「うどん発電」から 「資源循環システム」へ

ちよだ製作所 社長 池津 英二さん

Interview

2014.03.06

無限の資源、再生可能エネルギー・・・・・・事業化の成功を世界のどこより待っているのは、化石燃料の輸入大国で、原発に悩みを抱えている日本だ。

昨年12月24日、産業機械メーカーちよだ製作所が「うどん発電」で売電事業を始めた。

食べ残しなど廃棄うどんを使ったこの仕組みは、飲食店や家庭の生ごみ、牛や豚、鶏などの畜産汚物からエネルギーや肥料を取り出す「資源循環システム」の第一歩だ。

社長の池津英二さん(74)は、石川島播磨重工業の技術者だった。全国や東南アジア、欧州の製鉄所や造船所、発電所やダム工事現場で技術サービスのため働いた。

幅広い技術知識を持つ池津さんは、汎用(はんよう)技術を土台にして、環境・エネルギー問題を解決する、バイオマス事業の拡大を目指している。

バイオマス
化石資源を除いた生物資源の総称。

「何とか出来ないか」

2009年、池津さんに「何とか出来ないか」という2つの相談が持ち込まれた。

香川県産業技術センターから、「うどんを捨てるために費用がかかるし、もったいない」。県内で、うどんに使う小麦は年間約6万トン。食べ残しなど捨てられるのは小麦換算で3千トンにもなるという。

うどんからバイオエタノールを生成する酵母を開発した独立行政法人産業技術総合研究所からは、「廃棄うどんを有効利用する設備を開発できないか」

その4年前、池津さんが「生ごみを発酵させて、メタンガスを製造する研究設備の開発」を東京のベンチャー企業から受注して、千葉県佐倉市に納入していたからだ。

この「何とか出来ないか」の解決策が、廃棄うどんを酵母菌で発酵させてバイオエタノールを生産し、残りかすから発生させたメタンガスを燃料にする「うどん発電」になった。

香川県でうどんに使う小麦量
09年の農林水産省総合食料局「米麦加工 食品生産動態等統計調査」。

ミカン山からトンネル工事へ

1981年、ちよだ商会(本社・東京都日野市)を受け継いで、「株式会社ちよだ製作所」を設立、無人省力運搬車「ニューオートキャリー」を製造・販売した。

ミカン山で使う旧会社の製品、運搬モノレールを、ガソリンエンジンからモーターに変えてトンネル工事の土砂搬出用にした。

「バッテリーは直流だから、モーターの制御機器を交流に改造して、工事現場で壊れても、電器屋さんが修理が出来るようにしました」

狭いトンネルで、レールを敷くのは難しい。枕木の代わりに、金具をハシゴ状にパイプに固定する「パイプレールシステム」を開発した。

池津さんは、汎用技術を使って新製品を造り出す。軽量で、設置も撤去も簡単。凸面のパイプレールを凹面の車輪が走るから、安定性も、制動性も優れている。「ニューオートキャリー」は主力商品になった。

全国のトンネル工事で使われる機械開発

トンネルの掘削工法は、60年代にオーストリアで開発され、日本に80年頃から採用されたナトム工法が主流だ。

掘った直後にコンクリートを吹き付けて壁面の崩れを押さえ、ロックボルトを打ち込んで、コンクリートと岩盤を固定する工法だが、吹き付けたコンクリートが流れ落ちないように急結材を添加する。

欧州から輸入した添加機は、構造が複雑でトラブルが多かったので、セメントメーカーが開発に乗り出した。

「大手企業の技術者は、複雑なプラント設計を手掛けますから、発想が難しすぎます。高度なシステムの機械は、狭いトンネルの中で使いこなせません」

85年、電気化学工業から依頼を受けて開発した、簡単な仕組みの急結材添加機「ナトムクリート」は、現在までに約500台製造した。ほとんどの国内トンネル工事で使用され、海外にも約30台輸出している。

ライバルだった他社の添加機は、数年前に撤退した。

仕事が大きくなった!

97年、大津市の「立木観音 立木山安養寺」で、運搬用モノレールの設置工事をしていた。寺は険しい山腹にあり、弘法大師が建立したと伝えられている。

「夜でした。工事現場の電燈を目指して、住職と歩いていました」。右足を踏み外した。その瞬間意識を失った。

「数十秒後だと思います」。住職の呼ぶ声で気付いた。怪我もなく、鞄を持ったまま横たわっていた。2メートルほど落ちた所の、歩幅ほどの獣道で止まっていた。

「笑われるかもしれませんが、弘法様に命を救われたと思います」。山道から落ちて、物の見方も聴き方も変わった。仕事も大きくなった。

「何とか出来ないか」の解決を、利益より優先するようになった。「多少の赤字は、次の機械の開発費ですよ」。それが連鎖して、次々と仕事を呼び込んだ。

岡山県真庭市をはじめ宇和島市、愛知県の産廃業者からは生ごみの資源化を、大成建設からは、横浜市街地の地下を通るトンネル工事の壁面に自動でゴムシールを張る機械を、NTTからは、携帯電話機の希少金属を回収する炭化装置を、「何とか出来ないか」と相談されて開発中だ。

世の中に役立つ仕事が面白い

廃棄うどんから発生させたメタンガスのタンク

廃棄うどんから発生させたメタンガスのタンク

生ごみや畜産糞尿を資源に変える「資源循環システム」の事業化を目指して、「うどん発電」をスタートした。

足を踏み外した瞬間を、スローモーションビデオを見るように、はっきり覚えていると池津さんはいう。

「私は同行二人(どうぎょうににん)、弘法大師とともに仕事をさせていただいています。命を救われた、というだけではありません。世の中の役に立つことが、本当に面白いからです」

◆写真撮影 フォトグラファー 太田 亮

池津 英二 | いけつ えいじ

1939年 新潟県長岡市生まれ
1958年 長岡工業高等学校 卒業
    石川島播磨重工 入社
1971年 株式会社東洋製作所(高松市)入社
1976年 スギウエエンジニアリング株式会社 入社
1981年 株式会社ちよだ商会(東京都日野市)から事業継承して
    株式会社ちよだ製作所を設立
写真
池津 英二 | いけつ えいじ

株式会社 ちよだ製作所

所在地
高松市香南町西庄941-5
TEL:087-879-7911
FAX:087-879-3985
設立
1981年
代表者
代表取締役 池津英二
資本金
1000万円
年商
4億円(2013年4月期)
従業員数
33人
確認日
2018.01.04

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