると試飲会を開いてお客さんに楽しんでもらう。去年の春、35万円で買ったマッカランの46年物は、希望者が60人いたが先着順の20人で試飲した。

そんな店に、遠方から飛行機便でなじみ客がやってくる。シンガーソングライターで俳優の売れっ子も訪ねてきた。

今年6月、25年の開店記念日には、伊集院静さんから花輪が届いた。

50年物
樽で50年以上熟成させたウイスキーで、ラベルに「50年」と表記されている。

マッカラン
シングルモルトのスコッチウイスキー。樽は、シェリーの貯蔵に使用したものだけを使う。徹底した樽へのこだわりがマッカランの特徴。

バーは港が似合う

生まれは三豊市(旧:三豊郡豊中町)。子どもの頃、神戸の母の実家に預けられ、祖父とメリケン波止場を散歩した。

17歳で東京へ出て、キャバレー・ミカドでバーテンダー見習いを振り出しに、都内のバーを転々としながら、安い給料の範囲で手の届くスコッチウイスキーを買った。

横浜港の近くでバーをやっている友達が何人かいて、休日はよく遊びに行った。バーは港がよく似合うと思った。

店のつくりは樽の中

38歳で初めて店をもった。長距離トラックの運転手を3年間して資金を貯め、足りない分を親に出してもらい、1千万円ほどかけてモルトバーを開店した。

店のつくりは、樽の中のイメージだから暗い。ウイスキーは太陽光や蛍光灯で劣化するから窓もないし、照明に蛍光灯は使わない。元倉庫だった内部は天井が高い長方形。壁一面にビンが並んでいる。ブランド名入りのミラーもある。25年間ほとんど内装は変えていない。

女性のサービスもカラオケもないが、興に乗ればモダンジャズを静かに流す。葉巻はウイスキーには欠かせないから、キューバやドミニカ産の銘柄を常備している。

天使の分け前

スコッチの蒸留所の入り口には、「お静かに。ウイスキーが眠っています」の看板があるという。「おいしくなるために静かな環境が必要だといいますから」

ウイスキーは、年数を重ねるごとに熟成するが、水分やアルコール分の蒸発で少しずつ樽の中の量が減っていく。「天使の分け前」と呼ぶ。

ウイスキーの熟成は、樽の中のわずかな酸素と、樽材成分やアルコールなどの化学反応のはずだが、「静かに」は、熟成をつかさどる天使への配慮かもしれない。

古いものほど新しい

スコットランドのアラン島に1994年、新しい蒸留所がオープンして、160年ぶりに「アイルオブアラン」の製造が復活した。

「樽に仕込んで3年目、6年目、7年目と年数が古くなったモルトウイスキーの新製品を、年ごとに飲み比べると熟成の進化を味わえます」

ウイスキーは、古いものほど新しい。アイルオブアランは3年物モルトで5千円、一番古い新製品は2万円ほどだという。

ウイスキーのおいしい店

33歳の息子の大介さんと2人でやっている店に、珍しいウイスキーが飲めると、ネットや口コミで知ったマニアが訪れる。客層は年配者が多いが、カップルや20代もいる。

「全国に60人ほどいる、親しいモルトバーの店主の話でも、マニアは北海道から鹿児島まで、飲みたいウイスキーを求めてやってきます」

なじみ客の中には、定年退職後にバーを開いた人もいるという。「モルトバーは、仲のいい年配夫婦でやるのが一番です」

天使が熟成を采配するウイスキーだから、そんな店で飲むと一層おいしいのだろう。

齢を重ねるのも悪くはない

丸亀港のはずれの倉庫を改装した「サイレンスバー」 オールドウイスキーの収蔵庫のような店内

丸亀港のはずれの倉庫を改装した「サイレンスバー」
オールドウイスキーの収蔵庫のような店内

この道に入って45年が過ぎた。最近はウイスキーの置き場所が分からなかったり、お客さんの名前をすぐに思い出せないこともある。

だが、「年を取るのも悪くはない。歳月が磨いてくれるものもあるはずだ」。オールドウイスキーに、問われているような気がしてならない。

人も、歳月によって分別や知性を超えて熟成する。

「人生の大半を共にした古い相棒には、敬意を払うだけです」。丸岡さんは苦労を重ねた日々のことは何も語らない。

◆写真撮影 フォトグラファー 太田 亮

丸岡 俊文 | まるおか としふみ

1949年 三豊市(旧:三豊郡豊中町)生まれ
    17歳で東京のキャバレー・ミカドにバーテンダー見習いで入り、
    東京都内のバーでバーテンダーとして働く。
    30代前半に長距離トラックの運転手になる
1987年 サイレンスバー開店
<役職> 日本バーテンダー協会四国統括本部 副本部長
     日本バーテンダー協会香川支部 常任相談役
写真
丸岡 俊文 | まるおか としふみ

サイレンスバー

所在地
丸亀市港町307 32埠頭
TEL:0877-24-3646
営業時間
午後7時から翌日1時まで
不定休
MENU
チャージ \1000
カクテル \1000
ウイスキー \1000
スピリッツW調整 \1000
確認日
2018.01.04

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