女木島、三豊、津田
三人が選んだ「地域」の可能性

Prime Person 新春スペシャル企画

Interview

2024.01.04

左から中條祐太さん、樋口憲一さん、黒川慎一朗さん=高松市古新町のリーガホテルゼスト高松1階ラウンジ「アルゴ」

左から中條祐太さん、樋口憲一さん、黒川慎一朗さん=高松市古新町のリーガホテルゼスト高松1階ラウンジ「アルゴ」

ビジネス香川恒例の新春スペシャル企画。今回は、香川でビジネスを手掛ける3人の経営者に集まっていただいた。

「目指すは三豊のシリコンバレー」「生まれ育った東京を離れ、離島で農業」「大学で学んだ都市計画を地元で実践」……。

思い描く目標は様々だが、そこには「地域を盛り上げたい」という揺るぎない決意が共通する。彼らは地域にどんな魅力を感じ、なぜ舞台として選んだのか。熱い議論の中から、地域が持つ大きな可能性が見えてきた。

丸亀市出身の樋口憲一さん(43)は2015年、スイーツや釣り具などをECサイトで販売する「株式会社本気モード」を三豊市詫間町で設立。通信事業やコンサルティング業も手掛けるほか、昨年7月には旧大浜小学校跡地にスイーツ製造工場「大浜スイーツアカデミー」をオープンした。

樋口:「大浜スイーツアカデミー」では“割れチョコ”を活用し、ケーキやチョコレートをつくる計画。なぜ小学校を購入したのかというと、そこに地域の雇用を生み出したいから。我が社が手掛けている通信事業とも連携し、防災や医療など、この地域の豊かな暮らしの実現を目指していきたい。

なぜ三豊市詫間町で?

樋口:とても単純です。ある日、自宅がある丸亀から詫間に向かっていた時、道路が大渋滞していた。「これを何とかしたいなあ」と思ったのがきっかけ。渋滞の先にあった詫間のまちがめちゃめちゃいいところで。夜、車で走っていたら、キラキラと海の水面が揺らめいて美しくて……これが「きれい」と思えたのは詫間のおかげかなぁと思った瞬間、「詫間愛」が芽生えました。地元の人と一緒に、地域を盛り上げていきたいですね。

東京出身の中條祐太さん(28)は、2021年に友人らと高松市の女木島に移住し「合同会社鬼の畠」を設立。ヒラタケやキクラゲなどのキノコ類、ニンニク、トウモロコシ、タマネギなどを生産販売し、昨年はカフェも開業した。

中條:私の会社ではシンプルに農業をやっています。女木島の人口が減ってきているのを危惧し、樋口さんと同じく、「雇用を生んで人口増へ向けて発信していこう」と。キクラゲはコンテナで人工的に育てているので、島であっても栽培や資材の面で効率がいいんです。

樋口:「島が農業に向いている」というのではなく、人口増のために「農業」を選択した?

中條:そうです。人口減に伴って、荒れた畑も増えていて。景観を維持しつつ、雇用増と人口増を一緒にできればと。

なぜ女木島で?

中條:元々、祖母が地元の香川で長年、地域おこしの活動をしていた。その舞台の一つが女木島で、私も幼い頃からなじみがあった。祖母はゲストハウスを手掛けたりイベントを開いたりしていたが、「これだけでは人口が増えない。どうしようか?やはり雇用を生まなければ」と。それで私に声を掛けてくれた。新しいことに挑戦できるし、起業も魅力的で面白そう。とても良いチャンスだと思って移住を決めました。

黒川慎一朗さん(25)は大阪大学工学部卒。在学中の2020年に「株式会社ゲンナイ」創業。地元さぬき市津田町にUターンし、空き家・空きアパートの利活用などを手掛ける。昨年5月には、古民家を改装し、長期滞在施設と図書館を組み合わせた「うみの図書館」をオープン。

黒川:まちづくりに興味があり、大学で「都市計画」を専攻していた。中でも、農村漁村の都市計画。徳島・神山町、宮崎・日南市、岡山・西粟倉村など、「移住」や「脱炭素」で注目を集める地方創生の先進地域を年間10カ所ぐらい現地調査し、「地域で何かをやる」ということにポジティブなイメージがあった。大学4年の帰省していた時に新型コロナが流行。大阪にも戻れないし、「じゃあ、このまま起業しようか」というのがきっかけ。“ラフな”感覚で始めました。

「うみの図書館」が話題になっている

黒川:私が学んだ都市計画は、簡単に言うと、5年、10年の「まちの計画書」をつくること。「これが足りないなぁ」「こういったものがあればいいなぁ」という“足りないピース”を補うもの。「カフェ」や「朝食が食べられる店」などは他の人が埋めてくれるかもしれないが、おそらく「図書館」のピースは埋まらない。「じゃあ、やってみよう」と思ったんです。

「地域」でやってみての感想は?

樋口憲一さん「IT駆使し、暮らしを豊かに 目指すは三豊の『シリコンバレー化』」

樋口憲一さん「IT駆使し、暮らしを豊かに
目指すは三豊の『シリコンバレー化』」

樋口:住みにくい、食べるところが少ない、遊ぶところがない……いろいろ思うことはある。「なぜ、こうなったのか?」と考えると、「やる気のある人が少ない」のも一因ではないか。三豊に大学はないが、「出ていくきっかけ」はあり、やはり“田舎はダサい”というイメージがある。空き家もたくさんあり、一人暮らしのお年寄りも多い。このままだとどんどん破綻していく。「誰かがやらなければいけない」と思い、放っておけなかった。今の目標は「三豊のシリコンバレー化」。エンジニアを招いて、通信やITを駆使して、大きくガサッと変える。田舎を“カッコいい”イメージに変えたいと思っています。

黒川:食べるところや遊ぶところが少ないというのは同じ感覚です。行政の手が回らないことは多いし、だからこそ「自分たちでつくろう」と思った。知り合いが訪ねてきても連れていける良いランチの店がない。「じゃあ、おいしいピザ屋さんをつくろう」と。電車で志度まで行かないと本すら借りられない。「じゃあ、図書館をつくろう」と。今、図書館に週2ペースで通ってくれる高齢のおばあちゃんがいるんです。「つくってくれてありがとう。本当に良かった」と喜んでくれて、毎回本を1冊ずつ寄贈してくれるんです。

樋口:それ、すごいね。うれしいね!

中條:私が島に入って強く感じたのは、雇用を生む以前の問題。「住む場所がない」ことですね。今はその問題をどうにかしたい。不動産の相続や運用の仕方など、島の人たちと一緒に勉強しながらサポートするような団体を立ち上げて取り組みたい。賛同してくれる人も増えているので、一歩ずつ前に進めたら。

樋口:やっぱり仲間を引っ張ってこないとね。

中條:そうですね。外から内からも。Uターンを狙いたいです。

樋口:やり方はいっぱいありそう。

「地域を盛り上げたい」というエネルギーの源は?

中條:純粋に「島が消えてしまうのが嫌」なので。最初は「楽しそう」という軽い気持ちで来たが、約2年経ち、環境にも慣れ、知り合いも増え、すごく受け入れてもらい、島の人との繋がりも深まった。だから、大事にしたい。あとは、女木島はめちゃめちゃきれいなところなので、やっぱり後世に残したい。

黒川:私の行動のモチベーションは、「地元愛」よりも、好奇心とか、“実験したい”という欲が強いかもしれない。自分が立てた仮説をうまくできるかどうか試してみたい。「こうやったら民間でもできるんじゃないか」「こうやったら人が集まるんじゃないか」と。ロールプレイングゲームをやっているような感覚ですね。例えば「海辺の店の数を倍に増やす」とか、クエスト(クリアすべき課題)を設定して、一つずつクリアしていく。それが結果的に地域のためになるならとても良いと思う。

「好奇心」「実験」「ゲーム感覚」でチャレンジする黒川さん。ビジネスとして成り立っているのか?

黒川:今は「儲けること」が全てではないと思っている。儲けないのは良くないが、利益は「実験資金」。売上が大きければ大きいほど、いろんなことにチャレンジできるという感覚。実は、中條さんのように農業もやってみたいと思っているが、現状では実験資金が足りない。「じゃあ、もう少し先だな」と。試したいことありきで「だから、これぐらいの資金が必要」と考えることが多いですね。

黒川さんは2020年に、中條さんは21年に現在の事業をスタート。一方、樋口さんは15年に開業。現在、従業員120人、年間売上は約20億円と、順調に業績を伸ばしている。

“地域ビジネスの先輩”樋口さんに聞きたいことは?

黒川慎一朗さん「『RPG感覚』研ぎ澄まし 津田の“クエスト”クリアへ」

黒川慎一朗さん「『RPG感覚』研ぎ澄まし
津田の“クエスト”クリアへ」

黒川:「これをやり始めてから軌道に乗った」「フェーズ(局面)が変わった」ということはありますか?

樋口:う~ん……。事業を始めた時から「絶対いける」という自信しかなかったので(一同笑)。ごめんなさい、答えになっていないですね。でも、先ほど黒川さんが話していた「ゲーム感覚」というのは私も同じで、その気持ちは良く分かる。自分の中では「仕事とプライベートを分ける必要はない」と思っていて、社員にも「一日の3分の1は仕事をするという人生を過ごすなら、『どうやったら楽しめるか』ゲーム感覚で考えよう」といつも話している。“実際”と“ゲーム”はよく似ていて、裏切りもあれば、思ってもみないことも起きる。プラスに行ったらマイナスにも転じる。このボラティリティ(変化の幅)こそ人生。ボラティリティを楽しむことができれば良いのかなぁと。だから、まだまだ若い中條さんや黒川さんが「クエストだ~!」と楽しそうにチャレンジしている姿を見るのはうれしい。その感情を絶やさず、真っ直ぐ進んでほしい。

地域でうまくやっていく秘訣は?

樋口:とにかく地元と仲良くすることですかね。三豊市はとてもやりやすい。派閥はありますけど(笑)。でも、ネガティブに感じたことは一度もありません。

中條:私もそうです。そもそも、ネガティブに考えてしまうと、今やれていないと思う。

樋口:そうそう。みんなウェルカムで、良い人たちばかりです。

2024年の目標は?

中條祐太さん「コミュニティの強さを生かし 島に『人を呼ぶシステム』つくる」

中條祐太さん「コミュニティの強さを生かし
島に『人を呼ぶシステム』つくる」

中條:女木島の人口増へ向けて、物件の整理なども必要だと思っている。まずは「住む場所がない」という問題をなんとかしたい。そこに手を入れつつ、さらにやっていきたいのが「関係人口」。農業を生かして、例えば観光農園とか、島の暮らしを疑似体験できるような仕組みとか、関係人口づくりに向けて「島の中に人を呼ぶシステム」をつくっていきたいと思っています。

樋口:私はやはり「三豊のシリコンバレー化」ですね。元IT大手の新しいメンバーも加わる予定。香川高専詫間キャンパス生など地域ともしっかり連携して、いろんなことにチャレンジしたい。カッコいい田舎、“イナカッコいい”を絶対に実現させます。

黒川:きょうの話を聞いただけでもいけそうな気がします。

樋口:構想は固まっているので、あとは着々と進めるだけです!

黒川:私が今力を入れているのは、津田の松原付近約1kmの通りの店舗を増やすサポート。元々5店舗だったが、昨年はピザ屋さんなど6店舗増えて11店舗に。これを15店舗ぐらいまでもっていきたい。そして、もう一つ大きな目標がある。まちづくりを、もっと大きな視点、大きなエリアで考えて……「津田-小豆島」の定期航路をつくりたいんです。今は姫路経由か高松経由が一番早いが、津田経由になれば数十分短縮できる。そうなれば、関西の人が小豆島を検索した時に「津田」が出てくる。これは大きなインパクトがある。5年後ぐらいを目標に何とか実現したい。私が挑む大きな“クエスト”です。

最後に改めて聞いた。「地域」の魅力とは―

黒川:やるかやらないか、その差が大きいのが面白いところ。やりがいも大きいし、目に見える結果も得られる。例えば東京や大阪で、ある“クエスト”を達成しても、それは本当に自分でやったのか、他の人の力が働いたのかが分からないし、都会で起こせる変化と、津田で起こせる変化の幅も大きく違う。その「変化幅」で見た時に、やっぱり面白いなぁと感じますね。

中條:やはりコミュニティの強さが一番の魅力だと思う。コミュニケーションが希薄な今の時代、隣の人の顔も名前も知らずに日々を過ごすのは当たり前。でも女木島は違う。すれ違う人みんな顔なじみで、毎日「おはよう」から「おやすみ」まで、まるで一つの学校のよう。そういったものが不足している人には、ぜひ島に来てほしい。

SNS時代の真逆ですね?

中條:まさにそう。その距離感が私にはとても心地良くて。それを大切に、もっと育てて、発信していけたらと思っています。

樋口:地域の魅力……「三豊の何が?」「どこを?」と尋ねられても、言葉ではなかなか表現できない。360度良いんですよ。単純に、素直に。空気もきれいだし、水もきれいだし、人も良い。空を見上げれば鳥が飛んでいて、土を掘ったらミミズがいる……それが全てじゃないですかね。

篠原 正樹

中條 祐太 | ちゅうじょう ゆうた

1995年東京都三鷹市生まれ。2021年、高松市女木町の女木島で「合同会社鬼の畠」設立。趣味・特技はボードゲームと料理。好きな映画は「孤狼の血」

樋口 憲一 | ひぐち けんいち

1981年丸亀市生まれ。2015年、三豊市詫間町で「株式会社本気モード」設立。好きな映画は「ラーゲリより愛を込めて」。座右の銘は「有名無力 無名有力」

黒川 慎一朗 | くろかわ しんいちろう

1998年さぬき市生まれ。2020年、津田町で「株式会社ゲンナイ」設立。趣味はDIYで、愛読書は「贈与論」。座右の銘は「正しいことより面白いことを」

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