空港を地域のショッピングモールに

高松空港ビル 社長 山下 幸男さん

Interview

2014.06.05

蛇口をひねると「うどんのだし」が出てくる。まるで香川の都市伝説のようなことを実際にやってのけたのが、高松空港ビル社長の山下幸男さん(64)だ。

ターミナルビル2階にある特産品展示コーナーの一角。蛇口から出るだしを備え付けの紙コップで試飲できるというもので、うどん持参でやって来る人が現れるほど話題になった。

機内に預けた手荷物を受け取るターンテーブルには、釜玉、きつね、天ぷらの大きなうどん鉢。まるで、「おかえり」、「ようこそ」と出迎えてくれているようだ。「宇高連絡船の甲板でうどんを食べていると高松の街が近づいてくる。かつての帰郷の風景を再現したかったんです」

今年12月で高松空港は開港25周年を迎える。

「空港をもっと楽しい場所にしたい」。山下さんは遊び心満載で、空港のショッピングモール化をもくろんでいる。

奇想天外な活性化策

背景は、「そらの美術館」に展示されていた 「ちょうちょ」。地元、浅野幼稚園の園児が描いた作品

背景は、「そらの美術館」に展示されていた
「ちょうちょ」。地元、浅野幼稚園の園児が描いた作品

「滑走路の下にトンネルを掘って、空港とこどもの国をつなげることが出来ればと思っているんです」

高松空港とは目と鼻の先にある「さぬきこどもの国」。年間約70万人が訪れる入園無料の体験型施設だ。

「夢のような話ですが」と前置きして続ける。「トンネルをLEDで装飾して、途中には面白い仕掛けを作って・・・・・・。日プラさんに協力してもらい天井を分厚いアクリルにすれば、滑走路を地下から見られます。絶対子どもたちは喜びますよね。トンネルは掘れなくても、こどもの国とうまく連携できれば、空港活性化につながると思うんです」

2010年7月にお目見えした「うどんだし蛇口」。ターミナルビル内のうどん店に協力してもらい、毎日6リットルのだしをタンクに入れる。昼過ぎには、ほぼ空っぽになるそうだ。

山下さんは「蛇口からうどんそのものを出せないか」とも考え、大学のロボット工学の専門家らに相談した。結局、蛇口からは出せなかったが、「うどんだし蛇口1周年」の記念イベントで約5センチにカットしたうどんを準備し、紙コップで味わう「空港即席うどん」を振る舞った。やはり大勢の人が詰めかけた。

日プラ
三木町に本社がある水族館の水槽用アクリルパネル製造メーカー。沖縄美(ちゅ)ら海(うみ)水族館などを手掛ける。

非搭乗者も訪れる場所に

高松空港ビルの主な業務は、旅客ターミナルビルなど空港施設の運営や、土産物を販売するテナントの管理、免税品の販売、広告・宣伝など。香川県が約30%、高松市が約20%を出資する、いわゆる「半官半民」企業だ。

「安全安心はもとより、利便性、情報発信、防災拠点・・・・・・空港には、地域の拠点として、やらなければならないことがたくさんあります」

中でも直近の課題は、空港をたくさんの人に利用してもらうこと、空港に人を集めることだ。

社長就任当初、利用者数は落ち込んでいた。リーマンショック翌年の09年度は137万人と、16年ぶりに140万人を下回った。東日本大震災の影響を受けた11年度は132万人だった。

利用者数が、乗降客や路線の増減に左右されるのは避けられない。そこで山下さんは、「飛行機に乗らない人」もターゲットに加えた。

「香川の空の玄関に作品が無いのはおかしいですよね」。昨年開かれた2回目の瀬戸内国際芸術祭には、公式の開催地として初めて名乗りを上げた。2つのアート作品を展示し、空の玄関口としての役割も担った。瀬戸芸開幕に合わせて、100円の入場料が必要だった展望デッキも無料にした。

社員からのアイデアで始めたのが「エアポートウェディング」だ。結婚式や前写しの会場として展望デッキなどを開放している。新たな人生の門出に、空港のロケーションはマッチする。式に空路で駆けつけるお客さんにも好評だ。

「ここに来れば、遊べる、情報も得られる、買い物も出来る。そんな『ショッピングモール』のような場所にしたいんです」

「乗り継ぎ」と「小一時間」

県内の特産品を展示する「空の駅かがわ」。奥には、うどんのだしが出る蛇口がある

県内の特産品を展示する「空の駅かがわ」。奥には、うどんのだしが出る蛇口がある

元々は県庁職員だった。総務、財政畑を進み、政策部長時代に高松空港ビルの非常勤取締役を兼務したことから、県庁退職後、常勤取締役に。10年、代表取締役社長に就いた。

「新しい路線が出来るのはなかなか難しいので、それ以外に何か出来ないかといつも考えています」

一昨年、香川県が石川県と「観光パートナーシップ協定」を結んだ。山下さんは、「乗り継ぎ」に目をつけた。石川県にある小松空港と能登空港に、「羽田空港で乗り継ぎする地方空港同士で手を組もう」と持ちかけた。早速、空港ビル3社で「乗り継ぎ利用促進協定」を結び、互いにポスター展や物産展を開催し合うなど交流を始めた。「他の空港にも広げようと、香川県人会がある北海道の旭川空港、とかち帯広空港にも話を持ちかけています」

空港のある特徴にも注目した。「飛行機は乗るまでに少なくとも45分から1時間くらいの時間がありますよね」。出発間際でも飛び乗れる電車やバスと、飛行機は違う。

ターミナルビル2階に新しく出来たスペースに、県内全市町の特産品をPRする「空の駅かがわ」や、「そらの美術館」などコンパクトなスポットを設けた。「年間、百数十万人が持つ搭乗までの小一時間・・・・・・空港ならではの貴重な時間です」

上海、台北、成田線の就航などもあり、ここ数年、空港利用者数は増加傾向にある。

縁ある高松空港とともに

昨年6月、国や自治体が管理する空港の運営を民間に委託できる「民活空港運営法」が成立した。地方空港を地域の活性化につなげるため、民営化を目指すもので、着陸料の引き下げや効率的な運営が可能になる。16年、全国に先駆けて仙台空港が民営化される見通しだ。

「民営化やLCC(格安航空会社)の参入など、空港は変革期に入りました。今の時代の空港はどうあるべきか、うまくコーディネートしていきたいですね」

高松市三谷町で生まれ育ち、近所にあった旧高松空港が子どもの頃の遊び場だった。遮断機がついた滑走路を自転車で渡り、紙飛行機大会にも参加した。

「今こうして高松空港に携わっていることに、深い縁を感じます」

そして、地方空港の未来についてこう話す。「一番大切なのは、地域と連携し、共生していくことです。空港だけに人が集まってもダメ。香川や四国全体で盛り上げていかなければなりません。目指すは、地域の資源、宝を生かした『地宝空港』です」

◆写真撮影 フォトグラファー 太田 亮

山下 幸男 | やました ゆきお

1949年 高松市三谷町生まれ
1972年 横浜市立大学商学部 卒業
    香川県庁 入庁
2006年 政策部長
    高松空港ビル 非常勤取締役
2009年 香川県 退職
    高松空港ビル 常勤取締役
2010年 代表取締役社長
写真
山下 幸男 | やました ゆきお

高松空港ビル株式会社

所在地
高松市香南町岡1312番地7
TEL:087-835-8100
FAX:087-835-8104
設立
1987年8月
資本金
15億円
従業員数
24名(2013年7月現在)
事業内容
空港ビル等に付帯する施設・設備・器具の賃貸業、
空港見学者用施設の経営 など
株主
香川県、高松市、全日本空輸、日本航空 他
確認日
2018.01.04

記事一覧

おすすめ記事

メールマガジン登録
メールマガジン登録
ビジネス香川Facebookページ